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20,元高校球児は夢を見る

注;これはあくまでフィクションです。

 中学になり、彼女と付き合うようになってから、様々なところにデートに連れていかれた。

 ショッピングモール、ウィンドウショッピングと呼ぶことをしながら一緒に歩く。手も握られて。この行動に何が楽しいか当時は理解出来なかったが、彼女の元気いっぱいな笑顔を側で見られることは嬉しかった。

 アミューズメントパーク、ジェットコースターや観覧車など大きな建物がいっぱいあるところに連れられる。彼女はメリーゴーランドや観覧車、お化け屋敷などを好んでいた。奈央はそれよりも縦回転するアトラクションや一気に落下するもの、水しぶきが激しいもの、いわゆる絶叫系アトラクションに乗ってみたかった。そのことを彼女に伝えると苦い表情をしていた。服装や性格も相まって乗る気がなさそうだったので無理強いはしなかった。コーヒーカップは笑顔で乗っていたが、どうせならもっと回転させたいと思ったが、そんなことをしてまたあの表情を見ると切なくなるのでこらえた。

 スケート場、彼女は付き合って分かったがわりとインドア派で身体を動かすところはあまり行きたがらなかった。それでも奈央の運動したいことは分かっているらしく、冬場は近所にあったスケート場に何度か訪れた。付き合ってくれた。奈央もスケートはあまりやったことはなかったがすぐに慣れてみせた。氷の上をすべる感覚は楽しかった。足をふり抜いた分だけ加速し、テレビで見たことがある回転技を試してみたくなったがお客は自分だけないことを思い出しやめた。

 彼女は運動があまり得意ではない、両手を掴みながら自走できるようになるまでにサポートした。彼女は転びそうになったり壁に激突しかけたりすることがあったが笑顔だった。ただ自走できるようになったら、スケートはもう行かなくなった。

 念願の彼女とのキャッチボール。休みの日、周りの子供連れの家族や小学生同士で、お爺さんお婆さん老若男女問わず集まる近くの大きい公園で彼女にボールを渡す。奈央にとってはそんな感覚。投げるなんてしまえば彼女はびっくりしてキャッチボールが二度と出来なくなってしまうことくらいは容易だ。彼女はめいいっぱいにボールを投げる、力任せなため明後日な方向に飛ぶが奈央は軽々と追いつきキャッチする。そして下投げで返す。

 最近彼女は野球について話すようになり、それが凄く嬉しかった。他の話でも彼女と話すこと自体好きだったが、それでも進んで野球について色々話せるは良かった。最初は野球のやの文字も分からなかったのに、彼女は頑張っている、それもたまらなく幸せだった。

 そうして少しずつ少しずつ、交際のレベルは上がっていく。

 彼女と手を繋ぐ。奈央は身体の奥からジーンと暖かい感情が芽生える。学校生活や行事などで異性に手を握られることはあるがそんなことを感じたことは一度もなかった。彼女と手を繋ぐとき、スキンシップのときにその感情が出てくる。もっと彼女といたい、もっと彼女のために頑張りたい。いつそう思うようになったか分からなかったが、これからの人生を彼女と、それだけは揺ぎ無かった。



 奈央は目を覚ます。テント越しの外の明かりはまだなく暗い、まだ真夜中だった。


(最近夢をよく見ている気がする。懐かしい夢……)


 どんな内容だったか、たしか中学時代の、それくらいしか奈央は思い出せない。夢のせいかぼやけてしまう。それよりもお手洗いに早く行きたいと思っていた。

 夜の森は静かで、暗く、怖いと感じる。しかしそんな令たちが作った森も朝には旅発たなければならない。今までは令が毎朝、鉢植えに水をやるように栄養を魔法で与えていたが、それもできなくなる。数週間はもつだろうがいずれは枯れてしまうとのことだった。寂しさを奈央は感じる。

 テントに戻り、自分の寝床に座りながら、となりのワンミを見る。

 すぅ、すぅ、と寝息をたてながら、安らかに熟睡している様子だった。熱中症の時のように曇るような苦しそうな表情はそこにはない。奈央をそんな穏やかなワンミに微笑む。


(手を繋ぎながら寝るの少し恥ずかしかったけど、良かった)


