17,元高校球児、銀髪少女を介抱します
注;これはあくまでフィクションです。
一年に二度横断幕を見る機会がある。卒園式と入学式。小学校は全校生徒250名程度の小規模な学校。幼稚園から引き続きみる顔、新しくみる顔、幼稚園とは入園式とは雰囲気が違いさらに大きくなった体育館。奈央自身も少しずつ心身ともに変わっていき、今回の入場は落ち着いている。
自分と周り、自分の存在と価値、それを奈央は少しずつ年齢を重ねるごとに自覚していく。運動会では変わらず出た種目はみなトップを取り続けた。劇の発表会があれば主役を軽々とこなしてみせた。テストも100点は当たり前のようにとった。周りは奈央を羨ましいと褒める。父・母も当然褒めてくれる。変わらずそのことが奈央にとって嬉しかった。
ただ少し躓いたこともあった。小学校から体育の授業にある水泳、泳げるようになるまでに少し時間がかかった。
始めてみるプール、体育館と同じくらいの大きさ一面に水色が靡く。プールサイドには無数の赤い点が蠢いていた。虫だと知らずに触った時はびっくりした。
奈央は初めて水の中に身体全部を沈める。お風呂とは違う初めての水の中、耳に水が入りこそばゆくなる。鼻に水が入ろうとグイグイ押してくる感覚が伝わる。ゴーグルをつけていても目を開けるのが怖かった。
先生に付き添われながら何回も、何回も身体を丸める。少しずつ、少しずつ水の中に慣れていき、そしてどれぐらいチャレンジしたか奈央自身も分からなくなった時、やっと目を開けられた。陸とは違い全体が青く彩られている。奥を見るとクラスメイトが和気あいあいと泳いでいるパタパタ足が見える。もやもやと視界の前を揺らぎ明るい色がある。発光源の方を見あげる。水の世界と陸の世界の境目を始めて下から見る。上から見る水面もキラキラと輝いて綺麗だったが、下からみる水面はもそれ以上に思えた。クラスメイトたちが作る波が夏の太陽をゆらゆらと遮る。もっともっと見ていたかった、しかし息が限界を迎えた。最初は怖く感じた水泳の授業、この瞬間からそんなものは消えていった。
それから一通り泳げるようになるまであっという間、その年の最後の水泳では誰よりも速く綺麗なフォームで泳いでみせた。
「なおちゃん、なおちゃん起きて、朝よ」
奈央は薫に揺らされていた。奈央はそれに気づきゆっくりと重い瞼を開ける。身体が少し重く感じたが熱中症の時ほどではない。
そして隣を振り返る。銀髪の彼女はまだ寝息をたてている。奈央が使用していたテントに彼女を寝かしていた。
奈央はぼさぼさの髪を気にしながら少し狭いテントから外に出る。
「か、薫さんおはようございます。それと起こしてもらって助かりました」
「いいのよ。昨日つきっきりで見ていたからあまり寝ていないのでしょう?寝ぼけているせいか喋りがつかさちゃんみたいになっているわ」
奈央は薫に言われ、寝ぼけている頭と固まっている身体を起こすために、伸びをする。
「奈央さん目が覚めましたか?朝食もう出来ていますよ。彼女さんは起きられましたか?」
「お、おはようございます!まだっすね、かなり熟睡しています」
「そうですか、いちおう彼女さんの分も分けておきますね」
奈央が作ったテーブルの上にはすでに朝食が並んでいた。奈央はかなりギリギリまで寝てしまっていたのだと気づく。
しっかり腹ごしらえをするためにテーブルへ向かった。
「はぁ、はぁ!すみません!水ありますか?!」
奈央は銀髪の少女を背に乗せ、真っ暗な森の中灯りがともるテントの元に全速力で駆け込んだ。
勢いよくバッとテント前に奈央が現れたので薫と令は身構えるように驚き、奈央だと分かると安堵しながらも、
「どうしたの奈央ちゃん?!」
「背中に……人ですか!?」
奈央が人を背負っていたことに気づき再度二人は驚く。
「そうっす!自分と同じくらいの女性っす!多分熱中症っす!」
奈央の訴えから二人は何をして欲しいか感じ取りすぐに用意に入った。薫は少女に回復魔法をかけ、令は横になれるスペースを確保するためにシートとマットを敷き始める。
程なくして、令が敷いた場所に少女寝かせるよう指示を受け従った。
「奈央さん、小池から水を組んできてもらってもよろしいですか?」
