3,フェミニスト冒険します
注;これはあくまでフィクションです。
「ここいらでキャンプしましょうか」
薫がそう言うと青髪の青年、五陸令と金髪の少女、日立奈央は頷き野営の準備に入る。
薫はため息をつくように言葉を彼らに投げる。
「しかし本当に目的地遠いわねー、馬とか車が欲しくなるわね。まさか馬がこの世界いないになんてびっくりよ、ステータスのおかげで身体の疲労はそんなに感じないけど、精神的にまいっちゃう」
「まったく開拓されていないみたいですからね。でも薫さん、馬は見つかっているのですよ、王都から生息地が遠すぎてまだ連れて来られないみたいですが……」
令も共感しながら薫に答える。
「早くアッシーが欲しいわね~。異世界なんだからワープとかできたらいいのに、それすら無いなんて発展途上だと大変だわ」
薫は嘆きながらも話しながら準備を続ける。令は聞きなれない単語があり疑問に思いながらも質問は邪推と考え準備に集中する。
薫は奈央がこちらに何か言いたそうにしていることに気づく。
「あら?どうしたの?」
「その……トイレにいきたいっす……」
「お花摘みね、分かったわ。いい?下を見なければ大丈夫だからね、常に正面をみるのよ!」
「は、はい……気を付けます」
そう言い、奈央はその場を後にした。その姿を薫は目で追う。
(可愛い……)
だが男だ。元男だ、と我に返る。
令が薫に恥ずかしそうに話す。
「あれから3か月経ちましたけど、こればっかりは全然慣れないですよ……性別逆転だなんて」
「そうね、なぜかワタシたち全員変わって召喚されたようだから……ワタシもいやよ!でも全員そうだと分かっているから、この3人でいる時はあまり気にしなくていいのよ、そのほうがストレスなくていいわ!」
「助かります、男性の立ち振る舞いなんてまったく分からないので……」
「ホントねー。そもそも慣れる日なんて来るのかしら……」
薫はひとりで焚火になる枝を探しながら、記憶を整理していた。
鏡前で気絶してから3か月が経った。
あれからたくさんのことがあった。
転生者3名は全員性別が逆転してしまっていたこと。鏡の前で気絶したあの時、全員違う自分になって驚いた。薫たちはその日に正直に打ち明け、そして転生者内の秘密にすることにした。仮に王様に言っても信じてもらえるか怪しいし、そもそもそういう仕様だぞ、みたいにあの王から言われるのが、皆気が引けたからだ。
ここらの問題は山積みだった。まずはトイレ、薫は気絶から起きて早々に催し行きたくなった。ただ普通に用を足せば、間違いなくもう一回気絶してしまう、悩んだ結果試しにあまり下を見ず、深呼吸の方に集中すればなんとかなった。直接見なければ大丈夫!の精神でしばらくは乗り切ろう、と薫は決め、2人にも相談して今まで過ごしている。
次はお風呂だ、とトイレのあと薫はすぐに考えた。ただ幸か不幸かこの国ではあまりお風呂は主流ではないらしく、タオルで身体を拭くか水浴びがまだ一般的なようだ。こちらも身体を直視せずで、薫はトイレと同じ考えで初夜に相対したが、気絶した。拭くという行為は身体をラインが鮮明に分かりやすく、想像力に長けている薫には難しかった。ただ他にどうしようもないので慣れるしかなく、薫は夜が来てほしくないと今でも思っている。
3か月、なんどかお風呂に入りたいと薫は考えたが、目のやり場がなくなることを悟った。しかし魔法の発展で今後少しずつ普及していくらしいとも説明をうけた。いつか入れる喜びと目のやり場の恐怖の感情が、思い出す度葛藤している。
とりあえず性別についての応急処置はこれですんだ。他に細かなところはあるかもしれないが直視しなければなんとかなった。
口調、話し方はどうしたらいいと奈央から相談を受けた。転生前の使い方で見た目と違いすぎたら良くないではと思ったらしい。薫らは考えたが、そのままでいいんだと、開き直ることにした。
