表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/95

54,元高校球児は過去に出会います

 それからの生活は有意義なものだった。

 学校のある朝は時間ギリギリに登校、授業が終われば即帰宅。もう練習のためにあんな朝早くに起きることも、日が暮れた後に帰ることもない。

 休日は家でゴロゴロ漫画をみたり、ゲームをしたり。好きな時に起きて、好きな時間に食べて、好きな時間に寝る。

 最高だった。

 なのに感じる虚無感はなんだ。イラつく。

 もうキツイ練習をしなくていい、辛い練習に耐えることもない。周りの期待なんて応える必要もない。勉強なんて卒業できればそれでいい。

 どうして自分は学校に行っているんだ?そうだ、面倒だが人並みにはしたいからか。


 それから冬になるまで、あくるようにゲームをした。レース、アクション、RPG、SF、シューティング。どれもたまらなく楽しかった、なのに満たされないのはなぜだ。


 あくるように漫画を見た。ギャグ、ファンタジー、SF、ホラー、恋愛、スポーツ、学園。後半の方のジャンルは最後まで読んでいない、何故か途中で飽きてしまう。


 あくるようにお菓子を食べた。塩味から甘未まで。最初はポテトチップスを何回も何回もビッグサイズを買い占めた。それに飽き始めたら今度はケーキだ。ホールケーキを丸々食べたの良かった。ゲームをしながら、漫画を読みながら、今まで知らなかった沢山の種類のお菓子を食べ続けた。でも気持ちが晴れない。カップ麵を食べても同様だった。



 彼女は別の男子と付き合い始めた。同級生のサッカー部、成績は良く、イケメン。人望も厚く奈央がいなくなった今、人気の中心にいる。

 どうでも良かったはずだ、なのにモヤモヤするのは何故なのか。



 1年の12月、興味あったゲームをやりつくし、漫画もあとは古本を探すだけとなった。

 スマホを触っている時、一つの興味が沸いた。

 SNS、奈央は野球に明け暮れる日々で今まで手をつけたことがなかった。ゲームのキャンペーンで仕方なく入れた時、色んな事をつぶやている人々、面白かった。

 真似して初めてみる。今回はあまり目立たずに、どうせろくなことがないのは経験済みだ。

 例えばこの人が有名なのか分からないが、男性観に関して色々あれやこれやと言いたい放題、ケンカふっかけ放題ものが流れて来るが、あんな四六時中問題起こすようなことはやっぱり御免だ。

 それからゲームの攻略についてSNSで見て調べている時、一人のつぶやきを見る。それが目に留まったのは奇跡だろう。数ある無数のつぶやきの中で何故彼のつぶやきが目に留まったのか、今なら分かっている。


『今日もゲーム楽しかった、いいなー僕もゲームのキャラみたいに自由に動きたい。僕は身体が弱いから』


 それから彼のつぶやきを見続ける日々、気づけばフォローしていた。ある時彼がゲーム配信している告知を確認し、観にいった。

 彼は自分と違い、本当に楽しそうにゲームをいている。自分しか観ていない配信、それなのにも関わらず、話を止めない。ペラペラとゲームについて話す。

 特にあのつぶやきと同様憧れに関するトークが多かった。僕も、そんな感じの内容だった。

 それから気づけば配信ある日は欠かさず観ていた。自分しか観ていない配信、視聴者数は「1」から動くことはない。それでも楽しそうに。

 そんなある日、彼がゲームの攻略につまっていた。謎解き要素のある個所、気づくまでに中々時間のかかる内容。しかし彼はあさってな方向に進んでおり、いつまでもシナリオが進行しなかった。



『どうしたらいいんだろう……僕って頭も良くないからなー……』


 しょんぼりしていた。それが奈央の胸をざわつかせる。

 気づけば奈央はコメントを送っていた。そういうことはもうしないと決めていたのに。

 だが、


『あー!本当だ!ありがとうございます!えっと、日立、奈央さん!いらっしゃい観に来てくれてありがとうございます』


 フルネームで登録していたことを失念していた奈央は、恥ずかしくなる。しかしそれが彼との初めての邂逅だった。



 それからほどなくして、彼と一緒にゲームをすることが増え、気づけば毎日のようだった。


『奈央さん、本当にお上手です。やり方教えてください!』


『へぇ~、そんな漫画があるんですね!今度読んでみますね!』


『僕も奈央さんみたいになれたらな……』


 ひと月くらい経った時、そんなことを彼は言った。


「じ、自分なんて大怪我してから何もないよ……」

『大怪我!?大丈夫なんですか?!』

「う、うん、今はもうね。腕は上がらないけど……」

『そうなんですね。自分は身体が弱くて……だから運動できる人が羨ましいんです』

「そ、そうなんだ……それって聞いてもいい?」

『大丈夫ですよ!むしろ奈央さんには話したいくらい。僕は体が弱くて実は学校に行けていないんです』

「そ、そうだったんだ……」


 確かに彼は平日の真っ昼間にゲーム関連のつぶやきをしていた時があったが、そういうことだったのか。


『ああ、気にしないでください。そこらは仕方ないって分かっていますので。その気を紛らすためにゲームを始めたんです。そしてネットも始めてみて、反応は薄かったですがこうして奈央さんと出会うことができました』

「そ、そっか……」

『奈央さんと出会ってからの毎日、凄く楽しんです!ゲーム内で友達になるの最初はちょっとドキドキしたけど、今はもう!前はもう前みたいに弱気に考えることも少なくなりました』

「じ、自分もそうだよ」


 なぜだろう、最近モヤモヤは幾分かなくなっている。ただゲームをして、ただ見知らぬ少年と話しているだけなのに。

 弱気、おそらく自分は違う。それではない、それじゃないことは分かるが原因まではつかめない。

 ただ彼とのゲームの日々は充実だった。



 それから桜が咲くころまでワイワイと二人で色々なゲームをやり続けた。時に攻略に四苦八苦し、時にふざけあい、時に協力しあった。

 次はどのゲームをやろうか、ワクワクしていた最中、突然彼からの連絡が途絶えた。SNSも稼働していなかった。

作者:ブックマーク登録、評価いただけると励みになります!気軽によろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