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18,元高校球児は百合をします

注;これはあくまでフィクションです。

 小学校も半分を終えた頃、少しずつクラスのみんなが小さくなっていく。奈央にはそう見えた。奈央の身長が少しずつ周りの大きく伸び進んでいた。

 この頃から、世間や社会のことなど少しずつ理解できるようになっていった。父・母のお話がさらに理解できるようになった時は嬉しかった。

 そして自分がどういう立場にいるのか少しずつ理解する。色々な授業を、テストを難なくこなし、スポーツもできクラスメイトから、周りから慕われている。人気者、というところに自分はいるのだと。分かった時は少し恥ずかしく感じたが嫌ではなかった、むしろ嬉しいと思った。だからもっともっと頑張りたいと、思いはこの頃から少しずつ強くなっていった。


 父に勧められ、野球チームに入った。父から野球についてのルールなどは教わっていたが、いざ本格的に実践となると分からないところだらけ、ただチームの監督は優しく教えてくれた。

 チームは小学校で見たことある顔も何人かいた。20名程度で週末を過ごす。

 チームに入ってからポジションの守り方とバッティングを一通り教わる。初めての試合が近くなった際に監督に言われ希望のポジションを決めることなった。奈央自身はどのポジションでも良かった。父も試合に出られるだけで嬉しかったのかなんでもいいと任された。監督の薦めで各ポジションのテストをした。どれも良好らしく、周りから絶賛された。

 最後はピッチャー、父とキャッチボールしているときもそれっぽいことをやっているのでリラックスして放つ。パンッと快音がキャッチャーミットから響く。

 監督からもう一球とお願いされた。少し驚いた表情をしていたが気にせずにもう一回放る。キャッチャーが構えたど真ん中に綺麗に球はパンッと吸い込まれた。

 それを見た監督はべた褒めしてくれた。周りは目が点になってこちらを見つめていた。どうやら正確に投げ、しかも球速は凄く出ているらしい。野球はテレビで見るプロ野球、そして父とやるキャッチボールしか知らない。同い年がどれぐらいの実力なのか、ここのチームにくるまで分からなかった。それに本格的に出来る野球が楽しくて、周りがどのように投げたり打ったりしているか観察するなんて考えはなかった。

 監督に言われてから、少しずつ奈央は自覚する。エースになれる、と。

 チームのピッチャーを見る。確かに球速は奈央の方が上だった。ただカーブ、スライダーなど曲がる球を駆使していた。憧れた。


 初めての練習試合、奈央は先発投手として試合に最初から出場。相手は隣町のチーム、実力は同じくらいらしい。今回はあくまで歓迎会のようなもの、あまり緊張せずに試合に慣れて欲しいと監督から皆に激励した。

 そう言われても初めて対人でやる試合はドキドキした。初めてしっかりした球場での試合、マウンドからの景色、父兄の観客。緊張と恐怖が先に出てきた。

 初球、思いっきりあさってな方向に投げてしまった。両者からクスクスと笑われ恥ずかしかったが、それで吹っ切れることができた。見返してやると。

 2球目、ピッチャーの練習をひと月こなした速球がミットに吸い込む。この前投げたときよりもキャッチャーミットが奏でる音は重く低くなった。

 途中ピンチを迎えた。塁は埋まっている。真っ直ぐだけでは相手が慣れてしまい打ち込まれた。マウンドに立ち続ける奈央は先に悔しさが出ていた。ただもっと頑張りたい、強くなりたい、やる気も満ち溢れた。

 あの日憧れた変化球・スライダーを見よう見まねで投げる。球はグングンと左にズレ動いていく、とどまることを知らずに。曲がりすぎたボールにキャッチャーは驚き後逸してしまう。ランナーがいるピンチの場面、キャッチャーは慌てて取りにいく。奈央もはっと思い出しカバーする。しかし結果的に点を許してしまった。


(ボールってこんなに曲がられるんだ……!)


 点を与えてしまった悔しさよりも、自分にこんな才能があったのかと、嬉しさの方が奈央の中の感情は勝った。


 それから奈央はピッチャーとして目まぐるしい速度で成長し続けた。ドンドン速くなる真っ直ぐ、スライダー以外も使えるようになった変化球、それを投げたいところに投げられるように磨くコントロール。

 自分の成長、成果に浸っているうちに気づけば県選抜に呼ばれるくらいの実力になっていった。

 それを父は、母は嬉しそうに褒め続けてくれる。笑顔でいてくれる。それが何よりも奈央自身生きがいに感じた。



「ワンミさん、ワンミさん。起きられますか?」


 奈央は優しくワンミの身体を揺する。

 晩ご飯の支度が整い、後はワンミを起こすだけだった。

 しかしワンミは眉間にしわを寄せもう少し睡眠を堪能したそうにしていた。


(どうしよう……このままの方がいい気もするし、お肉食べたそうにしていたしな……あ、でもお肉なら保存できるか)


 奈央は結論を出し、ワンミをこれ以上揺らずにそっと手を放し立ち上がろうとした。しかし、ワンミに腕を引き戻される。奈央は態勢が崩れこのままではワンミにのしかかってしまう。


(危ない!)