ただでさえ見た目が反転してしまっている動揺が残り続けている中で、新たな対処をしたら、薫自身が持たないと思ったからだ。それもひとつの個性で良いのでは?と令のプラスな考えもあり、そこらは気にしないことにした。
3か月、生活面での苦労は絶えなかったが、令・奈央がいてくれて本当に良かったと薫は思った。
五陸令、今は青年になってしまったが、元は女子校をエレベーター式で上がってきた大学生と、薫は聞かされた。3か月隙間時間の談笑なので詳しいことはまだわからないが、出生は良く、育ちが良いようだ。どこか気品さがあったのはそのようなところから滲み出ていたのかもしれない。
ただ転生前は男という概念が薄かったらしく、免疫がないようだった。
(彼……彼女をしっかりサポートしてあげなきゃ)
薫も男に対して苦手意識は高いが、そのように思った。
日立奈央、元高校男児と教えてくれた。野球部に入っており、地方ではそこそこ名の知れたエースだったらしい。と周りから言われるが、プレッシャーで辞めたんですけどね、と苦笑いしながら語ったいた。才能はあるようだけどメンタルはひ弱、常におどおどしているのはそれが原因だった。
そして女性にたいしてどこか苦手意識を持っているように話すこともあった。
(なおちゃんもしっかり見てあげないとね、あと可愛いわ……)
だが男だ。元男子だと薫は我に返る。
そして薫、今はこうして2人のことを考えている。
転生前だったらきっと思いもしなかっただろう。きっと、転生しなかったから男に変わらなかったら、協力なんて単語が頭に浮かぶことはなかった。いくつもの出来事が重なり、窮地に陥ったからこうして3人で協力している。
1人では限界があることを転生前、薫は良く分かっている。そして何より寂しい、もし1人だったら、男になったという絶望で自暴自棄になり、きっと病んでしまっていただろう。
でも2人が、近くに、同じ境遇にいたことが助かった。それにせっかく転生したのだ、のびのび生きようと思っている。前の記憶を活かしながら、前と逆の生活を目指して。
(そういうところでは王に感謝なのかもね、嫌いだけど)
王とはあれから、話し合い、しばらくは王都から離れた村などに、外交に近い形で、国と友好を結んで欲しいと言われ、薫たちは承諾した。
最初は傘下にしてほしいと言ってきたが、薫たちがつっぱね、このようになった。
(傘下だなんてそんなことを強行したら戦争になっちゃうでしょ)
薫たちは無駄な戦いはしたくない、意見は一致していた。いくら異世界に来たといえどそのように自らやるのはごめんだった。
ただ外に出る以上は自衛能力はあった方がいいらしく、この3か月間はその訓練に励んでいたというわけだった。
その他にも問題、あくまで薫個人の価値観になるが、山積みに感じていた。色々と調べたり体験したり、実感しないとわからないことが非常に多いが、その中で一番痛感したものが、文化レベルが転生前の世界よりも低いことだった。
歴史の教科書で習ったことがあったような、街の風景、政策、向こうでは近代といわれていたことが、目の前で行われていた。娯楽も当然ながら少なく、民衆の幸福度は低そうに感じた。
(だからあの王……発展がどうとか、一夫多妻制だわけわからないことを言っていたのね!そこらもいずれかなんとか……できるのかなぁ……)
こうして性別逆転してしまった薫たちの冒険(外交)が始まった。
鴨鍋ねぎま:王都で過ごした3か月は少しずつ回収していきますよー!王都の名前はラマットン、王の名前はルトリービヤ・レベリヤン、大陸名はイ・クワリティ、覚えるの大変です()
赤烏りぐ:まさかのTS転生(転性)、自分がなったらって思うとちょっと楽しそうかも……w薫たちが順応していくのかにも期待!