31,元高校球児は少女と新たな約束
注;これはあくまでフィクションです。
「ははは……とりあえずなんとかなったのかな?」
奈央は疲弊の色を出しながら隣のワンミに苦笑する。薫のように行動してみたがやはりなれないもので疲れがどっと押しよせる。日中からの活動も相まって体力ゲージは3分の1くらいまで削られたような感覚だった。この世界に体力ゲージはないが。
マーナとマイルが戻ってくる様子もなく、一難去ったという状況だ。
問題は明日以降、マーナがどのような行動を示すか。
(マイル君がそばにいてくれると助かるけど……)
少なくともマーナのことを大事に思っていることは分かったので、どうかしばらく一緒にいてくれたらと願うばかりだ。そうすれば奈央はワンミともっと話がすることが出来るから。
ワンミも同じ苦笑で返す。少しずつだが表情を素直に出しくれることが嬉しい。
「そうですね……」
「ワンミさんあらためて尋ねるけど、マイルはマーナと仲が良いんだよね?」
「はい、お互い小さい頃から仲良くしていました。やっぱり歳が近いみたいでして、私はお姉さん的な感じで見られていました」
ワンミが少し目を細くし懐かしそうに教えてくれる。それはどこまでも遠く戻れない景色を見ているような表情。
話を聞くかぎり、前は3人仲が良さそうなことがうかがえる。
もうちょっと聞けないだろうか、そう思った時だった。
『奈央さん、奈央さん』
令からの念話だ。いったん奈央はそちらに集中する。
『はい。令さんどうしたんすか?』
『そろそろ陽が沈みそうだったので、その連絡でした。そろそろ宿に戻った方が良いです』
『もうそんなに時間経っていたんですか!?』
『ふふ。その感じだとワンミさんとお話できたみたいですね』
『はい。見つけることができて今まで話していました』
『良かったです。では後ほど』
そう言って令の念話が途絶える。
教えてもらって助かった。洞窟にいるので時間がわからない、もし連絡がなければ夢中で夜通しコミュニケーションをとることになっていたかもしれない。それぐらいワンミと話すことが楽しかった。
隣で突然静かに目を閉じた奈央をワンミは不思議そうにどこか心配そうに見られていたことに気づく。
「あ、ごめんね。令さんから念話でそろそろ夜ですよーって連絡があってね」
「そうだったんですね。もうそんなに時間経っていたんですね。洞窟だと太陽が見られなくて時間分かりづらいですよね」
ワンミさんも同じようなことを思ってくれた。それが奈央をむず痒くさせる。
「きょ、今日は流石に帰らないとだから……また明日ここに来てもいい?」
「私は大丈夫ですが、奈央さんこそ大丈夫ですか?その薫さんたちなど……」
「大丈夫。薫さんたちに許可は取ってあるし。それに、自分がもっとワンミさんとお話したいから」
奈央は屈託のない真っ直ぐな笑顔をワンミに届ける。
その表情をワンミは呆けるように眺めた。
無口になったワンミを心配するように奈央は、
「あ、明日来てもいいかな?」
「は、はい。私でよければ……」
「やった!それじゃまたね!」
奈央は手を振りながら流れるように洞窟を後にする。
(少しずつ、少しずつ……)
早く明日が来てほしいと奈央の口角は上がるばかりだった。
奈央は宿に戻る。ある程度は話しながら豪勢に、といきたいところだがクルギアスラ村は貧しいところ、奈央たちがそのように行動すればさらに白い目で見られる可能性があるので控えていた。
サンドイッチなどの軽食を令から受け取り自室に運び食べる、最近は皆で囲みながら談話することが多かったので凄く静かで寂しかった。一人で食べることにも慣れていたはずなのに。
本日の報告は明日の朝にするとのことだ。そのためこのまま後はシャワーと就寝だけ。
奈央は自室の鍵をしっかり閉まっていることを確認し、戦闘服を脱いでいく。今日は宿に入る前に事前に砂等の汚れは払ってきたので服を畳むだけだ。
下着も脱ぎ、シャワーで軽く洗い火魔法で乾かす、便利だ。
それから自分の身を清める。前回無意識に初めてシャワーをしてしまったが、やはりさっぱりするし気持ちよくリフレッシュできる。今回も水魔法で威力上げながらキレイにしていく。シャンプーで身体を泡立て、髪をサラサラにしていく。
シャワーを一通り済ませると肌はすべすべもちもち、その感覚は男の頃には味わえないもの。
確かに前の世界では彼女と手を繋ぐなどのスキンシップで女性の肌を知らないわけではないが、やはり自分で触るというのはまた違う感触。
(やっぱり汗を流すのって気持ちいい……)
シャワーを終えだぼだぼシャツの部屋着に着替える。この格好は涼しくて気に入っていた。流石にまた外で披露するのは避けたいが。
風魔法で髪を乾かしていく。ぬるい風が髪をなびかせる。
(もうちょっと高いと早く乾きそうなんだけどなー……)
もう少し高い温度で乾かすことが出来れば、奈央の髪はロングなのでこのままでは時間がかかる。この風にもう少し熱を加えることが出来たら。
奈央はそのイメージを実践してみる。
魔力はかなりもっていかれたものの、成功した。ドライヤーの完成だ。
(魔法って、混ぜることできたのか……めっちゃ疲れるけど……)
生乾きにならないように丁寧に髪を乾かす。そうして自分で髪をセットすることも奈央は苦に思うことはなくなっていた。
そして深夜、今日も夢を見る。




