2,フェミニスト男になりました
注;これはあくまでフィクションです。
薫は未だに状況をのみこめず、ゆっくりと辺りを見渡す。混乱しながらも少しずつ視界から情報が入ってくる。
やはり一番目に飛び込んで来るのは城内の造りだ。中世ヨーロッパのような雰囲気、ただテレビで見たような歴史を感じることは無く、最近作られたかのような綺麗さで、薫には見慣れないせいか違和感を覚えた。
城内を見渡したのち、今度は左右を確認する。 薫の近くには同様に周りを見渡すものが2名いた。目を見開き混乱しているようにみえたので、きっとワタシと同じ境遇なのかなと、薫は感じた。
片方は青髪が印象的な青年。身長は175㎝くらいだろうか、爽やかな顔たちでアイドルグループに混ぜったら人気間違ないイケメンだ、そしてどこか気高く気品のある雰囲気もあった。服装もRPGゲーム風の装いになっており、
(まるで王子様ね、かっこいいをかき集めたみたい)
もう片方は金髪の少女、少し小柄で可愛らしい子だった。こちらは青髪の子とはうって変わり、おどおどしており、今も少し震えながら周りを見ている。男たちが常に寄ってきそうな、守りたくなるような可愛さだ。
(あら、ずいぶんと可愛い子。オバサンはワタシだけのようね……)
薫はこの状況が独りじゃないと安堵したが、2人と歳が離れていることに少し落ち込んだ。
次に薫は部屋の奥に目をやった。そこには気を失って倒れている3名の少女がおり、一人ひとりつきっきりで介抱されていた。
「えっ……」
薫は息が漏れるような声を出し、再び混乱した。この場で一体何が起きたのだと──
「諸君、よろしいかね?」
驚きも束の間、今度はハキハキした通る声が聞こえた。再び周りを見渡す。後ろから迫ってくるものがいた。
「私はこの国、ゴマットンの王、ルトリービヤ・レベリヤンだ。とある理由から君たちをここに召喚させてもらった、急なことでびっくりしていると思うがまずは私の話を聞いてもらえないだろうか?」
そう言って薫たちに優しい声色で語りながら、正面の玉座に座る。
王──ルトリービヤ・レベリヤンはいかにもな見た目、そして風格をしていた。年齢は50歳くらいだろうか。
レベリヤンは、はっと思いだしたかのように、薫が先ほど確認した倒れていた少女とその介抱にあたっていた者たちに話す。
「そのものたちは、帰してよいぞ。感謝している、残りの余生を楽しく過ごしたまえと伝えてくれ」
そう言われた少女らはこの場をあとにする。そして申し訳なさそうに今度は薫たちにレベリヤンは話す。
「すまないね、お見苦しかろう、白魔法というのはどうしても精神力と生命力を削られるからな。そして君たちを召喚した魔法は白魔法の中でもかなりの上級の魔法、使える人が限られているだけでなくそれ相応の代償も発生する、彼女たちの寿命というね」
レベリヤンは自分に言い聞かせるような説明を続ける。
「異世界召喚の呪文は1人が1人を召喚する。そして人生で一度しか使用できない。召喚時の年齢は彼女らと同じ17歳になるみたいだ。なぜかこの呪文は女性の本当にごく一部の人しか使えないみたいでね、一夫多妻制やらの政策をして人口を増やし、3名召喚することができた、本当に探すのに苦労したよ」
薫は話の意味を理解しきれなかったが、少し恐ろしいことを言っていることは把握できた。
レベリヤンは続けて話し出す。
「君たちはこの国の発展のために召喚させてもらった。およそ100年前に魔法という概念を発見し、それからあらゆる呪文を生み出してきた。 そうそう、この王宮も魔法を利用して建てることができたんだよ、最近のことだ。 魔法は、火・水・風・雷の基本的な4属性、そして稀に所有している、白・黒・無の3属性がある。この世界の人々は生まれつきある程度の能力を持って生まれるが、個体差が激しくてね。中々優秀な者が現れず困っていた。私としてはもっと国を発展させたいのだけどね、限界を感じていたんだ。 だが君たち異世界からきたものは、私達よりも強い力を身につけているらしい、魔法の力もそうだろう!その力を使ってまだ発展しきれていないゴマットンを、いや大陸イ・クワリティの開拓に協力してほしい!」
最後の方はかなり力がはいりながらレベリヤンは話した。
薫は少しずつ話の内容を理解し始め、そして憤る。
しかし、それに気づくことなくレベリヤンは話をやめることなく続ける。
「この世界では目を閉じて、ステータスを確認したいと念じると、ステータスを見るように感じ取れるはずだ。君たち、確認してみてくれ」
薫たちは戸惑いながらも言われた通り目を閉じる。
薫はステータスと言われるものが感じ取れた、いくつかの数字が記載されている。このようなゲームじみたことは薫もなんとなくは分かっている。女友達と遊んだ時や、SNSで見てきたからだ。
薫はパワーなどの数値を確認したが、この数値がレベリヤンが言っていた高い力になるのか分からなかった。色々な数値を確認して、特性・スキルの欄を確認する。そしてそこに気になることが記載されていた。
(白魔法の精神力・生命力の代償無効?!)
