47,元高校球児はひとつやりとげます
(負けるな……自分に負けるな!)
奈央は息が上がる。何時間魔力を提供したのだろう。
実際は数十分も経っていない。ただそれだけすでに魔力と精神力がすり減っている。自分の中から消えていく。
今マーナの解呪はどうなっているのだろうか、やっぱりマーナの中に取り付いた方が良かっただろうか。
今回取り付かなかったのは、本人が眠っているから。逃げる心配がないため。もしマーナが起きたら大変だが、如何せん人数が足りない。ワンミに任せるわけにはいかない。
(く……!こんな苦しいのを、ましてワンミに!)
奈央は身体のいたるところに力を入れ耐える。あとどれくらいだろうか、逃げてはダメだ。
そんな中で奈央は懐かしさを覚え、口角が上がる。
甲子園に行きたいと、あの時もこのように苦しい中頑張った。自分が行きたかった。周りが行きたいと目を輝かせていた。父の励ましがあったから。母は静かに応援していたから。
限界以上に投げたんだ、あの日。
(……まだ限界じゃない!比べれば!)
奈央は再度気合いを入れる。
解呪の現場は実に静かに感じる。実際は魔力の流れる動く音のような、エフェクトのように光っているだろう。だが使用している側になると集中しているせいか、静かに感じるのだ。
「マーナ!戻って!」
マイルのここ一番の大声が木霊する。それだけの強い思いが今頃魔法になって解き放たれているのだろう。
(うっ……!)
その衝撃だろうか、奈央から一気に魔力が消えゆく。たまらず嗚咽をしたくなるがこらえる。
だって、
「マーナ!マーナ!」
マイルの声が大きく聞こえる。それだけ必死になってマーナを思ってやっているから。
次第にマイルの声が遠くなっていく、マーナの元に向かったのだろうか。
奈央の身体の負荷が消えていく。その反動でたまらず膝から崩れる。
目を開ける。焦点が合わない。長い間、強く瞑っていたからだろう。
「奈央さん大丈夫ですか!」
前にいる令がすぐに気づき、すぐに奈央を介抱する。
「大丈夫……魔力回復の薬、貰ってもいいですか?」
「もちろんです。待ってください……」
今回は魔力回復の魔法まで奈央は力が入らない。1/10まで減った、魔力。
令は安全に奈央を座らせ、薬を取り出す準備をする。
(マーナは……)
奈央はマイル、マーナを確認する。
前方に抱き合っている少年少女、それを見守る女性がいる。クルギアスラ村の現地民の3人が身近になっている。
「マーナ!マーナ!」
「……?マイル?どうしたのそんなに私の名前を呼んで。あれ?ここどこ?」
「ああ、本当に戻った!戻ったよー!」
「ちょっとマイル痛いよ!」
「本当に戻った……凄い……」
ワンミは感嘆としつつ、二人を宥める。
マイルは嬉しさのあまり、マーナに思いっきり抱擁する。
(良かった……成功したんだ)
以前マイルが言っていたように、マーナの真紅の目から変わっていることを奈央は確認する。ほんのり赤い程度だろうか。目つき、態度も一目で明らかに違う。
薫は奈央たちの方に近づき、
「良かったわー!無事に成功したみたいね!しっかし、今回は疲れたわ!ってなおちゃん大丈夫?」
「大丈夫です……薫さん、今回ありがとうございます。結局2回も魔法を使用することになってしまって……」
「いいのよこれくらい!相変わらずワタシは燃費がいいのが取り柄みたいだし」
「令さんも……今回ありがとうございます」
「いえいえ!それより飲んでください」
「ありがとうございます……」
奈央は渡された薬をそのまま飲む。即効性あるこの薬はすぐに身体を潤すようにしみわたっていく。
この感覚もまた嫌いではなかった。
マイルたちも感動の再会を終え、奈央たちの方に向かって来る。
「奈央お姉ちゃん!ありがとう!マーナが戻ったよ!戻ったよ!」
「マイル落ち着いてよ!この人たちは?」
「マーナを治すのに手伝ってくれた尊敬する、お姉ちゃんとお兄さんだよ!」
「その……ありがとう、ございます……」
マーナは今までの記憶がないらしいのか、終始困惑しているようだ。
「良かった!体調とかも特に問題なさそうみたいね!何かあったらつかさちゃんがすぐに治してくれたけど」
「無事でなによりです」
マーナは薫と令を見た後、奈央と目が合う。
(なんて話せばいいんだろう……)
今まで、ワンミに対してあれやこれやと指示を出し、本人の意思と疎遠なことをしてきた。しかしそれをしていたのはマーナ本人では呪った、取り付いた何かだったことは分かっている。だがいざ解呪後のマーナと対面すると自然と緊張する。
その邂逅を破ったのはマーナの方からだった。
「その……ワンミを、ありがとう、ございます。何かと一緒に行動してくれたみたいで……」
「ん?記憶があるの?」
奈央は驚く。確かにゲームや漫画でも覚えているか、すっかりないかの二択だ。
「よく分からないけどそう言いたいの……それとワンミ、ごめんなさい。ワンミに凄い迷惑をかけてしまった気がするから……」
「大丈夫。マーナが元のマーナに戻って良かった」
ワンミは微笑む。
ここ一番の柔らかい表情、それが奈央も自然と口角が緩む。
<いい加減我慢ならんな、ここまでしてくれるとは!>
突然だった。突然地響きのような声が奈央たちを覆う。
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