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16,元高校球児は女の子に遭遇し

注;これはあくまでフィクションです。

「いっしょにあそぼー!」


 そう言われ奈央は、自分と同じくらいの子に手を引かれ滑り台に連れていかれる。


「よく掘れたねー!」


 お姉さん、先生から芋掘りをしたとき褒めるように言われた。


「ダンスたのしいねー!」


 お遊戯会、奈央はクラスメイトと笑顔で踊り合う。


「上手だ!よく作ったな!」


 幼稚園で工作を作り、父に見せたとき笑顔で頭を撫でながら言った。


「わたしがなおくんのおよめさんになるのー!」


 女の子からおままごとに誘われ、お父さん役を任される。

 幼稚園の頃はたくさんのことが楽しかった。同い年、自分と同じくらいの子と遊ぶのは新鮮だった。家では父しか遊び相手はいない。母は腰の調子が少しずつ悪くなっている。男の子と泥まみれになるまで遊び先生に注意され、女の子とは折り紙やビーズをくっつけて模様や小物を彩った。

 お遊戯会や運動会はその中でも特に楽しかった。クラスで一番によく踊れ、徒競走ではいつもイチバンを取った。そうすると父から、母から、先生から、クラスメイトから明るい声で迎えられ褒められる。それが自分にとってはとにかく心地良かった。その他の行事や遊びでもできないときは周りに聞き、できるようになるまで練習した。そして褒められる。

 父とは定期にキャッチボールをしていた。どんどん投げるボールの距離は伸びていき、少しずつ投げたいところに投げられるようになっていった。そして父から褒められる。

 褒められる、その行為でこみ上げる嬉しさの感覚はたまらなかった。もっと褒められるように頑張りたい、このころからやみつきになっていった。



(……少し寒い……)


 身体を震わせながら目を覚ます。寝る前に比べ辺りは薄暗く、夜前か朝焼け前のどちらかと気づく。

 辺りが静か、奈央も音をあまり立てないように身体を起こしながら見渡す。ちょっとだけ離れたところに薫と令のテントがある。静かなところを見ると二人とも寝ているようで、朝焼け前であることが分かった。


(だいぶ寝ちゃったのかな?)


 馬たちも足を畳み、目を閉じている。聞こえる音は木々が擦れる葉の音、風もあまりなくその音すらも弱い。

 奈央は身体を確かめる。右腕を回す。だいぶ軽くなり難なく動かせた。ブランケットをどかしストレッチをする。前の身体は日頃から毎日やらないと柔軟に動かせなかったが、今はいとも簡単に上半身が地面にくっつく。女性の体幹は柔らかいイメージがあったが、やはりイメージ通りなのか、それとも素体がいいのか、奈央はストレッチをするたびに疑問に思っていた。


(頭も痛くないし、だいぶ軽くなった……腹痛も消えているみたいだし、調子は戻ったかな……)


 熱中症で頭が痛くなる、働かなくなるなんて初めてだった。そもそも頭痛なんてこの身体になるまでは痛みを知ることが無かった。腹痛もだ。ずっと締め付けられるようなことなんて起こりえなかった。そして今こんなに早く腹痛が消えたのはおそらく薫がかけてくれた回復魔法のおかげだろう。

 朝食までまだまだ時間がある。どうしようか奈央は辺りを見渡す。今からまた寝るには身体の疲労は全て取れてしまったので難しい。


(少し散歩しようかな。令さんが作った森が気になるし)


 奈央は立ち上がり少し緩くなっていた腰ベルトを調整し、髪型をいつもの活動しやすいポニーテールに結う。

 そしてひと息吐き、イメージしながらその場から横に跳ねる。音を出さず、姿を隠すように黒魔法を使う。

 忍者がやっていた木に飛び移りながらの移動、それを実践してみる。上にある枝に一気に跳ぶ。枝に乗ったら間髪入れずに水平方向を確認し移れる枝をみつける。そして跳ぶ。

 駆け出すときと同時に黒魔法で周りの気配を確認したが、怪しい者はいない。ただ森を作ったおかげか何頭か動物やモンスターの気配は察知できた。安全に身を隠せる森は、暑さを凌げる木々はどの生物もありがたいらしい。

 少し離れたところで察知したおそらく牛と思わしき気配のところまで、奈央は一気に加速する。イメージが上手くできたおかげか、はじめて枝を伝って移動しているが転ぶ事はなかった。

 牛が見える位置にたどり着く。木の幹の下で数頭の牛が休んでいた。身体は細く肋骨あばらぼねが浮き出ていることが確認できた。厳しい砂漠の環境、おそらく餌はほとんどないのだろう。そんな中安全に身体を休める場所ができた、束の間の極楽だろう。せめて朝にはここを発ってほしいと奈央は願った。

