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42/95

42,元高校球児は大胆な格好になっております

「凄いここ!あったかーい!」

「下から暖かい水が出ているので」


 はしゃぐ奈央を見て、ワンミはそれを微笑む。

 現在ワンミを連れ出して別の洞窟の水浴びができる場所、ワンミ・マーナ・村長しか知りえない場所。そこに奈央は連れていってもらっていた。この前ワンミから聞いたところ、祭り当日で落ち込んでいるワンミを少しでも元気づけようと奈央が提案したのだった。

 水浴びできる洞窟は2人きりではかなり広く、前世界の大浴場よりも浴槽は大きく、大会など行なわれている競泳場よりは小さい。深さは奈央の身長でお腹が浸かるくらい。

 ワンミと共に天井に火球ランプをとりつけ、明るさの関係で少しムーディー感がありSNSで投稿出来たらバズりそうだ。

 そして何と言っても温水プールのように水が暖かい。洞窟内なので日が当たらず水がひんやりとしていると思っていたが、地熱があるようで泳ぐには非常に丁度いい温度になっていた。洞窟の温水プール、これで水流付きならきっと前の世界で人気がでそうだ。


「その……泳ぐっていうの教えて欲しい、です……」

「いいよー!」


 手をもじもじしながら話すワンミに奈央はにこやかに快諾する。もちろん二人は今は衣類を着ていない。何も身につけていない。生まれた時の姿。

 ただ奈央はそれがもう恥ずかしいとは感じない。それより夢中でクロールなどの水泳方法をワンミに伝授する。

 ワンミの体つきや顔色は最初に出会ったころに比べかなり良くなっている。綺麗に思った銀色に輝く髪は、今は水できらびやかに反射しているのでより美しく見えるが、髪質の艶が上がり続けている。きっとウェーブをかけるとさらに可愛く美しく見えるのではないか、奈央はそのように見ている。

 あらためてワンミの全貌を鑑みる。奈央よりもすらっとして出るところでしっかり出ており、引っ込むところはしっかり引っ込んでいる。前みたいに瘦せ型の見た目では無くなり血色の良くなり本能的に憧れる。

 おそらく自分はこれ以上身長が伸びることはない、前の世界のように高身長にはなれない、今の平均身長より少し小さい自分を見て、奈央はないものに対して思ったのだ。


「?どうかしました?」

「ううん、なんでもない!」


 奈央は泳ぎ方のレクチャーに集中する。


 今朝、迎えに行った時のワンミは疲れていたのか寝ぼけていた。奈央はワンミが不安な面持ちでいないか心配だったが、表立って態度に出している様子は無く平穏を保っているようにすら見える。

 もし自分が何もせずにいたらワンミはどうなってしまうのか。考えるだけ無駄だろう。


「これが背泳ぎ、なんですか?」

「そう!面白いよね!おっと、大丈夫?」


 今は背泳ぎの練習、ワンミは慣れない態勢で乱れパシャパシャと水しぶきが上がるところをすかさず奈央が抱き留める。


「あ、ありがとうございます」

「ううん、気にしないで。背泳ぎは難しいから」

「はい、本当に奈央さんみたいに浮くことができるのですか?」

「できるできる!頑張ろ!」


 ワンミの体を奈央は支えながら、背泳ぎの指導に尽力する。

 そうしてしばらくすると、


「凄い!浮けるようになりました!奈央さん、ありがとうございます。これ、楽しいです……!」


 ワンミは背泳ぎの体の使い方をマスターし、笑顔で洞窟の天井を見ながらゆったりと浮かぶように泳ぐ。


「すごいよ!」


 奈央は感嘆を述べた後、ワンミの隣に並ぶように同じように浮かぶ。

 ワンミがバランスを取るために僅かに揺れる水面がこそばゆい。


「こうやってゆったり泳ぐの初めてかも」

「奈央さん初めてなんですか?いいですね、こうやってゆっくりと水で過ごすの、心地良いです」

「うんうん」


 2人きりで一緒に水に浮かぶ。前の世界では彼女と一緒の時でもやらなかった。

 あの時はまだ身体が運動を求めていた頃、プールに行くことは何度かあったが泳いで泳いでばかりだった。そして彼女はそれを微笑むように眺めていた。

 今は違う。完璧にゆっくりしていたいかというと若干クロールような形で泳ぎたい気持ちも前の世界から残っている。

 しかしやはり性別が変わったからなのか、身体が代わったからなのか、ワンミと肌が重なるくらいの距離で穏やかに過ごす方が心地良い。ワンミがこの状態をどう思うかは分からない、楽しいのだろうか、今日の恐怖を少しでも和らげることができているのだろうか。



「久しぶりにここにきました」

「急に行きたいって言ってごめんね、びっくりしたよね……?」

「い、いえ!奈央さんにお話した時、また来られたらなーって思っていたので……あの時のまま変わっていなくて嬉しいです」

「前の時はどんな感じで遊んだか、聞いてもいい?」

「はい、大丈夫ですよ。マーナのお母さんに面倒見てもらっていた時の印象が強いです。その時はまだ自分は小さかったので手を引っ張ってもらいながら、足をバタバタしながら泳ぎました」


 微笑ましい光景が目に浮かぶ。小さい時のワンミはどんな姿だったのだろうか、きっと可愛いに違いない。


「その……次はば、ばたふらい?っていうのをお願いしてもいいですか?」

「バタフライだね!いいよー!」


 この後ワンミがつかれるまで奈央は一緒に泳ぎ続けた。

 これでさらにワンミと距離を近づけることができただろうか。

 それがわかるのは午後になってからだ。

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