30,元高校球児はショタに出会います
注;これはあくまでフィクションです。
「奈央、どうしてここがわかったのですか?」
ワンミが住処というクルギアスラ村に隣接する山の端の方にこの小さな洞窟がある。奈央はワンミと交流を深めるべく、魔法について色々聞いていたところをマーナが気配なくやってきた。
奈央はひと呼吸置き、冷静を装う。
「ま、魔法を使ってここを見つけたっす!」
「なるほど。だとすれば奈央は高難度な魔法を持っているのですね。真意は分かりませんが。私の祖父、村長が言ったようにワンミには関わらない方がいいと忠告したのですが」
「ワ、ワンミさんとは森で偶然会ったから、もっと仲良くなりたい、そう思っているんすよ!」
奈央は熱くなりすぎないように、頭が回るようになんとか自身の高揚を抑えながらマーナに口論する。
「そうですか。ですがそれは私どもは困ります」
「ど、どうして困るんすか!?そもそもなんでワンミさんだけこんな遠くにいるんすか!?」
「それはあなたたちが知らなくていいことです」
「なんでなんすか?!部外者だからすか?!」
ワンミからそこらについて聞き出そうとするとマーナが邪魔をする。だったらマーナから直接聞き出してしまえばいい。
なぜワンミという凄く可憐で、魔法の能力も高く、この世界で順応できそうな子が、こんなにも疎まれるのか。髪色が銀髪だからか、確かに散策してみてワンミと同じ髪色はいなかった、ほとんどが茶髪だ。しかしそれが問題ならマーナも髪色が真紅、祖父は違う。
マーナ本人を色々聞き出せばいいのか、奈央は慣れない口論で必死に食らいつく。こういう時薫ならどうしていたか、思い出しながら。
「なら質問を変えます。マーナ、あなたはどうして髪色がそんなに赤いんすか?」
「部外者には関係ないことです」
「もしかしてネガティブに捉えましたか?違うっす。真紅のように綺麗だから、何か理由があるのか聞きたいんす」
「……?」
初めてマーナは首を傾げた。
これで良い、とりあえずこの口論の主導権を握ることにあるのだ。
「マーナさん、話し方も大人っぽくて魅力的っす!いつからそのように話すようになったんすか?」
「……??」
再度マーナは首を傾げる。効果は覿面。というか自身の対しての質問に明らかに慣れていないようだった。まるで何言ってんだこいつ的な雰囲気をマーナから少なからず感じる。
(とりあえず時間は稼げたけど、どうしよう……)
このままでは埒が明かない。不穏な雰囲気で終わることは無くなりそうだが話が進まない。せっかくならマーナについても色々聞き出せたらと思ったのだが。
いっそのことこのままマーナを突き飛ばして、脱走しようか。それは出来ないのも分かっている。隣に座っているワンミからマーナを傷つけることはしないで欲しいと言われている。それに逃走したところで今のワンミは困るだろう。病んだ心に過激な行動は毒だ。
(せめてあと1日、2日あれば………!)
村で冷たく厚くなってしまったワンミの心の氷を溶かし、この状態から抜け出す。もしそれでクルギアスラ村にいられないなら一緒に来ればいい。もしそれで何か困ることがあるなら王都から抜け出してしまえばいい。
しかしそれを今のワンミに言っても無理と諦めるはずだ。ある程度時間をかけて、支えて、けど無理強いはし過ぎず。
これはエゴなのだろうか、よくよく考えるとそうだ。でも薫たちに言われたやりたいようにやっていいと。前の世界の後悔から断ち切り進むために。
そんな思考をグルグルとフル回転させていると、新たな足音が聞こえた。奈央でなく、ワンミでもマーナでもない、新たな人物。
「マーナ!やっと見つけた!あ!それにワンミ!早くマーナを元に戻してくれよ!」
松明火球をたくさんつけた洞窟内はそのものの素顔が鮮明に捉えることができた。マーナより少し幼いくらいの少年、声変わりの最中だろかその時期特有の高くもなく低くもない声がこだまする。奈央よりは少し濃い金髪で服装はワンミを最初に見かけた時よりは豪勢だが、動物の毛皮をシャツに繕った、何回も修繕した後があった。
「……マ、マイル……」
ワンミのすぐに確認できたらしくその少年の名前を呟く。声色は低く、こちらも訳ありのように奈央は感じる。
「マイルですか。仕事はどうしたのですか?水汲みの作業は終わったのですか?」
淡々と話すマーナにマイルは近づき、手を取りながら、
「水汲みしていたらマーナがこっちに行くのが見えたから。久しぶりに見たから!どこ行っていたの?!心配だったんだよ!」
マイルはマーナに一生懸命に伝えている。その光景を奈央は観察する。
確かにマーナも村からだいぶ離れた所まで来ていたので数日は不在だったはず。そして凄く心配そうに大事そうにマーナを見るマイルの態度。子供らしく少し力加減が緩いが感情もそれ以上に伝わる。なぜだろうか。
この村は子供が極端に少ないと観察していた。いないというわけではないが、出生率があきらかに低く、今日のワンミとの散策でもほとんど見かけなかった。これもこの村の課題か、何か事情があるのか。
それゆえにマイルからすれば同年代の、まして異性であればなおさら貴重な存在、少なからず特別には思っているはず。
「体調は大丈夫?!怪我や病気はない?!」
以前マーナを心配そうにマイルは見つめていた。
「ワンミさん、マーナとマイルって……」
奈央は隙をつき小声でとなりのワンミに問いかける。
「2人は幼なじみ、です」
「やっぱり。その、付き合ったりしてるの?」
「そ、それは……」
ワンミが蠟梅した時だった、マイルがこちらに振り向き、
「ワンミ!いつになったら元のマーナに戻るんだ!得意の魔法で直してくれよ!」
「……自分には無理です……」
「なんでさ!だってあの日からマーナが変わってしまったんだよ!どうにかしてよ!」
マイルは泣きじゃくるようにワンミに訴える。それにワンミは眉尻を下げていた。
奈央はマイルの言葉でひとつ確信する。マーナに取りつこうとした時にいた何か、やっぱりあれはマーナ自身では別物が憑依し、乗っ取っているのだと。
マイルは今度は奈央に視線を向け、
「だったらあなたにお願いできないですか!?確かに来訪した方ですよね?お願いします!マーナを助けてください!」
めいいっぱいお辞儀し、誠意を込めるマイルに奈央は後ずさる。その真っ直ぐさが羨ましく思えた。
「え、えっと……マーナさんには何があったのですか?」
とりあえず事情を聞かなければ、対処方法も分からない。それにこれはチャンスでもある。マイルという真っ直ぐな少年はきっと包み隠さず彼女のために話してくれる、村が隠したがっているワンミについての情報について何か聞き出せるかもしれない。
「マーナには……」
マイルが顔を上げ話始める時だった。
マイルに手を握られていたマーナが洞窟の出口のほうに身体を向け、握り返しながら、
「マイル、私は疲れてしまいました。役場まで送ってくれますか?」
「え?で、でもいまあの人に……」
「とても疲れてしまい今すぐ役場に戻りたいのです」
「分かった!」
マーナからの訴えが嬉しかったのだろう、素直にマイルは従った。
マイルも出口に踵を返す時、再度奈央とワンミに思い出したかのように振り返り、
「またお願いしにくるから!」
そう言ってマイルとマーナは手を繋ぎながら出ていった。
洞窟に残った奈央とワンミ、どこか二人とも疲れた様子だった。
再度二人は隣同士座る。
「はは、なんか疲れっちゃった……」