令は奈央に、いつもよりハキハキと少し早口で告げる。奈央は頷き、自分が使っていた水筒を片手に一気に小池までかける。猶予を争う、早く少女を助けたいと奈央は思い、水を組み終えすぐにテントに戻った。
二人は奈央が一瞬で戻ってきたことに驚きながらも、処置を続ける。
「お水ありがとうございます!借してください!」
奈央は令に水筒を渡す。そして少女の横に準備していた塩を手に取り、少女の口を少し開けそれらを含ませた。そのままでは飲み込んでもらえないので令は魔法を使って飲み込むように促した。
一通り迅速に処置をしなければならない項目はクリアした。少女の険しく息苦しい表情は緩和されていた。
奈央は自身のテントに少女を運んだ。すやすやと寝息が聞こえる。
そして3名は奈央が作ったテーブルに集った。
「とりあえずこれで大丈夫そうね」
「はい。2回目なのもあり素早く出来ました。それより奈央さんが一瞬で水を組んできたことに驚きました。人の駆け足では少しかかる距離だと思ったので」
令はそう言うと不思議そうに奈央を見つめた。奈央は頬を掻きながら、
「い、急がなきゃ、って思いましたから……」
奈央は今回初めて本気で魔法を使用して駆けた。その言葉に噓はない。少女を助けなければいけないのに私情で手を抜くなんて有り得ないからだ。非常事態の時、だから本気が出せた。いつまでも臆病になってはいけないと。
薫も奈央を見つめ、
「それにしてもよくこの森に彼女がいるなんて気づいたわね。最初ここからいなくなったとき、彼女を見つけたから駆けたんでしょ?びっくりしたわ」
「そ、その森の風が変わったというか……雰囲気変わったなって思って、魔法で探知して見つけ、ました」
奈央は歯切れ悪く答える。薫は奈央を咎めるために言っているわけではないことは分かっているが、隠していることに居心地が悪かった。
令は分析を始め、
「彼女、どこからきたのでしょうか。目的地のクルギアスラ村まではまだ距離がありますけど、他に近くに村はないと聞いていますし、遊牧民はこの世界ではそうそういないと王から聞いていますし……」
「それだったらそのクルギアスラ村から逃げてきたとか?そしてたまたま見つかったこの森で休憩するために入ってきたーみたいな感じ」
令と薫が推理している中、奈央は少女が眠る自身のテントを見つめた。
(本当にどこから来たんだろう……)
薫から言っていた通り、クルギアスラ村から来たのだろうか。もしそうだったら逃げなけれならない事態なほどの村なのか、奈央は喉を鳴らした。
奈央も無言で推理している中、
「なおちゃん、なおちゃん。お願いなんだけどもしかしたら彼女さん、汗をかいたりするかもしれないから看病見てほしいけど、いいかな?」
薫に呼ばれ奈央は驚き、考えをそちらに移していく。
「は、はい!もちろん自分が運びましたから」
「ありがとうね。ほらワタシとつかさちゃんだと触るのマズいから」
「え?……あ……」
奈央はなぜ薫がわざわざ看病について聞いたのか、ようやく理解した。
奈央はあわあわしながら、
「そ、そのいいんすかね?」
「しょうがないよねー。ワタシたちがやったらセクハラになっちゃうし、いくら前が女だからっていってもちょっと良くない気がするから。それいったらなおちゃんも前が男だったからっていうのはあるけどね……こっちに来てから他の裸って見たことないって言っていたわよね……」
「そ、そうっすね……王都では基本的にひとりで隠密にしてたんで……その、恥ずかしくて……」
「そうよね~。でも今はなおちゃん女の子だから女性の裸を見ても大丈夫なのよ?見ても案外特に驚かないかもしれないし!」
「そ、そうでしょうか?」
ここでは女は奈央しかない。分かってはいるが尻込みする。
令が真面目な表情で、
「実際転生した時に身体の作りが変わっていますので、脳の作りも変わっています。現に私は自分の裸を見ても何も思わなかったので。ですから大丈夫ですよ」
「ホントつかさちゃんは凄いわよね~……」
薫も令の言葉にたじろいでいた。
「彼女、服装の問題で一度着替えをお願いしたいのですよね。あの服装ではあまりにも心もとないし、その……おそらく透けると思うので……良くないですよね薫さん?」
