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32,元高校球児の中学の想い出

注;これはあくまでフィクションです。

 夜、クルギアスラ村の地域はよく冷える。宿に戻ってシャワーで体を洗い身支度を済ませ、奈央は安そうな布団をかけベッドに横になる。


(今日はたくさん動いたな……疲れた……)


 たくさん動いた、こちらの世界にきてから初めて性別が逆転してから初めて。

 今までは受動態で薫たちについていくように行動を共にした。自分で行動することを恐れていた。何かと恐怖がまだ前の世界から引き継いでいたから。

 これもワンミのおかげ。というと圧がましいかもしれない、ワンミが奈央の前に現れてくれたから。どこか似た雰囲気、境遇、話し方、すうっとワンミと馴染むことが出来た。

 世界が変わり、身体が変わり、前よりより一層警戒の色を奈央は全面に出していた。トンギビスタ村の時も有効的に話してくれる方たちはいたが、真っ先に身の安全を優先した。

 奥手だった、あの頃から自分にも自信はなかった、否無くした。

 それを優しく支え共感してくれる薫たち、そして最後の1歩を踏み出そうと決意をくれたワンミ。

 彼女を救いたい、それは彼女を救うことで自分の気持ちを改めたい。新たな人生をスタートさせたい、新たなスタートを切りたい。奈央もまだ過去に引っ張られているから。


(自分のため、ってところもあるから自己中にならないように……)


 ワンミはどうしたいのか、おそらく自分と同じだと思うがそれを奈央が手助けしすぎて言わせたり行動させたりは違う、慎重に慎重に。

 それにもっと彼女のワガママを聞きたい、叶えてあげたい、そっちの気持ちの方が強い。彼女を奈央なりにサポート出来たらと。


(明日も、頑張ろう……)


 薫たちをなんとか説得させ、クルギアスラ村にもう一日、もう二日滞在したいと言わなければ、飛びかける意識の中で忘れないと奈央は誓う。



 文武両道は大変だ。今では慣れたが一人の自由時間はほとんどない。ただそれが嫌というわけではない。

 しかし眠い、授業中話を淡々としカッカッカとリズムよくチョークで書く音は深い眠りについてくれと本能が訴えてくる。そんな時、となりの女子がわき腹をシャーペンでつついてくる。後ろの男子が加減しながら輪ゴムを奈央の頭に当てる。そして切り取られたノートを端くれを渡されお題と共にしりとりが始まる。

 そうして周りに支えてもらっていた。奈央には人望があった。

 中学の学校生活は正に順風満帆。

 奈央が野球をかなり頑張っていることは、学校全体に周知され先輩後輩問わず、色々な人から声をかけられた。地域の人々にも同様でボランティアや学校行事で交わることがあれば「お前凄いな!」と大きい体をポンポン叩かれながら言われることがよくあった。

 彼女もそれが誇らしく「今日も奈央のこと言われたよ」と報告を受けることが多々あった。

 自分の実力が認められ。周りからちやほやされるのはむず痒くもあったが嬉しかった。家族もそれを喜んでくれて何度か少し遠い焼肉店に連れていってくれた。

 高校に入ったらより一層野球に力を入れ、この地域で甲子園に行きたい、皆の喜ぶ顔が見たい。そういう風に思う力は募っていた。

 そのためにもある程度の学力も大事、10分休みの時はクラスメイトにノート等を見せてもらう。本当は一緒になって休みたいし、それこそ何気なくクラスメイトは協力的につくしてもらっているが自分のことをしたいはずだ。それでも奈央のことに皆尽力してくれる、先生も色々と協力してくれる人はいたが厳しい人もいた。「奈央にはもう少し緩くていいのに」とぼやいてくれるクラスメイトがいてくれたことが励ましになった。

 テストは上位に食い込むまでは限界だが、平均点より上、70点前後を維持することが出来た。クラスメイトのサポートはもちろんの事だが、テスト期間になれば彼女が率先して指導してくれる。彼女は運動は苦手だったが勉学は秀でていた。努力タイプ、それを教えてもらっている奈央が一番に感じた。

 奈央は勉強に関しては理解するまで時間がかかってしまうタイプ、できる人からすればじれったいと思うはず。しかし彼女はまるで経験談のように話しながら教える、それが親身になって聞きやすく、頭から抜け落ちることがあまりなかった。


 体育祭、中学では運動会といった方が正しいのか、それが一番学校生活で楽しかった一番の思い出になるだろう。

 奈央のところは陸上競技をクラス別で競い合う。1人2種目プラス最強リレー、そしてクラス全員リレー。

 砲丸投げで学校記録を総なめした後、3000m持久走を軽々と走る。全部出てくれとクラスから熱い眼差しが常にあったが、この日だけ他クラスから恨めしの目で見られる奈央は少し居心地が悪かった。

 最強リレーはアンカー担当。現役陸上部を差し置いてこの役目、陸上部のエース級のクラスメイトはいたが「スタートを任せてくれ!アンカー頼んだぞ!」と同じく重役のスタートを完璧にこなしてくれた。間の2人は周りに比べ少し遅い、奈央にバトンが渡る頃は最後尾、先頭とは30mくらい離れていただろうか。周りのアンカーも当然脚に自信があるものばかり目の色も違う。だがそれが奈央の勝負心に火が灯る。

 野球のベースよりも長い距離、小回りは気にしなくていい、全力で走っていい。普段よりも足を大きく上げ、腕も大きく振り、身長と筋力を存分に活かして直線を駆け抜ける。歯を食いしばる、バトンに力が籠る。1人また1人と越していき、ゴールテープを破ったとき夏の太陽が一年で一番心地いいと思った。

 クラス全員リレーは人数の関係で奈央が2回走ることが許された。最強リレーから休みなくすぐにこの競技は行われるが奈央はこれくらいへっちゃらだ。

 真ん中の順番とやっぱりアンカーを任される。真ん中の時、一気にごぼう抜きを披露する。その時、他クラスにいる同じ順番で走っていた彼女をもさっと追い越す。走っているので表情こそは見ることができないが凄く申し訳なくなった。走り終わると奈央は逃げるようにアンカーの場所に移動した。1位は取れなかったが爽快感は十分堪能できた。



(ん、朝だ、起きなきゃ……)


 奈央は意識を覚醒さえながらぼさぼさになってしまった髪と服を整え、布団を畳む。


(また懐かしい夢を見たような……なんだっけ……)


 それよりも服を着替え、薫たちの元にいかなければならない。これからを進めるために。

 奈央は自分の虚ろな記憶を気にすることなく着替えを始める。

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