 奈央はとっさに自身の膝を曲げ少しでもワンミと激突する威力を下げようとした。勢いよく膝をテントの床にぶつける。床の下が土とはいえ衝撃はダイレクトに奈央の脳に届く。


(いたた……まさか引っ張られるなんて……んっ!!)


 奈央は痛みで態勢に気づくのが遅れた。そして自分が今ワンミの胸部の上に倒れたことに気づく。自分の胸が重なるように、感じたことのない感触が奈央の脳が示す。

 奈央はこちらの世界に来てから自分の身体を、特に性別を感じる所は見ない触らないようにしていた。初めての感触に奈央は一気に心臓をバクバク、顔は火照り始める。きっと耳も真っ赤だろう。身体が一気に熱を持つようになっていく。


(なにこれ!なにこれ!なにこれ!なにこれ!なにこれ!)


 独特な柔らかみ、自分のだけならまだしも奈央よりも少しありそうなワンミの胸部まで堪能する態勢。そしてワンミの服装は布一枚で非常に薄いため全てがダイレクトに伝わる。自分の質量も同時に知る形となり、奈央の頭はショート寸前だった。

 それでも少しずつ、少しずつ奈央は落ち着いていき、起きなければと思い出す。


(別に傍からみたらなんてことないことなのに……何舞い上がっているんだ……)


 奈央はそう思い、心臓を落ち着かせようとした。

 ワンミの方を確認する。態勢ゆえにしっかり確認することはできないが、笑っているような気がした。といってもワンミの寝息は聞こえる。

 その表情は、初めて表したような不器用さが感じられた。奈央はそのように感じた。


(普段あまり笑ったことなかったのかな?……可愛い……)


 奈央は安らかに眠るワンミを眺め続けた。


「なおちゃん大丈夫~?遅いけど何かあったー?」


 そう言いながら薫がテントを開ける。あ、と薫と奈央は声を出すように目が点になり、お互いの目が合う。

 今の奈央の態勢、ワンミは離さないとしっかり奈央をホールドしている。抱き枕状態。

 静寂が訪れた。

 先に均衡を破ったのは薫で、体をプルプルと震わせながらその場から逃走した。その効果で奈央は再び羞恥が身体中を支配される。


(絶対大変な誤解を!)


 我慢の限界で奈央は素早く体を起こす。ワンミは反応しびっくりしながら目を開けた。

 奈央が涙目になっていることにワンミは首をかしげた。



「か、薫さん誤解っす!」


 着替えをすましたワンミと共に奈央は、テーブルに向かい座っている薫を見つけるなりすぐ弁明を図った。

 ワンミの着替えには少し苦労した。服は奈央と同じもの、スペアのようで分かりやすいように色は変えてある。令が動物の毛皮を素材として作成したものだ。

 まずはワンミが着ていた服、布を剥ぐ。当然ワンミはすっぽんぽんになる。外を長いこと歩いたせいか外傷が少し目立つ。

 ただそれ以上にワンミの身体を美しいと奈央は思った。身体は体質なのだろうか日焼けをしていない。そして銀髪がやっぱり似合っていた。

 初めて他人の胸を直に見る形となったが、令がいった通り異性のドキドキというのは感じなかった。それよりも早く薫に弁明したかったからだ。

 下着を渡す。ワンミははてなマークを出していた。どうやら今までそのようなものを着てこなかったらしい。口での説明が苦手な奈央は服を脱ぎ捨て、ワンミと同じ格好になりショーツの履き方を見せた。直接見せたおかげかワンミはすぐに理解してくれた。

 問題はブラ。奈央はいつも魔法でさくっと済ませてしまっているためワンミにやりやすいように実演するのに苦戦を強いた。一度ホッグが上手くはまらずブラを落としワンミの前で胸をあらわにしてしまった。これは火照るくらい恥ずかしくなった。

