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23/95

23,元高校球児は次の目的地に着きました

注;これはあくまでフィクションです。

 太陽も天辺を過ぎ西日が暑くなる時間帯、奈央たちは引き続き村に向けて移動していた。

 馬のおかげでかなりの距離を移動してきたが村にはまだ着かない。もう少しだとマーナは言っていたが、奈央たちが滞在していた森からは明らかに遠かった。


(ワンミさん、そりゃヘロヘロになるに決まっているよ)


 奈央は馬に右手で冷風を送りながら、手綱を持つ左腕で汗を拭う。

 この地域は砂漠、昼は焼けるように暑く夜は凍えるように寒い。体力の消耗が激しくなってしまう。それをワンミは、村から100キロ以上ありそうな森のところまで逃げていた。おそらく休まずに。

 奈央は葛藤する。あの時ワンミを見つけ看病したからマーナに見つかってしまった。もしあのまま森をも超えたら見つからずに逃げきれていたのだうか。しかしワンミは朽ち果てることなく体力は続いたのだろうか。

 息ひとつきらさずに来たマーナも不思議だ。何かの魔法で自身にバフをかけない限り、平然といられるわけがない。もしくは必要としないくらいの強さを持っているのか。

 この2人とクルギアスラ村については謎でいっぱいだ。

 今のワンミはしっかり前の奈央に抱きついている。少しずつ近づいていることを悟っているのだろうか、お昼を過ぎた頃から口数は減り、抱きつき方も強張っているように奈央は思えた。

 大丈夫と、そう伝えたい。

 しかしここで立ち止まるわけにもいかず、頑張って働いてくれる赤栗毛の馬に労いを厳かにするわけにもいかない。手数が足りない。


(自分も念話が使えたら!)


 念話は令が始点となって使える。送りたい主も令がイメージ出来ないと会話ができない。奈央から発しても空に独り言が空を切るだけだ。


『奈央さん、奈央さん』


 そんな羨ましい魔法が使える令から念話が飛んでくる。奈央は我に返り、集中する。


『は、はい!どうしたんすか?』

『まだ遠くですが村の面影が確認できました。到着まであと少しです』

『りょ、了解っす。ありがとうございます』


 その会話の是非を確認するため奈央は正面の地平線に目を凝らす。視力は前の世界とも変わらず良いので難なく建物と思わしき物体を発見する。あいまいなのは陽炎でブレるからだ。


「ワンミさん、もうすぐ着きそうです」


 馬での移動中なので日常会話よりも大きめに、しかし荒げず優しく丁寧にワンミに話しかける。


「……はい……」


 奈央に抱きついていた腕に少し力が入ったことを感じ、返事はか細い。

 奈央も身体に力が入った。ここからが本番だと。



「今村長を呼びますので少々お待ちください」


 クルギアスラ村の正門と思わしき場所に到着するとすぐにマーナは駆けていった。

 奈央たちは言われるがままに待機をしている。薫・奈央・ワンミは馬から降りているが、令に乗り続けている。馬の高さを利用して村の様子を見ていた。

 奈央は右手で赤栗毛の馬を労うように胴を撫でつつ、左手はワンミの手を繋いでいる。自分よりも若干だけ大きな身長のワンミは今は同じくらいに縮こまっている気がする。手も震えていた。


(大丈夫……)


 奈央は繋いで左手にそう込めるように思う。話しかけることはしない。話しかけてしまえば薫がそれを黙って見過ごすわけがないだろう。そういう風に色々な人から心配されるのもまたワンミは嫌がるはずだ。

 自分がそうだったから。

 奈央も小さい身体でクルギアスラ村の見えるところを観察する。

 独特な家づくりだった。見た目だった。

 しっかり見れば従来の家づくりと一緒だ。壁があり屋根がある。真っ先に違和感に覚えるのは窓が吹き抜けになっていること。ガラスが使用されておらず外との遮断が出来ていない。

