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49/95

49,元高校球児はやっと村の問題を知ります

 村に戻る道中、光景は一変していた。

 落石の影響で村の一部の建物が崩壊していた。ここまでは予測できる。

 もう一つ驚いたのは村人たちほとんどが山に向かって土下座で礼拝していること。どうやらあのドラゴンは村に認知されているらしい。ワンミたちが知らないのはおそらく子供だから、大人だけがこの事情を知っているだろう。

 それに奈央たちは言葉を吞むこむように驚きつつも、村長につれられ、役場兼村長の家にたどり着く。

 ほどなくして応接間に案内され、


「早速だが……お前たち何をした?」


 村長は椅子に座りながら、声色は低く目つきは鋭く奈央たちをみる。

 マーナのことには気づいていないのか。実の孫が戻ったことに。


(最悪だ……)


 奈央はマーナを見る。何か言いたげにうずうずしている。

 村長はそれすらも気づかない。本当に家族なのか。

 あのドラゴンがそんなに大事なのか、家族以上のものがそこにあるのか。奈央は胸がチクリと痛む。似たことが昔あった

 マーナは堪えきれず、


「おじぃちゃん!どうしてそんな怖い顔してるさ!」

「……!マーナ!」


 話しかけられ、村長はようやくマーナの存在に気づく。


「お前、どうして……?」

「お姉さんたちが治してくれたんだって!ねぇ、あのドラゴンがなんなのさ!」

「そうか、そういうことか……」


 奈央は耐えきれなかった。話がかみ合っていない、聞いていないことに。


「マーナが戻ったのにどうして村長はそんな態度なんですか?!」

「お前は奈央といったな……余計なことをしてくれたな……!」

「え?余計なこと?マーナが本来の意思に戻ったのにですか?」

「ドラゴン様の怒りに触れた。今回は咎めなしだが次はこうはいかないだろう……ワンミ、今日は頼むぞ」

「ちょっと話を聞いてください!ワンミさんが何するんですか?」


 奈央の荒げるような問いかけを、薫が首を横に振りながら静止させる。続けても無意味だと。


「ワンミはドラゴン様の生贄になってもらう」

「は?」


 やっと答えてもらえたと思ったらとんでもないことを村長が口走る。

 奈央は聞き間違えたか、普段しない反応で返してしまう。


「ドラゴン様は強い魔力を求めている。定期的に搾取することで力を得ている。そして私たちはそのお膝元で過ごしている。マーナはその次の生贄のためにドラゴン様によって育てられていた」

「ちょっとどういうことよ!私聞いてないよそんなの!ワンミが生贄って!」

「マーナは黙っておれ!ドラゴン様の加護がなくなったお前に何が残る!」

「え……おじいちゃん、ひどいよ。怖いよ!」


 マーナは耐えきれずその場から逃げ出す。マイルは追いかけるようにすぐに後を追っていった。


(親子の会話じゃない……)


 奈央は静かに怒りが募っていくのを自身で感じとる。

 令が一歩踏み出し、


「ドラゴンはいつあなたたちの前に現れるようになったか、聞いてもいいですか?」

「10年以上前だ。あの山から突然地震が発生しドラゴン様がお目覚めになられた。そのご魔力の高い住民1人を差し出して欲しいと言われ、ワンミの母親を生贄した」

「な……」


 奈央は絶句する。そしてすぐワンミを方に振り返る。ワンミはポカンとした表情をしていた。


(ひとりじゃない……!)


 奈央はワンミの元に歩みより手を握る。家族の代わりには無理だけど、ひとりぼっちでないことを握っている手に込める。

 令は、


「もし生贄を出さなければどうなるのですか?」

「村は焼かれ、我々の住む場所がなくなってしまう!この地を借りて住んでいる私たちが協力しないわけにはいかないだろ!」

「そうですか、他に生贄に差し出したのは?」

「私の娘だ。その次はワンミ、その次がマーナだ」

「身内ばかりで辛くないですか?」

「しょうがないんだ。ドラゴン様に従うしかない。我々は無力だ……」


 そう言って村長はうつむく。

 薫は一息つきながら、


「これはよっぽど重症ね。これからどうしたい?お二人?」


 薫の目線の先は手を繋ぎ合っている、奈央とワンミ。


「少しワンミさんと話がしたいです」

「……。奈央さんに合わせたいです……」

「了解。ここはつかさちゃんとなんとかするから行ってらっしゃい。いいよね?つかさちゃん?」

「はい、もちろんです。その前に……ワンミさん」

「はい」

「あなたの味方は私達です。気軽に頼ってください。いざとなったら逃げ出しましょう」

「ありがとうございます」


 令の言葉にワンミは微笑む。

 だが村長は、


「何を言っている?!そんなことできるわけないだろ!」

「はーい!村長さんワタシたちとお話しましょうね~。なおちゃん、行ってらっしゃい!」

「はい!」


 奈央はワンミとアイコンタクトし、この場を出る。

 後ろでは村長がまだ暴れているらしく、


「村長さーん、落ち着いてくださ~い。ってどこ触っているのよ!痴漢よ、痴漢!」


 奈央はふと思い出し、


「ワンミさん、ちょっと待っていてくれる?令さんに伝えたいことがあるんだ。すぐに戻るから!」

「分かりました」


 そうして奈央は先ほどの部屋にちょろっと戻ったあと、ワンミと合流し、

「といってもどこいこっか?目立つ場所だと住民たちが黙っていないかも……」

「そうですね、でも変に動き過ぎるとドラゴンが私を捕らえるかも……」

「うーん……あ!それならついてきて!」

「はい!」


 奈央はワンミの手を引きながら、とある場所を目指す。


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