 後は楽にサクサクできた。シャツを着てズボンを履き、最後に上着を着る。ワンミは慣れないせいか少し服が寄れていたので奈央は正してあげた。

 奈央と同じ服装、今自分はこんな感じなんだとワンミを見ながら感じた。

 着替えでそこそこ時間がかかってしまい、薫はどんなことを思っているか不安だったが、


「いい、いいのよ!分かっているわ……!」


 奈央の声に薫は反応し振り返るやすぐに視線を逸らし、こめかみを抑え始めた。

 薫の態度と言葉が一致していないため、奈央は焦る。


「ほ、本当すか?!だって頭に手を……」

「大丈夫よ、ちょっと心頭滅却しているだけだから」

「や、やっぱり怒っているんすか!?」


 奈央の言葉に薫は再度振り返り、目尻を下げながら、


「ごめん!ごめん!違うのよ!女の子同士なんだからあのようなことは普通よ!私はあんまりそんなスキンシップはしてこなかったけど。それを見た時ワタシ……なんでもないわ!」

「……?何かあったのですか?」


 料理を運んできた令が慌てふためく二人の姿を見て、不思議がった。それからワンミがいることに気がつき、


「あ、起きたのですね!良かったです!これから一緒に食事にしましょう!」

「……は、はい」


 令に見つめられ、驚きながらもワンミは相づちした。令は食事をテーブルに置きながら、


「お二人は何があったのですか?」

「つ、令さん、実は……」

「あー!奈央ちゃん大丈夫よ!大丈夫!つかさちゃんも何でもないからね!」

「明らかに薫さん大丈夫じゃなさそうですよ?」

「うぅ!かおる、おそとはしってくるー!」


 そう言って薫は駆け出してしまった。

 令は不思議に、奈央は冷や汗をダラダラ垂らしながら、ワンミは表情変えずに見送る形になった。令から奈央は追求されたが1人で墓穴を掘りたくないので、見送った表情のまま話をごまかした。



 夕食、奈央が作ったテーブルは大きかったためワンミのスペースも楽々確保できた。テーブルはワンミの分も追加されたことにより賑やかさが増した。奈央の隣にワンミ、奈央の対面が薫でその隣が令という位置で座った。

 心頭滅却した薫はすぐに戻り平然とした赴きだった。奈央を見た時は口元が僅かにひきつりかけていたが。

 料理が揃い、令が座る。


「いただきます!」

「いただきます」

「い、いただきます」

「……い、いただき、ます?」


 薫の掛け声と共にひとりひとり共鳴していく。ワンミはいただきますに慣れていないのかぎこちない挨拶だった。

 奈央が宣言した通り、お肉がたくさんだ。パンとシチューも新しく作っていたみたいだった。シチューの中にゴロゴロと入ったお肉、何のお肉はわからないが令の手でしっかり調理され、香ばしく歯ごたえがしっかりしていた。

 その他に大きい骨付き肉がテーブルの中央にたくさんある。専用のナイフとフォークがあり各々が取っていく方式だ。こちらはシンプルな味付けで肉の旨味が仰山に感じられる。やはり野生の動物特有の獣らしさも感じられる。人によっては臭みに感じるかもしれないが奈央はジンギスカンしかりそれも美味しく感じる。男の頃であればきっとこの量はぺろっといけてしまうだろう。


(前の頃は食べるのも夢中で何も考えなかったけど、こうして動物さんから力を頂いているんだよね。あらためて感謝しなきゃ)


 生きるため、人間・自分の身体はエネルギーを欲する。魔法でそれらももしかしたら多少は補えるかもしれないが、食べなければいけないと本能が訴える。これには抗えない。

 弱肉強食、切っても切れないかたち。こうして生きていることに感謝しないといけないのだと奈央は考えさせられる。前回は食料問題は起こらなかった。さらに厳しい環境になった今回の旅だからより鮮烈に感じる。

 それに今回は薫と令が狩りをした。慣れないことを、幾度も命を葬らせてしまった。本人たちにいえば気にしなくていいと言うだろうが、しっかり感謝は忘れないようにしないといけない。

 今の身体のキャパも考えながらできるだけしっかり食べようと奈央はしっかり咀嚼そしゃくした。

 一方のワンミといえば戸惑っている様子だった。パンは食べたが中央のお肉をどう食べたらいいのか分からなかった。

 それに奈央は気づき「お皿借りるね」とワンミのお肉用のお皿を手に取り、中央のお肉を食べやすい大きさにスライスしていく。お腹がまだまだ空いてそうなワンミのため、たくさんの量をお皿にのせた。

 お皿をワンミの前に置き、フォークを渡して奈央が自分のお肉を食べて見本を見せる。マナーなんて関係ないなので遠慮なくかぶりつく。それを目を大きくしながら見たワンミはフォークで豪快に肉をブスッと刺しこみ口に頬張った。