 家の壁・屋根は砂だろうか、それとも土だろうか。何かしらを混ぜてそこに辛うじて建ってある。中にはひびが入っている家もあり、今にも崩れ落ちそうだった。

 この地域は雨がそんなに降らないのか三角屋根ではない。そのため四角形の豆腐のような造りだ。

 正門の通りは他のところに比べて広く、人もそこそこいた。おそらくここがメイン通り、売店なんかも見られる。

 西部劇場なんかで見るような光景で建物は特徴的、それがクルギアスラ村だ。

 村の大きさは最初のトンギビスタ村よりも少し小さいだろうか。

 そしてクルギアスラ村の特徴、この村の奥に程なくして標高のある山があった。陽炎で精密には確認できないが、植物はなく岩肌が露出している所が目立つ。


「まぁワンミちゃんに言われてある程度想像していたけど、中々ね……」


 薫がそう言いながら奈央の方に近づいて来た。薫の担当馬に「あっちいけ!」とジェスチャーを喰らっている、暑苦しい労いでもしたのだろうか。


「そ、そうっすね……でもこういう作りも新鮮に見れます!」

「確かに土の家なんて日本にいたらそうそう見られるものじゃないからね~。こうして目の当たりに見ると不思議なものねー」

「つ、令さんは大丈夫そうすか?」

「ええ、村の様子を凝視しているわ。前回のことがあるから入念にやっているわね」

「そ、そうっすね……マーナのこともあるので……」

「そうねぇ。なおちゃんはかなりマーナちゃんのこと警戒しているのね」

「はい。彼女は気を付けた方がいいです。ただ、悪い子じゃないよってワンミさんから言われていますけど」


 マーナのことを考え奈央は目つきが鋭くなったが、ワンミのお告げを思い出し平穏を取り繕う。


「ワンミちゃん、マーナちゃんって昔からあんな感じなの?」

「……!い、いえ、それは、色々、あって……」


 薫に聞かれたワンミが言葉を続けようとしたとき、


「すみません、遥々(はるばる)ようこそおいでくださいました」


 腰が曲がって杖をついているお爺さんがマーナと共にやってきた。おそらくこの方がこのクルギアスラ村の村長なのだろう。

 奈央は村長を見る。身体は細く、腰が曲がってしまっているためかなり小柄に見える。杖はるが足取りは普通そう。日焼けの繰り返しが多くあり、顔はしわの数が目立つ。

 ゲームで見るいかにもな老人キャラ。服装はワンミと出会った時の服より豪勢で動物の皮でしっかり加工されていた。

 村長の存在に気づいた令が馬から降り、薫の隣に近づく。


「こんにちは、私たちがラマットンからきた使者です」


 薫が慣れない言葉使いで挨拶をする。


「ええ、マーナから事情は聞いております。ここで立ち話もこの地域は大変ですから、中に案内します。それと……」


 村長がワンミに一瞬だけ顔を向ける。


「ワンミ……マーナ、彼女を連れていってくれるかい?」


 名前を呼んだあと、となりのマーナに顔を向けた。


(なんだあの目つき……!)


 奈央はワンミの手を握り続けているので、ワンミと共に村長に見られる形となる。目つきが村民を見る目ではなかった。異端者に送る眼光。なにより声色も若干だが低かった。

 推察しているも束の間、マーナがこちらにやってくる。ワンミの前に手を差し出し「いきましょう」と合図した。

 ワンミは奈央の手を離す。その手はこれまで以上に震えていた。

 そのままワンミはマーナに連れていかれる形で村に入っていった。

 迂闊に動かない、奈央は心の中で舌打ちをする。あそこまでワンミが震える、村長の目つき、明らかにおかしい。だからといって動けない自分に苛立った。ここで動けば薫たちに迷惑がかかることが明白だからだ。

 令が一歩村長に近づき、


「馬たちを安全なところで休ませたいのですが、場所はありますか?」

「おぉ。その後ろにいる動物が馬という奴らだな。倉庫になってしまうが確保している。こちらに」


 村長はついて来いとジェスチャーする。

 奈央たちは馬の元に戻り手綱を引く。


(くっ……!)


