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35/95

35,元高校球児は本日もイチャイチャします

注;これはあくまでフィクションです。

「ワンミさんの小さい時はそんな感じだったんだね。ありがとう!」


 語ってくれたワンミに奈央は水筒を渡す。ワンミはそれをありがたく受け取り喉を潤した。

 ワンミの過去について直接打開の起点になることはないが、家庭事情的に奈央よりもシビアな環境に喉を鳴らす。ワンミの場合は最初から欠けている、なくなっていく、それが今も。奈央とは正反対な境遇と知る。


「そっか……この辺りもちょっと前は木や草があったんだ」


 奈央は気になったこと、打開の糸口を見つけるためにワンミに話しかける。


「はい、なのであの森に入った時凄く懐かしかったです」

「そうだよね。それとちっちゃい頃のマーナはどんな感じだったの?」

「かなりやんちゃで活発な子でした。マーナの母親と村長が手を焼くくらいには」

「そうなんだ!今とは全然違うんだね……」

「そう、ですね……母親がいなくなった辺りからマーナは大人しくなりましたね」

「そっか……」


 本来であれば母親がいなくなってしまった悲しみで大人しくなってしまった、そのように解決することができる。だがおそらく母親がいなくなった時辺りからマーナは何者かによってそのようにされてしまったのではないか、あのマーナの中にいる禍々しい存在が。

 話がひと段落するとワンミは少しモジモジし始め、


「その……奈央さんのお話、いいですか?」


 なぜモジモジしていたのか納得した奈央は微笑み、


「もちろんそれじゃ言うね……」


 そうして奈央の過去をワンミに伝える、と思ったが、


(あれ?!性別逆転してるのってどうすればいいんだ?!うーん……!)


 このままありのままを伝えてしまうとおそらくワンミは混乱してしまう。どうしたものか、奈央は数秒間に必死に考え、とりあえず前世も女の子として生きていたようにすることに決めた。多少あべこべになるかもしれないが許容の範囲だろう。それに小学校くらいまでなら前世の彼女のことについて話すことはない。

 ただいずれは正直にワンミに打ち明けたいと、奈央は思う。



 奈央はワンミに小学校までの記憶を伝えた。

 まず自分が転生者であること、生きている世界が違かったこと。驚かれこそしたがワンミは信じてくれた。これから話すことはワンミが経験したことのない建物の名前や名称がたくさん出てくる、それが信頼するに至ったようだ。それに噓はついていない、ワンミの綺麗な目を見ながら真っ直ぐ話した。

 奈央は説明が不得意ながらも幼稚園がどういうところだったのか、学校がどういうところで何をどのようにしてきたのか、ワンミが納得するまで尽力した。

 ワンミは目を輝かせてるように聞いてくれた。羨むように呟いてくれた。

 奈央も懐かしいと心が動いた。あの頃は純粋で楽しかった、学校生活、日常、野球。戻りたいと思わなくもないが、それはこっちの世界に来ていることがリセットのようなものなので必要ないと、十分だと。



「ありがとうございます、凄いです。あ、すいません水筒返していなかったですね、どうぞ」

「ありがとう……」


 先ほど渡した水筒がワンミから戻される。奈央は微笑みながら受け取り喉を潤す。


「奈央さんのお話凄かったです……自分が知らないことばかりで!てんせいしゃ?というのがいまいち分かりませんがどれも新鮮です!」

「ははは。ワンミさんは信じてくれるから嬉しいけど、でもいいの?違う世界とか、噓みたいな話だと思うけど……」

「大丈夫です。確かに見たことのない、聞いたことのない単語がたくさんありましたけど、奈央さんが真っ直ぐ話されていたので、信じることができます。こういったらあれですけど、村長と話す時、自分と目を合わして話すことがなかったので……」

「そうだったんだ……」

「ああ!気にしないでください!だからこそっていう意味で。それに噓をついているなら浮ついたりしそうっていうか、自分がそうなるので……奈央さんにそんな様子無かったですから」


