38,元高校球児はそして才色兼備(ツエー)な女の子に
注;これはあくまでフィクションです。
「あれ?奈央さんどうしました?」
ワンミの問いが聞こえないくらい、奈央は集中している。
(もし他人の魔力の数値が分かるなら……魔力探知を応用すれば……)
魔法鑑定士がいないのではなく、誰もそのように考えたことがなく実践していない。正確には試すことはもしかしたらあるかもしれないが、相当高い魔力が必要になるはず。そして奈央はその魔力を持っている。ただ他人の魔力に対し執着するほど興味がなかった。正確にみたいと考えなかった。
だがもし鑑定士みたいなことができれば一気に便利さの進化は止まらない。クルギアスラ村の問題に限らず今後にかなり役立つことになると同時に絶対に他の人に特に王レベリヤンにバレたら大変なことになるだろう。
それを今はもう隠す必要がない。その魔力を必要とする時。
(ワンミさんの事を意識、そしてステータスを意識……!)
奈央は目を閉じ、魔法を使うためイメージを高めていく。また奈央から魔力が吸い取られるようにガリガリ減っていく感覚が襲ってくるが、それで負けてしまってはステータスを確認できない。冷や汗が垂らしながらも奈央は続ける。これからのため、何より結局自分のため。
(意識の乗っ取り、それじゃないけど……!)
一度マーナに試す、意識を乗っ取る魔法そのイメージも思い出す。すると少しずつ奈央の脳裏に数値が浮かんでくる。まだぼやける、さらにクリアにするためにめいいっぱいイメージする。
ワンミのステータス
魔力量:5000/5000
力:50
速さ:60
賢さ:90
器用さ:50
疲労度:15/100
スキル一覧
・火龍の加護
魔法が終わり奈央は息切れ目をかっぴらき、猛烈な頭痛に襲われる。初めて使った鑑定魔法、やはり相手のステータスを覗くのはそれだけの高難易度であり、一気に魔力がなくなる。魔力の減るスピードが速いとこのように頭痛や貧血のような症状が現れる。たくさん魔力があってもいいってわけではない。
突然うずくまる奈央にワンミとマイルが心配する。
「奈央さん!大丈夫ですか?!」
「お姉ちゃん!」
「はは……やったよワンミさん……魔法を数値で見れるよ……ワンミさん相当強いね……」
「え?もしかして今やったんですか?!」
「そう……おかげで少しフラフラするけど、大丈夫だから……」
奈央は顔を上げ、水筒と服の内側にしまっている薬を取り出す。
ボタンを緩め、肌色が垣間見える。マイルは体を強張らせつつもその魔力には逆らえない。
薬、令が緊急用に使えるように試作したもの。その薬は砕いたレーションに魔力を回復する魔法が含まれており、奈央はそれを服用する。
すると徐々に頭痛は収まり、周りの状況が分かるように戻っていく。
(良かった、持っていて……本当令さんに助けられてばかりだ……)
依然心配そうに見つめる2人に奈央は
「もう大丈夫だよ!ちょっとした魔法で元気になりました!」
「そうですか?本当に大丈夫ですか?」
「お姉ちゃんホントに平気?」
「平気だよ。それよりも……ワンミさん、火龍の加護っていうスキルがあったのだけど、覚えはある?」
「え?どういうことですか?」
奈央は平気を装いながら、ワンミにステータスの確認方法を説明する。
「凄い……こんなものがあったんですね……そして自分に本当にありますね……初めて知りました……」
ワンミは夢中で目を閉じステータスを確認しているようだ。
(火龍の加護、覚えがない……ドラゴン……会っていれば絶対印象深く覚えているはず。魔力が相当高い……これもスキルの影響?)
奈央はワンミのステータスについて考察していると、服の裾を引っ張られる感触を感じる。その先はマイルであり、
「その、僕もワンミさんみたいにできる?」
「あ、ステータス確認したいんだね!いいよ!」
奈央は丁寧にマイルに指導する。すると、
「ホントだ!なんか出てきた!これが数字?すげー!」
「良かった、しっかり見れるみたいだね!」
「ありがとう!お姉ちゃん!」
そういえばいつの間にかお姉さんからお姉ちゃんに呼び方が変わっている。後者の方が親近感が増しこそばゆいが嬉しい。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!このすきる?ってところに……しろまほうしようか?っていうのもがあるんだけどなんだろう?」
奈央は裾を引っ張りながら訴えてくるマイルに目を見開く。
(それって、もしかしなくても……)
白魔法の適正がマイルにはあるということ。他人のステータスがどのようになっているか先ほどやっと1人目を見たところ、白魔法を使っている人たちがどのように記載されているかまでは奈央にはわからない。本当は今すぐにでもマイルのステータスを確認したいところだがもう一度鑑定魔法を使える魔力は残っていない。
そして同時に思い出す。白魔法のメリットとデメリット、薫から教わったものと世間の常識。ちなみに薫の白魔法は例外、令と奈央を含め3人はあまりにもデメリットがスキルで緩和され過ぎている。転生召喚の特典的な恩恵と奈央は割り切っている。
本来の白魔法は自身のバフ、強化関連は確かに強いがそれは黒魔法も同様、力を高めたり守りを高めたりできる。それだけはないのが白魔法、まだしっかり見たことがないので確証ではないがデバフ関連を無効にできる、打ち消せる。ゲームであれば呪いような状態を浄化できる魔法、そしてそれは自身だけではなく他人に与えることができる。奈央の使っている黒魔法との一番の違いはそこ。黒魔法は他人にデバフを与えることが可能、直接的に言えば呪いを与える側。
薫たちとの行動で忘れがちだが、この世界の魔法は精神と生命力を使用するごとに少しずつ消耗する。そして効果が強く、特別な魔法はその分だけさらに生命力が代償になる。永遠の課題、それをある程度無効にしているのは、知っている限り自分たちだけ。
そして気づく、呪いの浄化。これならマーナにかかっている呪いを解毒出来るのではないか。
(マイル君にそれをさせたらおそらくかなり削られる……薫さんにお願いできるか?!)
奈央は自分の専用魔法ではない白魔法について、知っている限りをマイルに伝える。メリットとデメリットを。安易に使ってはいけないこと、命が削られること。
その教えが終わりかけの時だった。
「皆さん、ここにいらしたのですね」
マーナが足音無く、奈央たちの前に現れた。