薫はこの記載がなんとなくとてつもない特性だと気づき、驚く。
(先ほどの王の説明からすれば、おそらくワタシは白魔法使いになるの!?そしてこのスキル……)
そんなことも束の間、レベリヤンは話し出す。
「どうかね?ステータスは確認できたかな?今後君たちを適材適所で使いたいから、特性を教えてくれないか?」
薫の頭に黄色信号が灯る、嫌な予感がすると。このままでは前と同じこき使われ後悔した人生と同じ道を辿るのではないかと。それにレベリヤン言い方が鼻につく、この感じは前の上司と同じ雰囲気がした。
薫が葛藤している最中、青髪の青年の声が聞こえはじめる。
「私は無の──」
薫は青年の言葉を遮るように言った。
「ちょっと待ってください!ステータスを公表する必要があるんですか?!」
青年は驚き薫の方を見る。薫はごめんね、と軽く青年に会釈しレベリヤンの方に体を向ける。
「ステータスって他人が確認できるものなんですか?個人情報ですよね、それを脅迫して言わせようだなんて!」
「脅迫とは……私はそんな気は全くないよ、ただ君たちはこの世界に来たばかりだ、諸々導いてあげようと思っているんだよ」
「それではワタシたちの選択肢がないように思えます、分からないからこそ色んなことを知ってからワタシたちはやりたいことを選択したいです!あなたの言い方だとワタシたちをこき使わせようとしています!」
「うーん、そんなつもりはないんだけどな……」
薫とレベリヤンの言い合いが始まった。
薫は思う。このまま前の世界と同じ人生はごめんだ。話を飛躍させたかもしれないが今は対処が最優先だ。それに青年、少女らがそんな人生を想像したら凄く胸が痛くなった。他人をそのように見過ごすのは薫には出来なかった。
(ワタシにもまだ他人を思いやれる心が残っていたのね、まあほとんど自分のためだけど)
自分勝手なのか、良心なのか、薫はそんな心情に迷いながらもレベリヤンに言葉を向ける。
「では転生者の先輩の意見が聞きたいです、あなたの発言からワタシたちが最初の召喚でないことは分かります。その人達からあなたが正しいか確認したいです」
「あぁ……彼女か、今はここにいないよ。少し……長い遠征に行かせたからね。そうそう、我が息子もこの世界の正確な地図を作るために出向いているんだ」
レベリヤンは歯切れが悪そうに返答し始めたが、後半は思いついたかのように流暢に話した。薫はそれを見逃さない、SNSで鍛えてきた口論の力があるからだ。
「では先輩が戻ってくるまでワタシたちは待機したいです。それぐらい可能ですよね?それと一夫多妻制とはどういうことですか?!」
「うーん、そう一気に言われると困るねー。このままごねられても大変だし……わかった、この世界について理解してからもう一度お願いすることにするよ」
レベリヤンは諦めるように言った。なんとかこの場の事なきをえたと薫は安堵した。
「おいメイド、彼らを控室に連れていってくれ」
そのレベリヤンの掛け声ともに端に待機していたメイドが薫らの方に来て、誘導を始めた。 ちなみにメイドは女性なので、そこでも薫は反応する。
(でたでた、なんでメイドって女ばかりになるのかしら。それに王の指図するような言い方、本当サイアク。というかこの後はどうなるのかしら。いちおうあの王、ワタシたちを説得したいみたいだから、力づくでどうこうするってことはないのでしょうけど……)
と控室に連れられながら、薫は考える。その最中に後ろから優しい若々しい声が聞こえてくる。
「先ほどは、ありがとうございます」
青髪の青年からだ。しっかり挨拶するとは礼儀正しい子ね。薫は感心しながら気にしないで、と返した。
(あれ?そういえば青年君と頭の高さがほぼ一緒な気がするわね。ワタシってば身長伸びたのかしら?)
薫が違和感を覚えている時、控室に到着した。先ほどの広々とした王室と違い少しこぢんまりとしたその部屋で、薫たちは落ち着く。早速部屋の手前にあった椅子に座りリラックスした、そして今後のことを考えはじめる。
青年少女は珍しそうに周りを見渡しながら歩いていた。
(あの子たち体力あるわね~、ってワタシもあの王の説明だと17歳に若返ったみたいよね、身体は若返っても精神はそのままね)
薫は2人をチラッと見ながらそんなことを思った。姿勢を変え、窓の景色を見ながら考えに深けようと思った時だった。
「きゃっ!!」
甲高い声が部屋に響き、薫はびっくりして声の主を確認する。少女からだった。少女はその場で崩れるように座り込んでいる。
薫は心配になり少女の方に向かう。それよりも青年が先に駆け寄った。
「なにこれっ!」
今度は青年が驚いた大きな声をあげた。いったい何事かと薫は足を速める。 向かいながら、そこには全身が映る鏡があることが分かった。
(鏡ね、きっと異世界の衣装とかでびっくりしたんでしょ)
薫は楽観的に考えながら、鏡の前に着く。そして鏡を見た。
「え……」
薫は固まった。そこに自分が映っていなかったからだ。写っているのは青年と同じくらいの身長で顔たちの整った茶髪の『男』。
「え……!え……!」
そう声を漏らしながら、薫は恐る恐る手を顔に触れるように動かす。鏡も同じく映る。
「どゆこと?!どゆこと?!」
受け入れがたい事実が頭をよぎる。
「いや……!いや……!」
毛嫌いしていた男に転生してしまったことに。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
薫は叫びながらその場に失神し、倒れた。
鴨鍋ねぎま:あらまなんと不思議!異世界転生されただけでなく!異性界転生されたではありませんか?!ここからどうなるのかでしょうか!ワクワク!
赤烏りぐ:相変わらずお手伝いしてますりぐさんです!TSしてしまった薫がこれからどんな事件に巻き込まれていくのか、楽しみですね!