「ええ!良くないわね!そうやって体のラインが見えてしまうのはダメだわ!向こうの世界だったら騒ぎ立てまくりよ!」
「ですから動物たちの毛皮を使って服を作ろうと思います。今日ももう遅いので明日になりますが」
「毛皮はワタシがしっかり責任もって剝ぎ取ってくるわ!目の保護のためにね!」
「分かりました、加工は私が魔法を使って挑戦したいと思います」
令は淡々と話す中、薫は急にエンジンフルスロットルだった。ただどこか顔は少し桃色になっているように奈央は見えた。観察していた薫がこちらに勢いよく振り返り、目があい奈央はびっくりする。
「だからどうしてもなおちゃんにお願いしたいんだよね~」
「りょ、了解っす!大丈夫だと信じて頑張ります!」
「大丈夫ですよ。早速汗拭きをお願いします」
「わ、分かりました!」
奈央は令から渡されたタオルを片手にテントに移動する。緊張のあまりロボットのようにカクカクしながら向かった。そのまま奈央はテントに入る。
少女は汗をかいていた。熱中症はまだ続いているらしく、先ほど取り入れた栄養で新人代謝が激しく変化していた。寝顔も少し苦しそうに見えた。
そんな少女の表情を奈央は目撃した瞬間、先ほどの恥ずかしさを忘れすぐに少女の前に座る。少女に被っていたブランケットをどかし、タオルで素肌が見えるところから拭いていく。このタオルは乾いているのに少しひんやりとしている。令がおそらく魔法で冷やしていたのだろう。
右腕、左腕、右足、左足、丁寧に拭いていく。少しずつだが少女の表情が穏やかになるような気がした。しかし安全ではない。奈央は唾を一度飲み、服の中にタオルを滑り込ませる。少女の服の構造上脚から入れる。
腕や足を拭いている時も奈央は感じたが、少女は柔らかった。自分の肌質とは違う柔らかさ、これが女性の、少女の肌質なのかとドキドキした。しかし、男の時のようなドキドキとは違うような、少なくともそれで揚がってしまうことはなかった。
(大丈夫……それよりも……)
脚周りを拭き、お腹の方に上がっていく。少女の身体は奈央よりも細く、あばら骨が浮き出そうなくらいだった。脇もえらく細く、モデルなんかは羨ましいと思うかもしれないが、
(あまりにも細すぎる、十分に食べてないな……)
胸部に上がっていく。
(ん?ここはしっかり肉があるな……あ……)
奈央は堂々と拭いてから気づいた。ドキドキこそはしたが、申し訳ない気持ちが強くなった。女性の命、もう少し丁寧に拭くべきだったと。そしてなんとなく、自身で直接触っていないの比較ができないが、自分よりも大きいような気がした。奈央は服越しからまじまじと見つめる。
(なんだろ……なんかもやもやする気持ち……それよりも)
奈央は我に返り、少女の服を戻し顔を拭き始める。丁寧に、丁寧に。そして奈央自前の櫛を内ポケットから取り出し、少女の髪を整えていく。砂漠を歩いていたせいか髪はごわごわとしていた。
こうして一通り終わり、最後にブランケットをかけ直す。少女の表情は随分と楽になったような落ち着いた寝顔に変わっていた。
(ふう、なんとかなった……)
奈央は一息安堵しその場にぽすっと座り込んだ。
(後は……特に大丈夫そうかな?タオル洗ってこようかな……)
小池までさっと行こう、奈央はそう思い立ち上がろうとしたとき、
「うぅ……」
少女がうめき声を上げた。うなされているような、寂しそうな声だった。表情もまた険しい表情に戻ってしまっていた。
奈央は少女を見つめ、こういう時どうしたらいいか悩んだ。
(あの時、自分がしてほしかったこと……)
そして、少女の頭に近づき左手で撫で始めた。優しく、優しく。
先ほどといた髪は櫛で説いたおかげか幾分サラサラになっており、堪能するように丁寧に撫でる。悪夢から遠ざけるように。
(しかし綺麗な銀髪。綺麗なのってこう見えるんだな)
銀髪なんて確かに海外に住んでいる人とかでいたような、そもそもそれは白髪だったのか。奈央は前の世界ではそのような認識しかなく銀髪なんて今この瞬間初めてしっかり拝見だった。
きっとショートヘヤーな彼女の元気なところを拝んだら可愛いのだろうなと奈央は思い、撫で続ける。
(起きたらいっぱい食事取らせないと!)
