5,フェミニスト現地民フェミニストに出会う
注;これはあくまでフィクションです。
「あらぁ、目覚めたのねぇ、おはようぅ」
聞いたことがある力強い声が薫に呼びかけた。薫はその声共に目が覚め、じょじょに脳が覚醒し周りを見渡した。
(ここは?!どこかの部屋?いや洞窟?令くんとなおちゃんは?!)
洞窟を削ったような部屋にいることに気づく。荒削りで壁がゴツゴツしており、装飾はほとんどなく岩のテーブルと椅子があり、橋にはおそらく寝床、藁がいっぱい敷き詰められた箇所があるくらいだった。
キョロキョロ見渡す薫に諭すようにこえがかかる。
「今はぁ、あなた一人よぉ。あなたたちはぁ、特別に感じたからぁ、一人一人しっかりお話ししようと思ってねぇ。そうそうぅ、アーシはこの集落のリーダーぁ、レヘンムよぉ、よろしくねぇ、こちらにお座りぃ」
レヘンムから言われ、薫は状況を思い出した。オークのリーダー、レヘンムに言われるままに椅子に座る。オークサイズだったので足が浮く高さだった。
レヘンムと対面し、薫はまじまじと容姿を確認する。村長メイから言われなければ、女性のオークとは気づきづらかった。ただ服はそこそこ着こなし頭には、石と人間が作ったであろう木など細工した装飾をつけていた。オシャレの意識はあるようだった。
それともう一つ感じた、言葉が分かることに。異種族がいることは、王都の訓練期間で教わってきた。ただそれ以上のことは習わなかったし、この瞬間まで疑問を思わなかった。転生前では経験しないことだったからだ。原理うんぬんはどういう……それよりとりあえず話が理解できることは良いことだと、薫は思うことにした。
一通り確認したと同時に、レヘンムが薫に会話をしかける。
「あなたぁ、お名前はぁ?」
「畠木薫です」
「カオルちゃんねぇ、人間の名前は響きが好いわよねぇ。カオルちゃん、全然見たことなかった顔だったけど、あの村の人ぉ?」
「いえ、違います」
「そうなのぉ。あとぉ、そんなかしこまらなくていいわよぉ、あなたはぁ、アーシにとって特別だからぁ、力抜いてぇ」
「……わかったわ……レヘンム、あなたはここで何をしているの?」
「あらぁ、割り切りのいい子ねぇ、すてきぃ!アーシたちはねぇ、この洞窟で集落を形成してどんどん発展しようとしているのぉ!」
「そのために近くの村の人をさらっているの?」
「グイグイくるわねぇ、いいわよぉ!それもあるけどねぇ……ホントは目の保養よぉ!力仕事している男って素敵よねぇ!!」
薫は驚愕する。レヘンムは続けて語りだす。
「うちの男らも働いていたんだけどねぇ、あいつらだけじゃ作業スピード遅かったからぁ、たまたま近くに人里があったの思いだしたからぁ、手伝ってもらっているのぉ。今この瞬間も働いているだろうけどぉ、いいわよねぇ。だって力しか能がないんだものぉ。男ってバカで単純で意地っ張りだからぁ、とにかく労働させるのが一番よぉ!」
薫はうつむく、レンヘムは気にせずに語り続ける。
「そしてアーシたち女はぁ、そんな男たちを見ながら安心して子育てやぁ、やりたいことをやっていくってわけぇ。最高でしょぉ」
薫はプルプル震える。それにレンヘムは気づく。
「……」
「あらぁ、やっぱり分からないよねぇ。ここらのお話はどうしても男たちは理解してくれないのよねぇ、カオルちゃんは分かってくれそうな気がしたんだけどねぇ」
次の瞬間、薫は満面の笑みでレンヘムに振り向く。
「分かります!めちゃくちゃ分かります!最高の環境じゃないですか!もっと聞かせてください!」
レンヘムは少し驚き、そしてすぐ笑顔になり会話にはながさく。
「あらぁ!やっぱりカオルちゃんは分かってくれるのねぇ!」
「そうですよ!男ってバカですよね!」
「そうなのよぉ!それなのにぃ、意地っ張りで認めたがらないのよねぇ!」
「それなんですよ!できないくせに指摘するとすぐ癇癪起こす!」
「そうそうぅ!だからそんな男たちを力でわからせるしかなかったぉ。でもアーシのおかげでぇ、あるべき環境になった感じぃ」
