59,元高校球児は飛んでみせます
土煙が舞う。
奈央がドラゴンに話しかけた瞬間、ドラゴンの右腕が奈央がいるところ瞬間的に叩きつけた。
衝撃音とともにその場にいる全員が奈央がいた方向に振り向く。
<ふん、たわけが。ほらそこの女、早くこっちにこい>
ドラゴンは右腕を戻しながらワンミを見ている。
「何!何が起こったの?!」
「ドラゴンの攻撃です!そこに奈央さんがいました!」
混乱する薫を令が落ち着かせる。
「ああ!ドラゴン様!申し訳ありません!申し訳ありません!」
村長はその光景を見ると再び土下座している。
少し遠くから見ているマイルたちは、
「おねぇちゃんが!どうなったの!どうなったの!」
「落ち着きなさいよマイル!ねぇワンミ!奈央は無事なの?」
「大丈夫」
マイルとマーナが慌てふためく中、ワンミは静かに見ている。ドラゴンの視線は無視して。
<どうしてこない?奴は死んだぞ?>
「いいえ、死んでいません」
ワンミは奈央がいたところ、いるところをジッと見る。
そこには攻撃を受けたはずの奈央の姿があった。恰好は綺麗なまま。
「ドラゴン、あなたの攻撃は効きません。諦めてください」
奈央は再度同じ警告をする。
(ふぅ……危ない、危ない)
奈央は心の中で一息つく。
(まさかいきなり攻撃するとは思わなかった。避けれたけど)
自身を影にし、その場から形を消す。裏世界にいくように。やっぱり黒魔法は便利だ。
反射神経もまだまだ現役で良かった。確かにドラゴンの攻撃は速かったが、野球のピッチャーライナーの打球速度に比べれば大したことはない。というより的が大きいせいかスローに見えた。
(きっとこのまま戦闘になるんだろうな……倒せるかな)
薫たちに戦闘になることは伝えている。というか察している。
奈央のわがままで今回序盤は一人でやれるところまでやりたいと志願している。
もちろんできるなら勝利したいが、おそらくあのドラゴンには苦戦どころか一人では無理だろう。
やらなければならないのは。
「ドラゴン、あなたは確かに強いです。でも自分はその攻撃を避けました。人間も強いんです。だから食べるのは諦めて一緒に暮らしましょう」
奈央は訴える。ダメだと分かっていても。あくまで建前として。人間サイド、少なくとも奈央たちのサイドは戦闘蛮族ではないことを証明するために。
極力闘いは避けるのが奈央たちのモットー。自分から血を見たいとは思わない。
奈央だってドラゴンと仲良くしたい。向こうの世界では見ることのできない、あまりに巨大な背中の鱗とその背中。それを落ち着いて拝みたかった。
<ふん、たまたま程度で!>
ドラゴンは再度右腕を振り下ろす。しかし奈央は同じようにかわしてみせた。
「たまたまじゃありません。あなたの攻撃を見て避けているんです」
<舐めるな>
ドラゴンは思い切り口を開ける。
(ブレスがくる!)
威力次第では広範囲に攻撃が及ぶ。今回はかわせない。かわすと後ろにはワンミたちがいる。
奈央は沼を空中に召喚し、あの時落石を吸収してみせた時と同じ用法で構える。もちろんは魔力は最大で。
ドラゴンのブレス。らしく真っ赤なそれは球体で奈央に向かう。
奈央は沼をコントロールし、それをキャッチングする。ちぎれないように魔力を込める。
そしてスッとお互いの魔法が空中に解ける。
「やめて!戦闘したいわけじゃない!」
<黙れ小娘が!木端微塵にしてやる!>
ドラゴンは奈央の強さに納得できないのか、激怒し始める。
(闘いはこれから!)
ドラゴンは翼を広げ飛ぶ準備をしながら、再度腕を振り下ろす。
「何度も効かない!」
今度は奈央の番、受けばかりでは埒が明かないので攻撃を仕掛ける。
奈央は腰の木製の短刀を取り出す。刃の部分は短いが、持ち手部分は長く両手でも持てるもの。レンヘム戦ではちゃんと使用しなかったが、今回はメインで使うブキ。
(薫さんと同じように……)
刃に魔力を込める。アニメやゲームで見た、あのビームソードのように。
奈央の魔力の刃は紫のような黒色に近い剣が伸びる。
そのまま影魔法で一気に加速に使い、ドラゴンの右片翼ど真ん中を割く。
(これが切った感触……)
奈央は包丁で調理したことがない。料理はすべて作られたものを食べてきた。何かを断ち切る。今回ドラゴンの感触は良いものではなかった。
切った衝撃音と血しぶきが一気に舞う。奈央にも少しの返り血が飛ぶ。
<……!>
ドラゴンは何が起こったか、分からない様子。しかし自身の翼が割かれたことに気づくと飛び立つ行為を止めた。
<やるな……こちらも全力を出さねばなるまい!>
次の瞬間、割いたはずの翼が元通りくっついていた。
(やっぱり魔力が高いと回復できる……!)
この瞬間、奈央も魔力を回復している。まだ試していないが身体もドラゴンのように魔力を使うことで戻せるのだろう。最難度な治癒魔法、しかし魔力さえあれば簡単に出来てしまう。
<本当の戦闘についてこい!>
ドラゴンは飛び立つ動作なく、飛翔した。
ついていかなければ敗走する。奈央も飛ぶ準備をする。
(影を背中に!形は適当に!)
イメージする。魔力を使って飛ぶんだ。そしてコントロールしやすいように翼を生やす。
そうして生えた翼はあみだ状左右非対称に展開され、こちらの色も黒に近く、見るからに禍々しいものが完成する。
奈央は翼がどのようになっているか背後を確認する余裕はないのでそのままドラゴンに追いつくように飛翔する。
「人間だってこの世界なら飛べる!」
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