流石に身体が細すぎる。ぷっくりするくらいが丁度いいと思ったのは前の心が残っているからだろうか。
そんなことを奈央は密かに考えて撫で続けているうちに、少女の表情から険しさは消えており、
(少し笑ってる?可愛いな……)
少女は安らかに寝息を刻み始めていた。それに奈央は安堵し一気に眠気が押し寄せてきた。
しかし、この手は止めないように、もっと安らかに、その意志だけは残し続け奈央は少女の隣に横になりながらも眠気に完全に支配されるまで、少女を撫で続けた。
昼過ぎ、雨が降ることの知らないこの地域は今日も雲ひとつない快晴。木漏れ日からでも暑かった。奈央は小池から自身の水分補給と水を組み終えテントに入る。
少女はまだ寝ている。
(どうしよう、このままでもすることないし……そうだ)
奈央はすぐにテントから出て、森を駆けた。昨日の切株のところにきた。切株が少し汚れており動物たちが寝床した痕跡があった。
奈央はその近くに置きっぱなしにしていた。使わなかった枝たちを両手いっぱいに持つ。
(これで何か作ろう)
テントに戻る。少女は起きていた。上半身を起こし、ブランケットをちょこんと掴んでいる。
奈央は枝を落としそうになるくらい驚いたが、その枝をテントの隅に置き少女の前に座る。
「身体大丈夫?!」
「……?」
少女は長い間寝ていたからだろうか、頭が覚醒しきれておらず、反応が鈍い。
奈央は少女に合わせるようにゆっくり話す。
「のど、乾いていない?お水、のむ?」
「……飲みます」
奈央の問いかけに少女はか細く応えた。
奈央は蓋を開けた水筒を渡す。
「そのままグッと飲んで」
「……はい」
少女は水筒を見たことがなかったのか、渡されたからなのか飲むのをためらったが、奈央が応えれば素直に飲んだ。水筒は一瞬で空になった。余程喉が乾いていたのだろう。
あらためて奈央は少女をまじまじと見る。最初見た時は気付かなかった顔たち、見た目は奈央よりは僅かに背が大きかったが、幼さが残るような髪型のショートヘヤーが際立たせているのか顔には丸みがあり非常に可愛らしい。目元はほんの少したれ目だろうか。そして瞳、サファイア色か、アクア色か、キラキラと輝く目がとても印象的だった。
(この子ホントに可愛いな、少し華奢なのが気になるけど……せめてここいる間で少しでも戻ってくれたら嬉しいな……)
なんてことを奈央が考えていると、とっくに飲み終わった少女に不思議そうな目で見られる。それもまた愛らしかった。
「ごめんね。そういえば名前聞いてなかった。お名前は?」
「……ワンミ、ワンミ・デュノアです……」
「ワンミさん、だね。ありがとう。たて続けに聞くようで申し訳ないんだけど、ワンミさんはどこから来たんですか?」
「……」
少女・ワンミは俯いてしまった。話したくないのだろう。警戒されている。奈央は薫たちにされてきたことをマネしてみる。
「ごめんね。というかいきなり知らない人に聞かれたら誰だって警戒するよね。こうして話しているけど逃げられたらどうしようって思ったし」
「……自分を助けて、くれたのですよね?恩人です、そんな人を乱暴に、できないです」
ワンミはたどたどしく小声で答える。優しい性格そうだがまだ警戒されているな、奈央は話を続ける。
「ワンミさんお腹減ってない?食事軽くならすぐ用意できるよ」
「……食べたい、ですけど、いいんですか?食事、貴重です」
「大丈夫だよ。ちょっと待ってね持ってくる!」
「……ありがとう、ございます」
奈央は軽快にテントを出てテーブルに置いてある、起きた時に食べてもらうように保存してもらったパンとシチューを上に被せていた布を取ってから、おぼんごと運ぶ。帰りは慎重にテントに入る。
