29,元高校球児は太陽を発見します
注;これはあくまでフィクションです。
火魔法の特訓で洞窟内がパーティ会場のように明るくなった頃、
「ちょっと休憩してもいい?さすがに疲れちゃった」
慣れない魔法の使用で奈央の魔力がガリガリ削られ疲労感が募っていた。
「……そうですね。分かりました」
ワンミは微笑みながらそれを了解してくれた。
「その前に今の時間確認したいからお外に出るね。すぐに戻ってくるから!」
奈央は夢中で魔法を操ってしまったので時間がどれぐらい経ったのか気になっていた。洞窟内だとどうしても時間が分からなくなる、この世界に腕時計は存在せず日時計のみ。デジタル時計等が恋しくなっていた。
奈央は夢中になりすぎるとついつい時間や周りが見えなくなってしまう。この前のファイヤーボール放火魔未遂事件はしっかり反省している。
ワンミの了解の声を聞くよりも速く影移動で一気に往復を謀る。
洞窟を出て太陽に手をかざす。太陽は天辺の折り返し地点を過ぎたくらい、14時過ぎくらいだろうか、まだまだ時間は大丈夫そうだ。
そして一気にワンミに元に戻る。ワンミからすれば一瞬の出来事で目をパチパチとしていた。
「……もしかして、今ので見てきたのですか?」
「うん。これが自分の得意な魔法だから」
奈央はそう言ってはにかんだ。
洞窟内にちょうどよく2人が座れそうな場所を見つけ、腰を降ろす。
奈央は休憩時間になれば気を使って水分補給を取るようにしていた。塩分も程よく。
「ワンミさんも飲みますか?」
「……いいんですか?」
「もちろん!」
その光景をジーっとワンミが見ていたので奈央は提案する。水分補給自体はそこの水溜まりからでもできるだろうが煮沸消毒が必要、こっちのほうが手っ取り早い。
奈央はワンミに左手に水筒を渡し、右手で塩をひとつまみ取ってもらう。これは移動の時から行っていたのでワンミは慣れている。
奈央が先ほど口付けたところに被せるようにワンミは飲んでいく。ちなみに2人ともそれに気づいていない。
「……ありがとう、ございます。奈央さんたちの、塩?と一緒に飲むと体調が良くなります」
「うんうん。やっぱり塩分補給も大事だからね。これのおかげでここ数日自分も体調がいいから」
「……それと、奈央さんの魔法、一瞬で移動するの凄いです。それって自分にも出来ますか?」
「えーと……これは少し特殊な魔法というか……」
奈央は頬をかく。
(黒魔法の使い方ってどうやって説明すればいいんだ?!)
白・黒・無の魔法、無はイメージを強めればいけそうではあるが残り2種の説明が何ともし辛い。
そもそも奈央は転生ゆえの特典で使用している状況、元の人はどうやって使用できるようになったか分からない。適性検査的なものが必要なのだろうか。
「移動は今は難しいので、とりあえず消えるのを……」
奈央は言いながらイメージを強め、ワンミの前から姿を晦ます。今回は気配消し重視バージョン。
「……!消えました!凄いです!奈央さん、そこにいるのですか?!」
奈央はすぐに魔法を解除し、
「座っているので、ここにいますよ」
「……!本当です!凄いです!どうやっているのですか!?」
「うーんと……なんて言えばいいんだろ?自分の気配を消したいっていうイメージで、あと対象者から見えなくなりたいとかもイメージに入れるといいかも?ごめんね、自分も説明が苦手で」
「大丈夫ですよ。やってみますね……」
苦笑する奈央をフォローするワンミはそのまま目を閉じ、気配を消そうと奮闘を始める。
「どうでしょうか!」
「ワンミさん、ばっちり見えます」
「……難しいです……」
「限られた人しか使えないみたいだから落ち込まなくても全然大丈夫だよ!それより簡単に火魔法扱っているワンミさんが凄いよ!いつから使えるようになったの?」
松明火球、これもイメージ力がある程度ないとしっかり機能してくれないしそもそも壁にくっけるのが至難。奈央は野球の手癖が抜けなくて勢い強く放ってしまっただけなのだが。
少なくとも常人にはここまで火魔法を扱えない。
「自分は生まれた時から、なのかな?人前に使うことは滅多にない。あんまりこの地域では火は必要ないので」
「そっか……ワンミさんめちゃくちゃ凄いのに……そうだ!大きい火球とかって作れるの?!」
「はい、ちょっとやってみますね」
ワンミは立ち上がり、魔法を使う態勢に入る。
奈央はこの時点で周りの空気が雰囲気がピリピリと熱くなっていくようなそんな感覚を覚える。
ワンミに視線を戻すと手元にある火球がどんどん大きくなっていく、自身の身長を超えそうな外径、そこに太陽が誕生したような熱気、明るさを全身に感じる。
(凄い……!)
そしてはじけるようにそれは消える。
ワンミは苦笑を交えながら、奈央の隣に戻る。
「す、凄いですよ!しっかりした大きい火球、薫さんも令さんも出来ない!」
「そのお2人も魔法が使えるのですか?」
「うん。自分よりも器用にね。火魔法も使っているんだけど、でもワンミさんの火魔法は本当に凄いよ!ここまで誰も出来ないから!」
「……ありがとうございます」
興奮気味に話す奈央におされ、ワンミは顔を少し赤らめている。恥ずかしいのだろう。
「ご、ごめんね!一気に話しすぎちゃった!」
「い、いえ!誰かに魔法を見せて褒められたことなかったので……」
「そうなの?こんなに凄い魔法、村の他の人使えないでしょ?」
「そうですね。なのでびっくりされて……」
「そんな!うーん……ワンミさんのニュアンスだと気味悪がられた感じかな?」
「はい」
ワンミは苦笑気味で答えてくれた。
人間何かに富んだ力を披露すると、それを持たないものたちは驚き怖がる。奈央も中学時代、ピッチャーの実力を間近で見てみたいとクラスメイトに言われ披露したら、あまりに速い直球の唸る音に驚愕され、男女共に引かれてしまった。普通にショックだった。
その経験を活かし、奈央はワンミをしっかり称賛する。
「ワンミさんの魔法はとても凄くて強いんだよ!王都、ラマットンて言うんだけどそこにもワンミさんくらい使える魔法使いはいないから!それこそワンミさんの魔法を使って活かせることがいっぱいあると思うよ!」
「……ありがとうございます。そう言ってもらえるの、嬉しいです」
「ううん。ワンミさん色々凄い力持っているのに自信なさそうだから……自分が褒めて褒めまくる!」
「そ、それはその……恥ずかしいです!」
ワンミは赤面しながら両手をパタパタしながら一生懸命に訴える。といってもそれが嬉しいことも分かっているのであくまで建前のようだ。そんな姿も可愛かった。
「今日は魔法は疲れちゃったから、また明日とか教えてもらってもいいかな?!」
「はい。自分でよければ……」
「やった!ありがと!」
奈央は興奮のままワンミの手を取り、上下に降って喜びを表した。
そんな絶妙なタイミングだった。
「ワンミ。それと奈央、さんですか?どうしてここが?」
「……!」
聞いたことのある少し幼げがあるのに大人っぽい口調、振り返るとやはりマーナがいた。
(油断した!でも気配もしなければ足音もしない!)
ここに侵入したことを一番ばれたらマズい相手に見つかってしまった。