「……!すごい!美味しい、です!」


 初めて食べたのだろうか、それぐらいにワンミは目を輝かせながら感想を述べた。


「どんどん食べていいからね」


 奈央はその光景を微笑えんだ。ワンミは奈央の言葉を聞いたのか分からないくらいにお肉に頬張り続けた。

 薫と令も食事を楽しみながらワンミを時折観察していた。彼らはまだワンミがどんな素性かまでは分かっていない。ただ一生懸命に食べるワンミを姿を見れば可愛い娘なのだと理解したようだった。



 食後、食器を洗う。テーブルにいる奈央はお皿の乾燥、隣にいるワンミにはタオルで水拭きを任せた。


「これでこのお皿を拭いて置いて」

「……わかり、ました」


 ワンミは指示された行動は難なくこなしてみせ、奈央は安堵する。

 薫と令はテーブルから少し離れたところで水魔法を使いながらお皿を洗っていた。この前奈央が伐採した木の葉っぱたちが汚れ取りに役立つらしく、それと水魔法でお皿を綺麗にしてみせていた。

 そして二人からお皿を渡され、奈央は乾燥を始める。

 訓練の一環というのも少し変だがこうして日常生活で魔法を使うことで、着実に能力が伸びていた。こういう場面で楽もでき一石二鳥だ。

 奈央はそう考えながらワンミの傍に乾燥させたお皿をのせる。ワンミをそれを仕上げに拭いていく。そして拭き終わったお皿を令と薫がしまっていく流れだった。

 洗い物も済ませ、食後の休憩。テーブルにそれぞれ座る。


「いやーなんだか久しぶりにたくさんお肉食べたわ~!そして太らない!最高ッ!」


 いつもの談笑タイム、薫が切り出して始まる。


「私もたくさん食べました。保存用にも確保しているのでしばらくお肉に困ることはないですね」

「またエネルギーが枯渇してきたら命に感謝しながらいただきましょうかね。あ、えーと名前まだ聞いてなかった!今日手伝ってもらってありがとうね!」


 薫はワンミの方を見る。ワンミの方に話が振られ困惑しながらも、


「……ワンミ・デュノア、です」

「ワンミちゃんね!よろしくね!」

「……は、はい」


 薫の話エネルギーに若干押されつつもワンミは返事した。


「それにしてもたくさん食べましたね。食欲があって良かったです」

「……凄く、美味しかった、です」

「ありがとうございます」


 令に微笑まれ、ワンミはぎこちなく表情を返す。


「無事に体調が回復したみたいで良かったわ!最初見た時なおちゃん以上に顔色悪かったから心配だったのよ!」

「あ。か、薫さん。ずっと聞こうと思って忘れていたんすけどいいですか?」


 ワンミが薫と令との会話を微笑ましく見ていた奈央は、薫の言葉であることを思い出した。


「ん?どうしたの?」

「そ、その……自分も熱中症で寝てたわけなんですけど、起きたとき森がすぐ見えたというか、テントにいなかったっていうか、草原にいたので……どうしてかなって?」

「「うっ……」」


 奈央の質問に薫と令が固まった。


「ワ、ワンミさんは自分が運んだんすけど、自分のときどうしたのかなって?」

「そ、そ、そ、それはね……!?」


 薫は何かを訴えようとしたが言葉が続かない。どもってもいて奈央は首をかしげる。

 薫は一呼吸置き、


「こうしててもしょうがないし、正直にはっきり言うわ……」

「は、はい!何かあったんすか?」


 重苦しく話はじめた薫に奈央は少し身構える。


「奈央ちゃんを看病する時に、マット敷いてね、その後血流をよくするために服を緩めたのよ……」

「は、はい!」


 熱中症の時はズボンのベルトを緩めたり、頭を高くしたりする。奈央は保健体育で習っていたのでなんら不思議なことではないと思った。


「それでつかさちゃんと色々作戦を練ってこうして森を作ったり色々やったりしたのよ。もちろんなおちゃんの様子も見ながらね」

「は、はい」

「そして全てが一通り終わって、なおちゃんもだいぶ安静になったから私たちも一安心してテントに運ぼうとしたのよ……」

「は、はい……」

「一安心しちゃったからかしらね……なおちゃんの服を緩めたからね……肌色がそこそこ見えるようになったじゃない……その、ね……いたたまれなくなってね……」

「あ……」


 奈央は薫が何が言いたいか伝えたいか、なんとなくだが察した。自分が男だった頃を考える。そんなときにそれこそワンミを介抱となれば当然困る。いたたまれなくなる。緊急時ならそんなことを考えている余裕はないが、薫たちは森を作ったりと色々なことをこなした後、疲労と安堵の量もそれなりに大きいはずだ。