 マーナが現れたせいだろう、ワンミは眠気を感じつつもどこか恐怖感を感じているように奈央は見えた。明日が来てほしくないと。

 何かできないだろうか、話しかけてもワンミは眠そうだから満足な返事は難しいだろう、どうすれば恐怖を少しでも取り除けるか、奈央は手を繋ぐことにした。

 ワンミの手は冷たい。体温は奈央の方が高かった。サラサラとすべすべとした女性特有の肌触り、自分自身を触るのとは違う、ワンミの感触。この世界に来てから始めて同性と触れ合った。男心は消えていないので異性なのかもしれないが。

 ワンミに触れたとき驚かれ、奈央の顔を見たがこちらが微笑みを返したらすんなり受け入れてくれた。握り返してくれた。くすぐったかった。暖かかった。

 そのままワンミはすぐに寝た。表情は今と変わらずに、安らかに。

 奈央も明日に備えるため、横になる。


(クルギアスラ村……マーナ……)


 ワンミが寝付く前、話の流れでマーナについて話してくれた時があった。


「……あの子は、悪い子では、ありません。決して」


 奈央が彼女を見た時は、少しワンミに対して高圧的な態度に思えたマーナだったが、本人は気にしていない、ということなのか。少なくともワンミはマーナことを嫌っている素振りは感じられなかった。

 そのことでまたあらゆる憶測がたてられる。ワンミが恐怖、そして諦めに境地に達しているのはクルギアスラ村の方だ。マーナはそれに利用されているのか、行ってみないことには分かりそうにない。


(朝起きたら馬に会いに行かないと)


 馬たちも奈央たちのテントから少し離れたところで休んでいる。またお世話になるのだ。そのことを頭に刻みながら奈央は目を閉じた。



 奈央の気持ちを察しているのだろうか、馬たちは鼻息を興奮しながらふんがふんがしている。「これからまた頑張りますよ!」そう言っている風だった。

 朝、太陽が地平線から顔を出し始めるくらいの夜明け、奈央は起きて馬たちに会いに来ていた。

 馬たちとはご無沙汰な気がした。といっても数日くらいしか経っていないが。奈央自身の熱中症、そこからこの地域に対応するための準備、そしてワンミの看病。1週間ぶりでもなく数日ぶりの再開なのに懐かしくさえ思える。それだけ一日一日が充実しているのだと。トンギビスタ村の出来事が遠い記憶のように感じた。

 奈央はこうして久しぶりに会うが、その間は令と薫がお世話をしたり森を軽く運動させたりとしていることは聞いている。

 奈央の担当馬、赤栗毛は奈央に相変わらずくっつくようにじゃれてくる。奈央はくすぐったさを覚えつつも撫で返しながら久しぶりのふれあいを堪能した。

 葦毛の馬、令の担当である馬は静かに奈央を見つめ「準備万端、いつでもいけます」という雰囲気だった。

 黒鹿毛のイケイケな馬、どこか担当の薫と似ているその馬は奈央の周りをせわしなく移動している。口からはよだれが垂れており「とりあえず早くメシくれ」と催促しているような感じに奈央は苦笑した。

 木にかけていた3頭の手綱を取る。これから朝食前にワンミとマーナに慣れてもらうために移動させる。


(馬って本当に大人しくて、かしこいな~)


 イケイケな1頭はおとなしくとは少し違うかも知れないが、暴走してどこかに行ってしまうということはなかった。

 奈央は特に念話を使っているわけではないのに、しっかり言うこと、こちらの意識通りについてきてくれる。馬なりの何か察し能力があるのだろうか、もしかしたら馬も魔法を持っていて感じ取っているのではないか。奈央は凄く興味がわいたがそれを感じとられ困らせてはいけないので、郷にいては郷に従えでそっと胸にしまった。

 ほどなくしてテントがある付近に到着する。各テントに手綱がかけられるように木の棒はさしてある。奈央が余らしてしまった伐採した枝を魔法で合体させて作ったもので馬を迎えに行く前に刺しておいた。

 薫のテントには黒鹿毛の馬を、令には葦毛の馬をそこに待機させる。まだ完全な夜明け前なのでみんなは寝ている。そろそろ起きるころではあった。

 最後に奈央自身のテント、赤栗毛の馬の手綱を木の棒に引っ掛ける。奈央が去ろうとした際にペロッと舌でなめられ挨拶された。奈央は苦笑を交えながらその挨拶に馬の頭をひと撫でした。

 テントに戻るとワンミは起きて身体を起こしていた。

 奈央は笑顔で挨拶する。


「おはよう!」

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