「凄いね!だからあなたは凄く強いのね」
「こうするしかなかったのよぉ。とくにアーシたちの種族はねぇ。ねぇカオルちゃん聞いてくれるぅ?」
薫はレンヘムが過去話をすることを悟った。一度姿勢を整えながら答える。
「どうぞ!」
「ありがとうねぇ。ワタシのねぇ、クソ親父がいたんだけどねぇ、というか小さい時はそれはもう酷い環境だったのぉ!」
レンヘムは生まれた時から父親、男たちから虐待を受けてきた。オークは『力こそ正義』の主義、力が劣りやすい女性オークは軽視されてきた。
それは酷かった、何かと男たちがストレスを溜めては女性を見つけるなりすぐ八つ当たりしてみたり、差別発言や卑猥な言葉を散々浴びせられたりとそれは地獄だった。
そんな中、母親はいつも笑ってレンヘムをかばっていた。その笑顔は乾いていて、悟ったような表情だった。あなたもこれくらい耐えるようになりなさい、そう何度も母親から言い聞かされ、レンヘムは絶望した。
こんな窮屈は嫌だ。もっと伸び伸び生活したいと願いと共に、男たちに対する憎悪は溜まっていった。
その感情をバネにたくさん修行に明け暮れた、男たちに勝る力を身につけるために。クーデターを起こすにも味方はいない、一人で集落の男どもを蹴散らすしかない。当時は200くらいの数だ。
毎日誰にもバレずに修行した。どんどん筋肉や能力が上がっていくのが分かっていき、嬉しかった。唯一の喜びだった。その感情に取りつかれるようにひたすら修行した。
だが身体がドンドン大きくなるレンヘムを男たちは笑った。太ったと思われたらしい。そのことでまた憎しみが増す。怒りと喜びだけを頼りに修行した。そうして今の身体を手に入れた。
そして母親は老衰し、レンヘムが子供を生めるくらいになった時に、ひとりでクーデターを起こした。ここで起こさなければさらなる仕打ちが迫るからだ。
男たちは滑稽に散った。レンヘムが強くなりすぎ、周りの男たちは太刀打ちできなかった。男たちの誇りであった『力』で分からせた時は爽快だった。力でかなわないことがわかると、男達はレンヘムにすり寄ろうとしてきた。
──無様だと思った。あんなに酷いことをしてきたお前たち男はこんな簡単に手のひらを返すのかと。
そうして今の環境を手に入れた。そして今後欲しいと思ったものは『力こそ正義』で手に入れると。
前の集落では見たくない男たちの顔があったので、半数を連れて2,3ケ月前にこちらにやってきたらしい。女性約70名、男性約30名、男性はともかく女性が安心して暮らしやすい広々とした部屋を確保するために掘削作業をしている。オークという種族は洞窟や穴を住処にして生活する。
掘削作業の男手が足りないため、近くの人里・トンギビスタから連れてきて働かせている、といことだった。
薫はその話を聞き、深く、深く共感した。感情が高まりレヘンムの手をとった。
そして薫も同様に過去話をレンヘムにした。生まれのこと、学生時代、社会人時代を。レンヘムは少し不思議な顔をしたがしっかり聞いてくれて、相づちをうってくれた。
「カオルちゃんも大変だったのねぇ、やっぱり男ってクソよねぇ」
「ホントです!女性こそが先導するべきです!」
「わかってくれて嬉しいわぁ!そうしたら少しアーシの生活手伝ってくれるぅ?」
「もちろんです!」
そうして薫はレンヘムと厚い握手をかわした。
(やっと見つけた!やっと会えたわ!似た境遇の方に!なんて嬉しいの!)
このときの薫はいささか有頂天になりすぎていた。自分がどのような状況に置かれていることを忘れるくらいには……
そして次の日、薫は男たちに囲まれながら掘削作業をしていた。集落開拓の作業だ。
薫は失念した。
(いま、ワタシ男になっていたの忘れていたわ!!)
赤烏りぐ:りぐさんです!オークの世界にも優劣の意識があるんですねぇφ(..)メモメモ次回の話も楽しみです!
鴨鍋ねぎま:本能に忠実であればあるほど優劣を露骨につけたがる……地球・生命の定め。それをコントロールするのは感情だ。次回はそんなお話。