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50,元高校球児の元の理由

「あ、馬……さん……でしたっけ?ここで休んでいたのですね」

「そう、ここなら村の人も来ないと思って」

「はは!くすぐったいです!」


 ワンミを出迎えるように馬たちが寄ってくる。赤栗毛の馬だけは奈央に真っ先にすり寄る。

 奈央はワンミとしっかり話せる場所として、馬たちを待機させていた小屋を選んだ。

 それまでの馬たちは令が定期的に訪れ、世話をしており、奈央の作成したお手製クッションで完全にだらけていたようだ。おかげで村に迷惑かけることなく、大人しくしていたが、帰り体力が落ちていないか不安だ。

 ワンミと奈央、馬たちの再会を済ませひと段落、馬たちは察しがよくそれぞれのクッションに戻り寝ている。

 奈央たちはスペースがある壁に体育座りする。


「ワンミさん、その……大丈夫ですか?村長が色々言っていたから……」

「大丈夫ですよ。というより、実感がわかないというか……母親に関しては物覚えついたときにはいなかったですから。生贄……に関しては、そんな風なことは村長から、前のマーナから言われていましたから……」

「そう……」


 ワンミの乾いた笑い、それが奈央の気持ちを締め付ける。


「ワンミさんは、生贄なんて嫌だよね?」


 奈央素直に聞く。ワンミの目を見ながら。


「……自分でもよくわかりません……どうしたいのか……そうなるって言われたから……でも、生きたいなって思って……逃げ出してしまったけど、マーナに見つかって……あ、やっぱりダメなんだって……何もかも諦めて……だけど……」


 涙を滲ませながら話すワンミに、奈央は自然と抱きしめていた。


「ワンミさんが逃げてきて良かった」

「え?」

「確かにマーナが追ってきたけど……自分はワンミさんに出会えたから」


 奈央は自分の気持ちを正直に伝える。


(誰かを頼って逃げたっていいんだ……そうしなければ……)


 奈央はそのままゆっくり話す。


「自分さ、ワンミさんには言ったけど転生したんだ。てことは一度死んでてね。まぁあの時もそうなんだけど、その前にも実質一度死んだんだ」

「そう……だったんですか……」

「命の危険とかじゃなくて、精神的にって言った方が正しいのかな……だから、ワンミさんにそうなって欲しくないって。これは自分のわがままかもしれないけど……」

「いえ。奈央さんたちが来てからの日々は、その……楽しいとうか、賑やかで……私をよく見ていてくれるのが……本当に嬉しかったんです」

「それは当たり前だよ!ワンミさん可愛いし!」

「か、可愛い!?初めて言われました……」

「そうなの?!薫さんのセリフ借りれば……かー!センスない男ども!っていうやつだよ」

「くすっ」


 少しは和むことができただろうか、ワンミから微かな笑い声。ムードメーカーである薫のモノマネしたのが良かったか。

 大丈夫かな、奈央は一度ワンミとのホールドを離そうとした時、ワンミから抱きつき返され、


「その……奈央さんの過去のお話聞いてもいいですか?前は途中だったので……そのもっと知りたいです」

「うん、分かった」


 奈央はゆっくりと蓋を開ける。閉ざしていたあの日々を、ワンミとなら乗り越えていけるから。



 奈央は中学校を卒業してすぐ高校の部活に参加していた。3月のまだ肌寒い季節、野球である程度体は暖かくなるといえど、長袖は手放せない季節。

 高校の練習は中学のシニアに比べれば全体的に緩かった。勉学に力を入れる校風ゆえ、甲子園にいけるかギリギリのライン、昨年はベスト8どまり。でも家族心配させないためにもこの学校を選んだ。後悔はない、自分の力を存分に発揮して甲子園を目指す。

 今日の練習もミットに快音を轟かせながら、投手能力を上げ続ける。速球は全国の中の上位の実力だが、奈央は多彩な変化球をキレ良く投げられることが最大の武器だ。

 練習を終え、奈央の元に3年の人望ある部長でありキャプテンがやってくる。守備はファースト、体格はいわゆるスラッガータイプで野球部イチだ。


「奈央、明日の練習試合だけど、先発任せもいいか?」

「自分ですか?もちろんですキャプテン!」

「あー、それなんだけどな……相談というか……奈央、お前キャプテンやってみてみないか?」

「え?!自分がですか?!」

「ああ。奈央の指示でやってほしいメニューだったり、トレーニングだったりを受けた方が甲子園に近づくと思ってさ。やっぱり去年悔しかったからさ。それに個人的にも甲子園はどうしても行きたいし」

「じ、自分今までキャプテンなんてやってきたことないですけど……大丈夫ですか?」

「大丈夫。普段通りでいいんだ。みんなも分かっているし。お前がうちの学校に来てくれて本当に良かったよ」


 部長はそう言いながら奈央の肩をポンポンと叩く。


「お前、不思議そうな顔してるけど、自分が思っている以上に有名人なんだぞ。地域でもそうだけど、野球でもお前の変化球は一級品だからな。そんな強い人のもとで俺たちはやりたいんだ。今は二人で話しているがこれは部員全員の総意だ。だからぜひお願いしたんだ」

「わ、分かりました。お手数かけると思いますがよろしくお願いします」

「大丈夫だ。相談し合いながら色々なことを決めていこう」


 こうして奈央の高校生活の幕が上がる。


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