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26,元高校球児は少女を連れ出します

注;これはあくまでフィクションです。

(さてどうやって探そう……)


 奈央は宿を出て一歩、顎に手をつく。砂漠のクルギアスラ村に降り注ぐ朝日は容赦なく照りつける。

 薫と令はすでに出かけてしまった。奈央は朝の準備のため少し後からの活動だった。男の時に比べ身だしなみ等、気を遣うことが増え時間がかかる。あの時、彼女はこの準備をデート前に毎回していたのか。急かしたことはないけれど時間かかっているなと思っていたことがある。

 奈央は頭を振り、思考をリセットする。今できることを、これからやるため。過去のことを思い出しても変えられない、変わらない。しかし今は変えられる、自分の行動で変わる。それがどんなに困難でも自分でやることに後悔はない。他人からなんと言われようと自分のやりたいことを貫き通す自身の気持ちの強さを。

 目を瞑りイメージする。索敵魔法を使う。


(マーナにばれても構わない……)


 思いつつ真っ先にマーナの気配を探る。役場の中にいる。動いている気配は感じずおそらくまだ寝ているのだろうか、それなら絶好の機会だ、奈央は悟られないようにすぐに意識を別に向ける。


(ワンミさんは……)


 クルギアスラ村周辺をイメージして索敵しているが、ワンミの気配を感じない。もしかして連れ出された、それとも逃げたのか、奈央は索敵範囲を少しずつ広げる。範囲を広げれば魔力消費量は上がる。内側から削られる感覚が強くなっていく。


(自分はもうそこまでやわじゃない!)


 範囲を村から2倍くらい広げたくらいだろうか、ワンミがいた。

 奈央は目を開けワンミがいる方角を確認する。そこはクルギアスラ村に隣接しているそこそこに標高がある山、その内部だった。

 おそらく山に洞窟があるのだろうか。奈央はすぐに山に向かって駆ける。

 もう遠慮はしなくていい、リミッターも自分を縛る鎖、奈央は黒魔法で影移動を行う。以前だったら建物などの影に隠れながらコソコソと移動していたが、今回はそれでは日がピカピカに照りつけるこの地では移動できない。

 影移動は自信が影になって移動する魔法、別に建物なんかの影に入る必要はない。

 気配を消しながら、影の黒色を極力薄めながら奈央は移動する。いつも以上に強いイメージ体力がどんどん絞られる、そして夏の暑さ、懐かしい気持ちだ。


(これくらいなら、野球やってころに比べれば!)


 駆けながら山のふもとに差し掛かり、縦穴を発見する。再度索敵をしワンミ以外人の気配がないことを確認し洞窟に侵入する。

 少し中に入ったところにワンミはいた。


「……!なに!」


 ワンミに気づかれた。驚き慣れない大声を出している。


(やっぱりワンミさんも魔力が高いんだね……)


 奈央と同等かそれ以上、今回はマーナに憑依する時に比べればカモフラージュに魔力は使っていない。しかしそれでもそこらの魔力量の人たちには気づかれない程度にはレベルは上げている。それで気づかれた、ワンミはやっぱり強かった。

 奈央は影移動をやめ、


「おはようございます、ワンミさん」

「……奈央、さん?」

「そうです!暗くて分かりにくいですよね」


 奈央はワンミの傍まで近づく。洞窟内は少ない松明の明るさしかなくかなり薄暗い。

 ワンミは奈央の表情が確認できるくらいまで近づくと安堵していた。


「……どうして、ここが?」

「索敵の魔法を使ったんです。あまりいい方法とは言えないので秘密でお願いします」


 奈央は苦笑しながら頬をかく。露骨に黒魔法使いだなんて言ってしまえば驚ろかれ引かれてしまうかもしれない。

 今はワンミさんともっと仲良くなりたいのだから。


「……魔法で、凄いです」

「ワンミさんは何をしていたのですか?」

「……ここに、いました……」


 ワンミは俯く。マーナに連れていかれここにいるのだろうか。

 奈央はできるだけ穏やかに、


「ここで寝泊まりしているってことですか?」

「……はい、自分の住処ですから……」

「え?でも何もないじゃないですかここ……」

「……そうですね。マーナが、ご飯を運んでくれるので」


 そう言ってワンミはいつもの乾いた笑いをする。

 奈央はワンミの手を取り、


「ワンミさん、ここから出ても大丈夫ですか?」

「……はい、さすがに、お手洗いのときは場所を変えるので……?もしかして、自分をここから?あんまり長い間、外に出ているとマーナに見つかって……」

「大丈夫です。考えがあるので」


 奈央はワンミの目を真っ直ぐ見ながら伝えた。



「うん、マーナの居所は変わっていないね。ワンミさん。約束通り村の案内よろしくね!」

「……はい」


 ワンミは先ほどは違う少し柔らかい表情で奈央に返事した。

 奈央は気配を消せる魔法を多く使うことができ、専門的に扱う。逆もまた然り気配を増幅する魔法も黒魔法にはある。ワンミから銀髪の綺麗な髪を一本もらい、それに念を込め洞窟に置いておく。ワンミと人の姿と同等の気配が感じるように。

 そしてワンミ本人は奈央と共に気配を消す。といっても完璧にはまだ熟練していないのであくまで薄くなるという表現の方が適切。しかしマーナに気づかれない程度に、できる範囲で最大で。

 ワンミの服装は令が仕立てた奈央と同じもので色違いのまま、より隠密の雰囲気を出すため、二人でフードを被っている。何か秘密の作戦をしているみたいで奈央はワクワクしていた。といっても本当にばれたら一大事なので浮かれ過ぎずに、目を配りながら警戒は怠らず。

 太陽はまだ天辺に到達しておらず、一日はこれから。


(今日はとことんワンミさんと一緒にいよう)


 奈央はワンミに微笑むと、返してくれた。それが嬉しかった。


 そして二人は魔法のために手を繋ぎながら村に入っていく。

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