「なおちゃん事情が事情だから言えるけど、その……ワタシたちドキドキしまして……」

「二人でテントに運ぼうと思って近づいたのですが、凄い罪悪感が襲ってきまして……」


 珍しく令が神妙な面持ちで話す。


「とりあえずブランケットだけでもっと思って目をつぶりながらかけたのよ……」

「そ、それだったら多少は見えるところが少なくなっていけないすか?」

「そのね……想像しちゃうというか、一度そういうことを考えてしまったら頭から離れなくなってね……もうなおちゃんに近づけなかったのよ……」

「な、なるほど……」

「私も事情ゆえに大丈夫と思ったのですが、男の本能には勝てませんでした」


 2人が恥ずかしそうに、重苦しく話すせいか奈央も顔がほんの少し火照る気持ちになった。ワンミは終始わけがわからないようでそんな3人に首をかしげた。


「寝込みを襲う……みたいな感じというか、なおちゃんが起きた時は嬉しかったのあると思うけどそんなことは思わなかったのよね。つかさちゃんが言ったけど寝てる、無防備っていうのが良くなかったみたいだわ……」


 令も共感したらしく2人して頭を手で隠していた。


(自分だったら……)


 そもそも他人の女性との交流はそこまでなかった奈央だが、想像はたやすかった。転生前彼女と過ごした記憶。たまに見せる彼女の隙、ドキドキした。基本的に活発だった彼女だからこそギャップというのがあったかもしれないが、やはり異性として思うところはあった。

 今ではもうだいぶ前のように感じる。今同じ境遇に置かれても彼女にドキドキするのかは分からなかった。

 たまに押しが強いクラスメイトや同級生がいた。異性として感じるボディタッチ、仕草、運動着からチラッと僅かに見える下着、野球一筋の奈央といえど目が止まらないわけがなかった。

 そして今は女性、もし薫と令を同じように看病しなければいけなくなったらどうだろうか。薫が言っていたように一安心すればきっと色々な考えが出てしまうだろう。今の自分よりも頑丈で厚い胸板、引き締まった腹筋周り、そして下の方、どんな感じなのか経験があるからこそ想像が容易い。

 異性として触れていいのか、増してや寝ている無防備、恥ずかしいと思うのは必須だと奈央は結論付けた。


「なので最終的にあのように森のど真ん中になりました。木々があるから大丈夫だと思いまして……本当にすみませんでした!」

「私もすみませんでした!」


 薫と令は立ち上がり、平謝りした。奈央は慌てて2人を止め、


「そ、そんなに謝らなくても大丈夫っす!頭上げてください!じ、自分でも実際逆の立場だったらそうかもなので……こうして回復出来たし!」


 2人は顔を上げ、


「ありがとうね奈央ちゃん。なまじ知ってしまっているからこそなのよねー!きぃー!」

「私はあのような感情が出てくるのが初めてだったので……」


 薫と令、それぞれオーバーなリアクションをした。よくわからずポカンとしてワンミだったが流石にこらえきれずクスッと笑った。

 3人はそれに気づき、和んだ。


(やっぱりワンミさんの笑顔、可愛いな。顔色も良くなったし)


 晩ご飯をしっかり食べたおかげかワンミの体調がどんどん良くなっていると奈央は感じた。


「ワンミさんも和んでくれて助かるわ。ぼちぼち聞かないとなのだけどあなたは……」


 薫が座り直し、ワンミに聞き出そうと話の途中で、


「ワンミ、探しました」


 聞いたことのない声が聞こえないはずの場所から発せられる。


(……!?)


 奈央は素早く声の方向に振り返り、身構える。

 そこには12歳くらいだろうか、身長的にもあどけなさが残る赤髮の女の子が立っていた。


(魔法が効かなかった。いつの間に侵入した!?)


 奈央はワンミを見つけたとき同様、常に周りを探知できる魔法を使っている。それなのにも関わらず、気付かなかった。気づけなかった。

 明らかに只者ではない少女を奈央はにらみつけた。

作者:ここまでor今回見ていただきありがとうございます!ちまちま作り続け、おかげさまでこの話数で10万文字を突破しました。奈央編に入ってから描きたいこと多くて一気に文字数が爆上がりしているので……w(それゆえ少し長く見にくかったら申し訳ありません!)

 これからもコツコツと定期的にしっかり投稿できるように努めます!

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