43,元高校球児は遂に決意を実行します
水浴びという名のワンミとの水泳教室は気づけばあっという間に時間が過ぎていった。
今日はやらないといけないことがあるので、適度に時間を確認しながらワンミと共にいる。この後はちょっと早めの昼食タイム。今回も令にお願いしてサンドイッチを用意してもらっている。
「また見ますが不思議な光景です……!」
サンドイッチの入ったカゴがどんどん大きく元のサイズに戻っていく。最初はミニマムサイズで奈央の内ポケットに仕舞っていた。
「魔法って本当にすごいよね……。ワンミさん、今度一緒に探さない?」
「探す?」
「そう!魔法で出来たらこんなの便利とか……あとね……」
ワンミにも魔法をかけ合わせることが可能なことを伝える。
「それとね……多分なんだけど、魔法の合体攻撃っていうのもできるかもしれないって思って。そういうのもワンミさんと一緒に研究したいなって……どうかな?」
「そうですね……」
ワンミは頷きつつもどこか乾いた笑い。
(間違った……)
今の状態で明日以降の約束をしてもそれを果たせないと思い、そのような表情になってしまったのだろう。ワンミ自身このままではどうにもならないことを悟っている。
「サ、サンドイッチたべよ!」
「うん」
奈央自身緊張している、口実を見つけワンミにバレないように繕っているがどうだろうか。
昼食が終われば初めて自分が選択した、厳しい道を辿ることになる。何もしないという楽な選択肢もある。しかしそこにワンミの姿はきっとない。祭り当日の今日、絶対にワンミに身に何かが起こるのは周知の事実。
自分にとってワンミはかけがえのない存在になっている。もしかしたらただ過去の自分を照らし合わせているだけなのかもしれない。それでも思えることは他人事ではないということ。それが自己満足だとしても、周りがそれを望んでいないとしても、もうあの時のように諦めて絶望するだけの生活に何の価値がないことも知っている。
ワンミは不自由なく生きたいはず、そう感じるのも奈央の自己満足なのだとしても、もっと色々な景色を一緒に見たい。見せてあげたい。薫たちと4人で。
今度は諦めたくない。ただそれだけだ。
「サンドイッチ、今日も凄く美味しかったです」
「そうだね、自分もこれぐらい作れるようになれたならなー。ワンミさんは料理はできる?というよりしたこと……ある?」
「マーナの母がいた時は一緒に何度か……その後は働くの忙しくて、今は……」
「お母さんとはどんなの作ったの?」
「えと……パンとかピザとか、ですね」
「ピザ!いいねー!実はさ……」
せっかくの機会だと奈央は思い、前の世界のピザについての知識をワンミに共有する。たくさんの味があること。宅配ピザなるものがあること。バイクという馬のようでそれよりも遥かに速い乗り物のこと。
「はぇ……自分は想像することしかできないですが、奈央さんは凄い場所から来られたんですね……!どのお話も新鮮です」
「ありがとう!」
ワンミになら前の世界の色々な話をしたい。これが別人だったらそもそも信じてもらえないだろう。それだけワンミと深く交友出来ていることが何より嬉しい。
「クルギアスラ村も大分滞在したなー。3日しか経ってないけど。一日一日が充実しているから」
「そうですね。奈央さんたちが来てから本当に楽しかったでした」
過去形、奈央は見逃さない。ワンミの手をきゅっと優しく握りながら顔を近づける。
そんなに悲観しなくていい。魔法で解決に向かうんだ。
そして奈央は気づく、
「ワンミさん、また口に食べ物がついてるよ」
「本当ですか……!恥ずかしいです……」
暗い洞窟内だから仕方ないよ、と奈央はフォローしつつハンカチを取り出し拭いていく。
この時のワンミの表情はすべてを奈央に委ねるように目を閉じているので、非常にいたたまれない。
「ありがとうございます」
ゆっくり微笑むようなワンミの表情、昨日一昨日とは違う、少しずつ交友を深めていることをこういうところから実感する。何故かむず痒さを覚えるが。
「奈央おねぇちゃん!ワンミ!約束通り連れてきたよ!」
タイミング時に丁度いい頃合いで現れる、マイルと手をつながれながらわけがわからないという表情のマーナ。
(さぁ、ここからが予定通り一つの正念場……!)
「こんな狭くて暗い所にワンミちゃん寝ていたの?大変よこれ……」
薫・令組も到着する。
奈央が昨日マイルにこしょこしょ話の時に約束したこと、昼頃にここにマーナと共に来て欲しい。
そして薫たちにはマーナがここに連れてきたら、解呪をして欲しいと。令は村に怪しまれないように余裕があればここに補助として来て欲しいと。
ぞろぞろと一気に人が増えたのでワンミはびっくりし、おろおろし始める。それを奈央は大丈夫と再び手を握りながら視線は薫の方に向け、
「薫さんお願いします」
さぁ本番だ。