 もう一度心の中で舌打ちする。流れに任せてしまっている自分に。本当は今すぐにでもワンミの後を追いたい。

 そんな気持ちを悟ってか知らずか、赤栗毛の馬は奈央にいつものようにじゃれつく。「落ち着いて、大丈夫だよ」今回はそう言われているかのように。

 奈央は撫で返しながら、呼吸を整える。馬に助けられてばかりだなと苦笑しながら、薫たちに追いつくために歩き始める。



 村の中に入る。村と外を隔てる壁はなかったので来た時点からジロジロ見られていたが、視線はさらに奈央たちに集中する。よそ者がメイン通りを歩いている、しかも動物を連れて、そんな視線だった。

 メイン通りを進んだ先の行き止まりには他の家とは違う豪勢な見た目の建物があった。おしゃれな模様や装飾がついている。これが村長の家か役場的な建物だと一目でわかるものだった。特徴的なのは横に広いこと2階はなさそうだ。

 行き止まりを右に進み倉庫に到着する。見た目は他の家と変わらず、中が何もないだけだった。


「ワシは先にあの建物に戻る。落ち着かせたら来て欲しい。確認だが、そのものたちは暴れたりせんよな?」

「はい、大丈夫です。お利口ですので」


 令が返答し、納得した村長は後にした。

 馬が3頭、奈央たちも入るとギリギリの大きさな倉庫。風通しと日当たりが悪く、鬱々した雰囲気で、奈央は心配を覚える。


「だぁ、ずいぶん狭い場所ね!もうちょっと広いとこ無かったの?!」

「おそらくこれで精一杯、もしくは私たちを警戒しているのでしょうね」

「だぁぁ!だから胡散臭いのよねぇ!お客をもう少し丁重に扱うことができないのかしら!」


 薫もこの場所に苛立ち騒ぐ。薫の担当馬が「うるせぇ」と鼻息をかけていた。


「馬の認識がまだされていないですから」

「それこそ暴れないように、もう少しいい環境を提供してくれてもいいのに……あんた暴れそうな気がするわね……」


 今度は薫が担当馬を睨む。

 奈央はどうにかできないか考えていた。地面は何も敷かれていない。まずこれをなんとかしなければならない。

 悩んだ末、奈央は水魔法のイメージを始める。水の固形が残るように、硬すぎず柔らか過ぎないスライムのように、けど粘り気は必要ない。 そうして出来た馬クラスの水のクッション。薫と令は驚く。

 それを尻目に奈央の担当馬、赤栗毛の馬の傍に置く。馬はそれをどう使えばいいのか察しているのか躊躇うことなくクッションに寝そべった。

 ぷよーんとクッションが馬を包む。初めての感触ゆえか馬は見たこともない表情になっている気がした。

 それを見ていた薫の担当馬と令の担当馬が奈央に近づく。僕たちにもお願い、そんな要望に感じ、奈央は同様に作った。そして2頭もだめだめになってしまった。


「なおちゃんなんてものを……あとでワタシにもお願いしていい?」


 人間にせがまるとは思わなかった。


「でもこれで馬の寝床はなんとか大丈夫そうですね。後は桶で水を張っておいて……風通しは……できるかな……」


 今度は令が何かを作り始める。完成した見た目はウィンドウボール。

 それを令は壁と天井の端にくっつける。そうするとやんわりとした風がそこから流れるようになった。見た目はあれだが扇風機のようだ。


「これでひとまずは大丈夫そうですかね?」

「つかさちゃん、なおちゃん流石ね……ワタシ何にもしてないわ」


 追い打ちをかけるように薫の担当馬が「ケッ!」と言わんばかりに鼻息をならしていた。薫はぷんすかしていた。



 ひと段落し奈央たちは役場に向かう。

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