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24/95

24,元高校球児は汗を流します

注;これはあくまでフィクションです。

 馬たちが安心してお休みできるようになった倉庫から、奈央たちは出る。

 倉庫内はだいぶ涼しくなっていたようで外の日差し、気温がもあっと奈央たちに襲いかかり汗が額からたれる。

 日差しもだいぶ傾き、そろそろ夕焼けと表現するのが妥当な時間になっていた。

 先程までの移動、体力的にも疲労感があり少し休みたかったが任務のためもうひと踏ん張りだ。

 奈央たちは先ほど前を通ったいかにもな豪邸に入る。エントランスは広々としてさっぱりしているというのが一番の感想だった。アジアンな作りようでところどころに年季を感じる。物はほとんどなく、砂を固めて作ったような装飾品が何個かある程度、それも色は統一で寂しさすら感じた。

 世界遺産のように模様が施されていたのは外見だけだった。

 辺りを見渡すと廊下の先で顔出している老人、村長を発見する。

 奈央は薫たちに伝え、村長が待つ応接間に入った。こちらの内装もさっぱりしている。色をつける技術を持ち合わせていないのか家具は土の色、明るい赤め基調に統一されている。土で作ったテーブル、土で作った長めの椅子、土で作った装飾品がちらほら、申し訳程度に絨毯が下に這ってある。

 どうぞどうぞと村長が合図し、長めの椅子に薫・令・奈央の順番で座っていく。

 奈央たちが座った後に村長も対面に座り、


「あらためてようこそクルギアスラ村においでくださいました。マーナから軽く事情は聞いております」

「話が早くて助かります。さっそくですがクルギアスラ村はどんな村か教えて欲しいです。ワタシたちは今回この村には初めて来ましたので」


 薫が慣れない口調で仕切っていく。


(ワンミについて聞かないと……!)


 奈央はどこかの流れで村長に聞き出したいと思っていた。もしかしたら薫か令がしてくれるかもしれないが、これだけは外せない、誰かが忘れるなんてことがないようにヤマを張る。