「……こんなご馳走、いいんですか?」
ワンミは匂いで気づいたのだろうか、テントに入って早々に心配そうに奈央を見つめた。
「大丈夫、大丈夫。というか早く元気になってもらいたいし」
奈央は言いながら、ワンミの前におぼんを運び、相づちをうってからワンミの膝に乗せる。
「シチュー、ちょっと待ってね」
奈央はシチューの入ったお椀を手に取り、目をつむってイメージを始める。ぬるすぎず、熱くない程度に温める。
その光景をワンミはパチパチと目を瞬かせていた。
「……凄い、です」
「え?……あ、そっか魔法をこのように使うことはしないんだっけ。便利だよね、出来立てのような温かさを簡単に再現!今回はすぐ食べるからアツアツじゃないけど」
「……火魔法、ですよね?そのような、使い方」
「そうそう。これくらいなら自分でもできるから。さぁ食べて食べて」
「……はい」
スープ、飲み物を温める。ようはレンチンの応用、ありそうでなかった発想。この世界は火は魔法を使わなくても日常生活で使っている。だからこそ温めなおすときもいちいち鍋に火を入れてしまう。
(ただこれも一般人からしたらかなりの技量らしいけど……)
この世界は誰もが簡単に魔法を使いこなせるわけではない。適性があり、小さな火の玉を放つだけで限界な人が大半だ。このスープを温める行為も上手くイメージして調整しなければ中身が燃えてしまう。そういう調整も技量に含まれ、できる人がさらに限られてくる。何気なくこなす魔法も自分は特別なんだと、奈央は再認識する。
奈央がもの思いをしている間にワンミはパンとシチューをぺろっと平らげてしまった。空になった食器をおぼんと一緒にワンミから奈央の座っている隣に移す。
「まだお腹減ってる感じかな?ごめんね、いま出せるのこれくらいしかなくて」
「……いえ、十分です。こんな美味しいの、初めて食べました」
ワンミは空になった食器を見つめている。もう少し食べたいんだなと奈央は思い、苦笑する。
「また夜になればたくさん食べられるから。お肉は食べられる?」
「……!お肉、ですか?!そんなご馳走、食べていいんですか!?」
「もちろん!自分の仲間が今取りに行ってるから。しっかり食べて回復して」
「……ありがとう、ございます。こんな自分に……」
ワンミは俯く。それを見た奈央は、
(なんか自分と似てるな……)
なんとなく奈央はワンミにそう思った。佇まいなのだろうか、雰囲気なのだろうか、まだほんの少ししかワンミと話していないのに、そう思い彼女を眺めた。
そうしているとワンミはフラフラ体を揺らして始めた。どうやら満足のいく食事で血糖値が上がり、眠くなったのだろう。奈央はそっとワンミを支えながら、
「ワンミさん、大丈夫ですか?眠いんですよね?まだ体調も万全じゃないと思うので、ゆっくり休んで」
「……すみません。夜には起こして、ください」
「分かりました。体、横にしますね」
ワンミは奈央に上目遣いで訴え、よっぽどお肉が食べたいのだなと奈央は微笑みながら、ワンミは優しく寝かす。ブランケットを首元までかけ奈央は元の位置に戻る。すでにワンミは寝息に近い呼吸を取っていた。
食べる前より少しワンミの表情は穏やかに見えた。
(さて、食器片付けて薫さんたちに報告しよう)
ワンミがある程度回復したらここに来た経緯も聞かないといけない。ただぶっきらぼうに聞けば警戒されるだろう、彼女はそういう性格だ。
どう尋ねようか、奈央は考えながらテントを後にした。
鴨鍋ねぎま:今回は少女の介抱について3人の見解。そして少女ことワンミ・デュノアの意識回復です。そういえば奈央の時はなんでくさっぱらのど真ん中で寝ていたんでしょうかね?