 そういうワンミも今は穏やかな表情で真っ直ぐ奈央を見つめる。最初に出会った頃が噓のような変化。それが奈央はたまらなく嬉しい。ワンミには笑顔が似合うのだ。

 ワンミは目を輝かせながら、


「その、プールって本当に水がいっぱいあるんですか?!」

「そうそう。ワンミさんのいうところの水浴びと一緒。色んな泳ぎ方をしていくの。いつかワンミさんとやりたいな~」

「奈央さんのお話からすると結構広そうです。そんなところこの世界にあるのでしょうか?」

「人工的に作らないと難しいと思うよね。川、運河とかの広いところだと流されちゃうだろうし……」


 前世は夏休みにそうして川遊びを決行して水難事故になっていたのをよくニュースで聞いた。奈央の同級生も事故に遭った人がいて、他人事ではないと感じ、川遊びは当時の体格とは対照的に消極的だった。

 ワンミは依然不思議そうに、


「流される、とかがあるんですね?」

「川の水流の力ってかなりあるんだ。だから人間の力だと制御できなくて沈んで息継ぎができないとかなるの」

「なるほど……川、怖いんですね……」

「しっかり理解して慎重にすれば大丈夫だと思うよ」


 それからしばらく奈央の世界についてワンミからたくさんの質問を受け、話していった。

 ひと段落し、一度外を出て太陽の位置を確認したら天辺を折り返し始めたころ、14時を過ぎたくらいに経っていた。お話だけで午前中、ましてや午後なるまでしてしまうとは驚愕だった。


(自分ってこんなに話すこと好きだったかな……?)


 男の頃は話すよりも動くことが好きだったはず。こんな何時間も話していたら退屈で仕方がなくなるはず。でもそんな気持ちは一切上がってこない、それよりもまだ、もっとワンミと話したいと思っている。

 奈央はワンミのところにすぐ戻り、


「もうお昼過ぎちゃってた!遅いけどお昼ご飯にしよ!今日はこれサンドイッチを持ってきました!」


 そう言いながら胸ポケットに入れていたミニマムなバスケットを取り出す。

 ワンミはわけが分からずその光景に首をかしげる。

 奈央は口角を上げながら、バスケットの内側を触る。そうするとバスケットがみるみるうちに本来の大きさに戻っていく。令に今朝お願いして諸々作ってもらった、本当に便利な魔法と前世の未来の知識だ。


「す、凄い……」

「令さんにしかできないんだ。本当にすごいよ!さあ食べよ!」


 サンドイッチをワンミに手渡す。やはりサンドイッチを気にいっていたのか、嬉しいそうにパクパクと食べてくれていた。具材は前と変わらずお肉と野菜を塩味を足しながら挟んだだけ。それでもワンミと一緒に食べることが何より美味しさを引き出してくれた。


「ごちそうさまでした」

「ご、ごちそうさまでした……」


 奈央、ワンミの順番で挨拶する。ワンミは挨拶にまだ慣れていないよう。


「ワンミさん、また口についてるよ」

「本当ですか、恥ずかしい……」


 奈央は流れるようにワンミの口をハンカチで拭き、ワンミも流れるように受け入れる。


「あ、奈央さんもついてます」

「え?本当?うーん……分からないからお願いしてもいい?」

「わかりました……!」


 奈央はハンカチをワンミに引継ぎ、目を瞑る。


(やってもらうの、ドキドキする……)


 ワンミも緊張しながら奈央にしてもらったことを意識しながら真似るように優しく、奈央の口周りにハンカチを当てていく。


(すごい……なんかくすぐったい……)


 こうして拭いてもらったのは初めて、男の頃は自分で口を拭いていた。たくさん食べるため口周りが相応に賑やかになることが常だったので任せる前に自分で対処していた。

 ついつい流れでワンミに頼んでしまったが、してもらうことが想像以上に恥ずかしく、想像以上に嬉しかった。


「取れました。すみません不慣れで、初めてしたので……」

「ううん。ありがとう……」


 それから2人、数分間どぎまぎしたのだった。


「あ、そういえば明日村で祭りあるって聞いたんだった!どんなことをするの?」


 奈央どぎまぎが終わると祭りのことを思い出し、ワンミ尋ねた。

 しかしその祭りただの祭りでないとワンミの表情ですぐ分かった。また諦めたような乾いた笑顔に変わってしまったから。


「ま、祭りは……」


 ワンミが説明してくれそうな時だった。聴いたことのある軽い足音が聞こえてきた。そしてこちらの顔が見えるなり早々に、


「ワンミ!それと女性の……お姉さん……!マーナを助けてくれ!」


 マーナを慕うマイル少年が息を切らしながら奈央たちに訴えてきたのだ。


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