 木の枝から周辺を見渡す。少し先に小池があった。令が作ったと言っていた池だ。奈央は枝から飛び降り池の前まで行く。両手を合わせ水を組む。そしてその水を口に含む、久しぶりのちゃんとした飲料を口にした。もう一口飲んだ後、再び木々を蔦りながら移動し始める。この森と砂漠の境目までいこうと奈央は思っていた。

 奈央は、夢中で移動し続けあっという間に境目まで到着した。地平線から太陽が顔を出そうとしている。先ほどまで薄暗さが少しずつ消えていき、赤みの強い光が注ぎ始める。目の前の砂漠には建物もなく草もなく山もない、太陽を何も遮るものがなく、奈央を少しずつ照らし始める。


(綺麗……)


 地元からみた朝焼けも綺麗だった。山の凹凸によるコントラスト、それも良かった。しかし今目にしている光景は初めて見る。それが奈央にとってより美しく見ることができた。

 風が吹く。遮るものがないこの地の風は強く夜で冷えつめたい。奈央は身震いする。

 そんな時、後ろから物凄いスピードで、光の速さのような速度で奈央に接近するものを感じ取る。そのものはそのまま奈央が木にとまっている丁度隣の木に激突した。奈央は激突した音の方を驚きながら確認する。


「いったいわぁ~……いい加減止まり方を習得しないとね……」


 そのもの、薫は激突したものにも関わらずけろっとしていた。首回りを少し動かしている程度。そしてそのまま奈央を見上げ、


「なおちゃんごめんねー!うるさくしちゃって!」

「ぜ、全然!薫さん大丈夫すか!?」

「大丈夫よー!そっちにいってもいいー?!」

「あ、はい!大丈夫っすよ!」

「じゃいくねー!悪いけど止めてもらってもいいー?!」

「え?!」


 奈央が木の上の方にいるためお互い大きめな声でやりとりする。そして薫は奈央の確証を得る前に一気に奈央の元へ加速した。先ほどこちらに向かった速度で。


(止めれるのこれ……?!)


 奈央は反射的にレンヘムとの戦闘に使った影の沼を薫の突っ込む先に展開する。まだ辺りが明るくなりきれていないおかげで空中に展開することができた。そして薫は沼に頭からダイブする。「ぶごごご!」と言いながら薫はその場で暴れる。止めることには成功したがあまりにも力技で見栄えの悪い方法になってしまった。

 急いで奈央は薫を救出する。そして薫を隣に座らせる。


「ぷはー!ごめんね!ありがとね!」

「す、すみません!薫さん大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、こうなること承知で上がったから。普通の木登りなんてワタシには無理だからね。なおちゃんならなんとかしてくれると思ったし!」

「も、もし自分が止められなかったら……?」

「その時はそのままこの星を脱出したでしょうね!でもしっかり止めてもらったわありがとね!」


 しれっととんでもないことを言う薫に奈央は顎が外れかける。そんな奈央を気に留めず薫は話を続ける。


「奈央ちゃん寒くない?やっぱり夜は冷えるからね、ブランケットを持って行かなきゃ!と思って」

「あ、ありがとうございます。丁度寒気がしていたところだったので」


 奈央は見せびらかすように出されたブランケットを薫から貰い、肩からかける。


「も、もしかしてそれだけのために来たんすか?」

「ううん。なおちゃんとお話したいとなーと思って。早く起きちゃったんでしょう?散歩に向かうなおちゃんに気がついてね。その様子だと大分体調は良くなった?」

「は、はい。本当にありがとうございます……」

「誰だって体調は崩す時はあるものだからお互い様よ!というかワタシとつかさちゃんも万全じゃなかったみたいでね?知らず知らずのうちにカラダが塩分求めていたらしくてね。この森作ってから回復したのよ!だから今回全員で体調悪くしちゃったみたい。向こうでは減塩減塩!って言っていたけど塩取らなすぎはマズいみたいね……」

