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57,元高校球児は作戦会議中

「マイル君良かったね、マーナと合流出来て」


 夜のとばりが落ち始める頃、奈央とワンミがいた馬小屋に迷い込む。というより探していたようだ。

 マイルは奈央たちを見ると嬉しそうに表情を変えたが、周りのいきものに気づいた途端曇ってしまう。

 マイルたちが駆けつけてこの場所に来たため、馬たちが驚き立ち上がっていた。そして曲者ではないか見定めるようにマイルたちを囲う。マイルたちからすればかなり巨大ないきもの、奈央たち以上に威圧感を感じるだろう。

 当然マイルたちはびっくりし、すくんでしまう。漏らさなかったのは度胸がある証拠かもしれない。それぐらい奈央たちが乗っている馬は大きいのだ。

 それから奈央は馬を宥め、4人で団欒を取るように落ち着く。こうしてこの4人で落ち着いて話すのは初めてかもしれない。


「マーナはそんなに遠く行っていなかったからすぐ見つけたよ。その後村長のところに戻ってもしょうがないから……そしたらあんまり人気のなさそうなこの場所に入ったんだけど……びっくりした……」

「あんたが勢い良く入るからでしょう?!う、ま?ていうんだっけ、凄いびっくりしてたよ!」

「だって……」


 これが本来のマイルとマーナの会話。歳相応で仲睦まじい光景。

 マーナは楽しそうに会話している。マイルも笑顔、奈央は何故か涙をこぼしそうになった。


「そうじゃなくて……奈央おねぇちゃんたちはどうしてここにいるの?村長のところは?」

「村長はマーナを見捨てる人だから、話が合わなくてね……」

「でも今日祭りだから……そのワンミが……」

「大丈夫だよマイル君、影武者がいるから」

「……!」


 ワンミもびっくりする、当然だ。村長鄭から離れる時にしれっとそれを置いてきた。

 奈央は魔法でワンミの影武者を置いてきたことを3名に伝える。

 その影武者はパッと見では判別しづらいこと、うんやはいといった簡易的な会話が可能なレベルであること。中身は黒霧のような感じで食べてしまうともの凄く苦く痺れるようにしたこと。

 マーナはにやりとし、



「ふん、いい気味よ!わたしの大事な時間ずっとあいつに取られたんだから許せるわけないよ!」

「マーナはやっぱりドラゴンが嫌?」


 奈央は問いかける。これからどうするか。


「もちろん嫌よ!あいつのせいでしょ?おじいちゃんがあんな感じになったのも!おじいちゃん昔はもっとマーナに優しかった!いつからああなったのマイル」

「うーん、マーナの様子がおかしくなってわりとすぐかな……僕にも冷たかったから」

「本当におじいちゃんどうして!そんなにあのドラゴンが怖いの!ぱぱっとやっつけることできないの?」


 マーナはぷんすか可愛く怒っている。マイルはどうどうと宥めている。その光景が微笑ましい。

 ではなく、


「マーナ、マイル君。あのドラゴンはかなり強いよ。魔力鑑定をしたら自分よりもステータス、えっと……能力が高いんだ。だからただ戦闘するだけじゃ勝てない。少なくとも村長一人でどうこうなる相手じゃないんだ」

「そんな……」

「正直言うと自分一人でもどうにかなるか分からない……もちろん薫さんと令さんに協力してもらうつもりだけど、それでも……なんだ。でもひとつ言えることは、ワンミが取り込まれなくて良かった。それだったら取り返しのつかないほど強力になっていたと思うから」

「それならどうするの?奈央おねぇちゃん?」

「えっと……頑張る!」

「何か作戦はないの?」

「闘いながら動くしかないかな……ある程度は自分の中ではあるけど、自分にしか出来ないから。だから頑張るんだ」


 これは試練。過去の自分とこれからの人生、それの試験。

 過去の経験を肯定する。決していい過去ではないし、誤りもしている。でもそれを無駄だと思わない。そうするためのケジメ。


(ドラゴン戦、魔力はフルに使うだろうな……)


 令から支給されている魔力回復薬は常備している。それに魔力回復魔法にも慣れてきたので、どんどん回復量も増えている。

 

(自分に自信を持て!)


 自信がなければワンミと共にこれからは歩めない。彼女を連れていけない。

 そのワンミは、


「自分も手伝いたいです」

「ワンミさん……戦闘になったら本当に危険だよ。失敗すると……」


 これは奈央自身に言っている。

 ゲームじゃない。ゲームのような世界ではあるが実際に生き、死ぬ。レンヘム戦ではあと少しでも間違えれば死人が出ていてもおかしくなかった。ましてや自分がそうなる可能性すらあった。

 失いたくない。そんな気持ちが奈央を襲う。


「私も奈央さんのために動きたいんです」


 ワンミは違う。覚悟が出来ている眼。その眼を覚えている。

 あの日、体を壊すあの日の朝の顔。あちこち痛み歪んでいたのに眼だが据わっていた。


(そうだ、自分も……)


 たとえ身体が壊れようと、魔力が尽きるまで抗ってやる。


「ありがとう、ワンミさん」



 そして祭りが始まる。


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