 トンギビスタ村の時はお茶を出してもらったが、クルギアスラ村ではそのような歓迎はなさそうだ。


「クルギアスラ村、単刀直入に言えば貧しい村です。後ろの山があるのを見たと思いますが、あの山で水を取ったり、食べられる穀物を栽培したりでなんとか賄っています」

「山から水が湧き出るのですか?」


 令が質問する。話を詰めていくのは令の担当だ。役目を終えた薫はあくびをかみ殺している。涙目だ。


「はい。湧き出してるものありますが、地下水の水脈もありますそこから引っ張きて、という感じです」


 村長はマイペースに淡々と話していく。少なくともこのような話し合いには慣れているようだ。


「ありがとうございます。そのような形で水は賄っているのですね。穀物もその水を使用して栽培しているのですか?」

「はい。山の付近でならなんとか育てることができる、という感じです。しっかり管理を施さないとすぐ枯らしてしまうので、つきっきりですがね」

「居住地と農地が少し離れているのには理由があるのですか?」

「……この地域は雨季が短いながらも存在します。そのため土砂崩れが頻繫に起こるで安全を鑑みてこの場所になりました」

「なるほど、雨季の時期は何か作物は作るのですか?」

「……作物も流されてしまうので、もったいないですが作っていません」

「なるほど、ありがとうございます」


 令は顎に手を伸ばし熟考する。怪しい所がないかチェックするようだ。

 その間に薫が姿勢を正し、


「メイン通りに商店街みたいになっていたけど、金銭はあるのね」

「はい。物々交換でもいいのですがトラブルが多かったので。住民それぞれが役職を見つけ稼いでいっております」

「へぇー。お店は何が売ってあるの?」

「日用品や装飾品、武器とか様々です」

「へぇー。そういえばクルギアスラ村は何か特産品とかってある?貿易するならそういうのがあると便利なんだけど」


 核心をつく薫の問いかけ、令も判断材料のために耳を傾ける。それを尻目に村長は淡々と話していく。


「うちの村には自慢できるものはございません。申し訳ございません。そのため、何がこの村の貿易材料になるか見ていただく思っております」


 バトンタッチで令が問いかける。


「私たちに決めて欲しい、ということですか?」

「はい。何でも構いません。良さそうなのがあればその産業の人員を増やし増設します」

「分かりました。それですと数日間滞在したいのですがよろしいですか?」

「はい。あの動物とは別の宿を用意しております」

「分かりました」


 令は薫と奈央にアイコンタクトを取り、数日の滞在を決定する。


「今日はこの辺りでよろしいですか?老いぼれには厳しくて……」

「あらそう。そしたらまた明日……」

「ちょ、ちょっとだけいいですか!?」


 奈央はヤマの這っていた質問のため、顔を上げ声を上げる。


「……何ですか?」

「ワンミさんについてです。彼女はなぜ逃亡していたのですか?何かキツイ理由があって逃げ出したんじゃないですか!?」

「……理由はワンミに聞かないと分からないので……」

「ワンミさんは村で何の役職なんですか?」

「……彼女のことは忘れた方がいい……私は出るぞ」


 村長は露骨にはぐらかした。やはり何かある。それに感づいた令が立ち上がり部屋を出ようとした村長を静止させる。


「忘れた方がいいとはどういうことですか?そこだけお答えを、お願いできませんか?」

「……彼女はこの村の異端者だ。だから忘れていいと言っている」

「ならワンミちゃんをわざわざ連れ戻す必要なかったんじゃない?」


 薫も立ち上がった。

 流石の質問攻めに村長はポーカーフェイスを崩し、眉を寄せ始め、


「……申し訳ないが、彼女のことは忘れて欲しい。私の口から話すことはないんだ。他の村のものに聞いても答えないだろう。それだけ彼女はこの村の……厄介ごとなんだよ」


 声を荒らげて話す村長に、奈央は唇を嚙み締める。身体に力が入る。

 それを近くにいた薫が肩を軽くポンと叩き静止させた。我に返った奈央は薫の方を振り返りアイコンタクトされる。

 今ここで事を荒げても仕方ないと。


「わかったわ。ごめんなさいね足止めしちゃって、また明日もよろしくね」

「ああ……」


 薫の言葉に令が道を開け、粛々と出ていく村長。

 その背中を奈央は無表情で目で追った。



 その後宿舎の宿主が出迎え、宿に入る。

 そのまま個室に案内され、奈央は迷わず開ける。

 個室は1人でかなり狭め。ベッド、机、椅子で大半を占めている。

 すぐ隣のバスルームをチェックする。水は使えるが水圧は弱くシャワーに使うには心もとない。浴室にお風呂はなく、あくまで水浴びができる程度。

 今すぐ奈央は身体を清めたいと思っていた。移動で疲弊し、頭の中は先ほどの話の事。一度さっぱりリセットして考え直したかった。

 奈央は部屋に荷物を置き、服を脱ぎ捨て浴槽に入る。

 心もとないシャワーで身体を濡らし、浴室にあったシャンプーを身体全体になじませる。香りはこそは無かったが泡立ちよくなじんだ。そのまま髪も雑に洗っていく。こうして身体を洗うのは初めてなので不慣れゆえに長い髪に指は絡み、痛みで手を止める。


(何してんだろ、自分……)


 ゆっくりと絡まった髪と指を取り解き、あらためて丁寧に洗う。


(これからどうしたらいいんだろう、後で薫さんたちに相談しないとな……)


 初めてしっかり洗う髪はそこそこ汚れていたらしく、長髪の金髪の輝きが当初の艶やかさを取り戻していた。


(自分の髪ってこんなに綺麗だっけか、嬉しいな……ん?)


 一通り洗い終わった後、シャワーでは洗い落とすのに時間がかかるため水魔法で一気に滝のような水量でさっぱりさせた。

 それから奈央は違和感は覚える。どうして自分は普通に裸で洗っているのか。まだ女性の身体に慣れていないというのに。


「あわわ!」


 これ以上叫ぶと薫たちが駆けつけラブコメが始まってしまうため、心の中で絶叫し続けた。



「おはようございます」


 奈央は寝ぼけながら約束の時間に宿のエントランスに向かう。


「なおちゃんおは……きゃぁぁぁ!」

「奈央さん!奈央さん!」


 何かが起ころうとしていた。

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