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44/95

44,元高校球児はリミッター解除します

「奈央さん……!今から何をするのですか……?!」


 ぞろぞろとマーナ・マイル・薫・令がそこまで大きくない洞窟に人が入ってきたため、ワンミが驚いている。


「ワンミさん、お願いなんだけど……」


 奈央はワンミにこそこそ話でその説明もしつつ、とあることをお願いする。


「わ、わかりました……!」

「よろしくね」


 奈央は握っていたワンミを手をほんの少しだけ力を込める。


「薫さん、お願いします。マイル君はマーナの体をしっかり抑えててね」

「準備入るよー」

「分かったよおねぇちゃん!」


 奈央の掛け声と共に、薫は目を閉じる。マイルはマーナの体をガシッと掴む。これならこのあとの心配は大丈夫だろう。

 肝心のマーナはわけがわからないといった感じで周りをキョロキョロとしている。どうやら不測の事態では歳相応のようだ。


「……なんですかこれは?何をしようというのですか?」

「マーナ、ごめんね。もしかしたら頭痛が酷くなるかもしれないけど、我慢してね」


 奈央はマーナにこれからのことを先に謝罪し、目を閉じ魔法を始める。マーナはわけがわからないといった表情で首をかしげる。こういうところは本当に歳相応に可愛いと思う。

 集中力を一気に高める。イメージを強める。今回はリミットをかけずに全力で、それを自身に言い聞かせながら。

 キャンプしていた際にマーナに取り付こうとしたイメージを思い出す。

 マーナの体内に、頭に入っていく感覚。だんだん奈央自身の身体から魂だけがマーナの方を目指す。このままでは奈央の身体は制御出来ず倒れ込んでしまうが、今回はワンミにお願いして抑えてくれている。

 そのため周りに気にせずさらに集中力を高めマーナに取り付く。前回は意識を奪おうとしたが、何者かがすでに先客としているので作戦を変える。


 視界を、聴覚を、嗅覚を、触覚を、そして今は意味はないかもしれないが味覚も、それら全ての感覚を塞ぐ。遮断する。マーナにデバフをかける。


 同時に先客にも同様のデバフを付与する。そのためにもう一度マーナの意識下に入ったのだから。

 明らかに特殊な方法の魔法、発動させるだけでガリガリ魔力が削られていく。

 奈央その感覚が嫌だ。めまいするような、寒気がするような、貧血のような、不快感が魔法使用中にずっと襲い続ける。


(自分を、周りを信じろ!)


 もうあの時のダメな自分じゃない。世界が変わって見た目も変わって、傍にいる人達も変わった。そして初めて流されることなく自分から守りたいと思える人を見つけた。

 ステータスを自信の力を信じる。野球一筋で楽しんでいた頃の感覚と変わらないはず。少し違うとすれば力の使い方。制御することを覚えることができた。同様にどの場面でリミッター解除するのかも。

 マーナの意識を塞いだ、気がする。もしマーナが脱力していればあちらは今頃マイルが体を抱きとめていることだろう。

 そしてその間に薫が魔法で先客を浄化する。


(もうひと頑張り……!)


 ドロドロとした感覚が鬱陶しい。奈央はそれを払いのけるようにイメージを振り絞り、先客にめいいっぱいデバフをかける。少しでも薫が楽に魔法が使えるように。

 後は我慢比べ、浄化が終われば令から念話が飛んでくる。それまでひたすら感覚遮断魔法を続ける。相手に逃げられないように威力は相当高めにしてある。その分魔力量がすり減るのがしんどい。


(でも……)


 自分の進みたい道、夢に楽なんてものはなかった。確かにあの自堕落な生活も楽しかった。しかし自分はやっぱり動いている方が、何かに駆られているくらいが丁度いい。

 奈央は力を振り絞る。どれぐらい頑張っただろうか、あとどれくらいで救えるだろうか。魔力使い続けるせいか奈央自身の意識が少しずつ、高くなるような、薄くなっているのを自身でも感じる。それでも最後までやり通すんだ。

 そうしてどれぐらいだろうか、


『奈央さん!奈央さん!もう大丈夫です!戻ってきてください!』


 念話だ。これでワンミは救われる。マーナは自由に動けるようになる。

 奈央はふっと力を抜く。スルスルと自身の身体に戻っていくイメージ。


(魔力確認……5000/30000、こんなに使ったの初めてだな……)


 奈央はゆっくりと目を開ける。

 最初に写りこむのはワンミ。こちらを心配そうに見つめている。奈央はワンミに身体を預ける形で座り込んでいた。そのすぐ近くで令が回復魔法をこちらに当てている。非常に助かる。


「……ありがとう、ワンミさん」

「奈央さん無事で良かった……どんどん顔色悪くなるから……」


 奈央はワンミに色白で微笑みながら、覚醒する意識で少しずつ周りの状況を確認する。

 まず目につくのはマーナが横たわっていること。それにマイルがそばで心配そうに見ていること。どうやらずっと抱きとめているわけではなかったようだ。奈央の魔法で間接的にマーナの意識がなくなっているようで、すぅすぅと寝息をたてている。

 薫と令の方を見る。


「奈央ちゃん……ごめんなさい……うまくできなかったわ……」

「私も持てる範囲でバフをかけたり、あの手この手を考えたのですが成功しませんでした……」

「え……」


 マーナに潜む先客を解呪、浄化、どかすことができなかった。作戦は失敗してしまった。


(そんな……)


 落ち込み始める奈央をいたたまれなく思った薫は、


「本当にごめん!魔法ってなんでも出来ると思ってやってみたけどできなかった、ワタシのせいよ。落ち込まないで。むしろワタシに怒ってちょうだい」

「いや、いえ……そんなことできないですよ。やってもらったことを怒るだなんて……」


 それより迂闊だったのは自分の方だ。失敗した後のことを考えていなかった。リスクを想定しきれていなかった。

 今はまだマーナが眠っているためすぐに事は動かないがこのままではいけない、起きたら確実によくないことが始まる。その前に何かをしなければ。

 フラフラする視界の中奈央は立ち上がろうとする。ワンミはそれを心配そうに見つめるがそれよりもやらなけらばならない。


(どうすればいい……白は効かないということなのか……なら自分がやっぱりあの中身を……)



もう一度マーナの意識に入ろうとした時だった。


「なぁ、奈央おねぇちゃん!俺にもそれをやらせて欲しいんだ!試したいんだ!」


マイルだった。


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