「そ、そうだったんすか……」


 奈央は自分で塩を摂取した記憶がなかったが、おそらく薫たちから口に注がれたのだろう、水と一緒に。


「ホントサバイバルってやってみないと分からないものね。ていうかこっちじゃそこらについてケータイで調べられないし」

「た、確かに。そういえば長いことスマホ触っていなかったけど、案外なんとかなるものっすね」

「スマホね!そのスマホの代わりに魔法があるって感じかしらね。どっちもあったらめちゃくちゃ便利なんでしょうね~!」

「そ、そうっすね!そうなったらスポーツとか凄いことになりそうっす」

「そうね~。アニメとかで見た空中戦とかになりそうね!」


 薫はところどころでたどたどしくなっていたが奈央の話についていこうしている、それが奈央には嬉しかった。


「あ、思い出した!そういえばなおちゃん、付き合っていたんですって!きぃー!羨ましいわ!!」

「あ、あはは……」

「そういうのなおちゃんだけよー。つかさちゃんはちょっと環境が特殊だったみたいで、アタシなんて……ムキー!なんで理想の男がいなかったのかしら!」

「そ、その薫さんは男の友達とかっていなかったんすか?」

「そうね~、会社の男はみんなクソッ!だったし、同級生とかはタイプじゃないし失礼だったからね~」

「そ、そうだったんすね……」

「良いわよねー、なおちゃんの彼女さんは尽くしてくれたのでしょう?」

「そ、そうっすね。野球ばっかしていたので色々と助かっていました……」

「そうやって気づけるから偉いわよ。世の中の男は女が世話するの当たり前みたいに思って感謝しない輩なんてぎょうさんといるんだから!なおちゃんはしっかり感謝した?」

「は、はい……!野球以外のこと色々教えてもらったし……ありがとう、は言わないとなって思ったときは言うようにしてました……」

「いいわね~。はぁ、ワタシのとこにもなおちゃんみたいな男がいたら良かったのに……そっか、ワタシも田舎に行けば良かったのか!都会だからあんなこと恥ずかしげなくやったり話したりするのよ!」

「あ、あはは……」


 奈央は苦笑しながら薫の話を聞く。たまに暴走気味になるのはいつものことだと思っている。

 田舎と都会、そんなに考えは変わるものなのだろうか、奈央は都会に住んだことはなかったので分からない。ただ父は豊かに育ってほしいのだと自然が多いところを選んだとは聞いていた。

 過去、彼女のことも含め思い出す度胸は痛くなる。いい加減慣れなくては、痛みがなくなるようにしなくては、思ってはいた。

 奈央は胸の痛みを緩和させるために手をそこに添える。そこにある柔らかな感触を、過去に浸っていたせいか今の光景を見ていたせいか、感じることを忘れていた。


「ひ、日が空けますね」


 そんな二人を出迎えるように太陽が顔を出し始めていた。先ほどまでは暗かった空が一気に明るくなっていく。赤みがかった空が今度はスカイブルーになるために変色していた。


(やっぱり綺麗だな……)


 奈央は無言で太陽の方向を見る。薫もそれを察し話しかけずに一緒に同じ方向を見てくれた。


「ひ、日の出が綺麗でついつい見ちゃいました」


 奈央は少し恥ずかしいような笑顔で薫に話しかける。


「そうね~。日の出なんてしっかり見るの何年ぶりかしら……ワタシが住んでいるところは結構ビルとか建っていたから気づいたらもう日は高いのよねー」

「じ、自分も見る機会そんななくて……自分のところは山がたくさんあったんすけど、こうして平面で見れるの初めてで」

「確かにそうよね、日本って結構色んなものあるから。海とかから見ると光景もこんな感じなのかしら」

「う、海良いっすね!自分行ったことないんで行ってみたいっす!」

「思ったよりジメーってするから覚悟するのよ?」


 薫は海に行ったことを思い出しながら、顔にジメー加減を書いていた。そうなのかと、奈央は純粋に頷いた。山育ち、野球一筋だった奈央は海に観光に行くことはなかった。


(彼女に誘われたことはあったっけ。行けば良かったな……)


 そんな奈央をまだ顔を出しきっていない太陽の熱が照らす。肩にかけていたブランケットを脱ぎ、畳んで膝に置く。


「もう暑いわね~……砂漠の太陽恐ろしいわ……」

「そ、そうっすね。でも今はその心地いい、っす」

「そっか、体調もすっかり良くなってなによりだわ。なおちゃんこれからだけどね、数日ここにいることにしたいのだけど、いいかな?」

「あ、はい!わかりました」

「塩の確保が一番の理由よ。最低限の塩しか持っていなかったからね。それとなおちゃんにお願いなんだけど、水筒を作って欲しいの」

「す、水筒ですか?」

「そうちょっと多くね。小池を作ったんだけどねそこから水を組んで凍らせて保存しようって。砂漠から出るミネラルも補給したいよねーって。雑菌はワタシが熱処理したか大丈夫よ!」

「わ、わかりました」

「何個か木を切ってそこから加工して欲しいのだけど出来そう?」

「だ、大丈夫っす!そういう図工は得意だったので!」

「助かるわ。ワタシたちも手伝いたいんだけど塩確保のために作業しないとだから」

「だ、大丈夫っすよ、頑張ります!」


 貢献できる機会がきた、しかも得意分野で。奈央は野球一筋ではあったが工作は好きだった。一生懸命頑張ろう、そう奈央は思った。


「体調のこともあるから無理しなくていいからね」

「は、はい。また具合が悪くならないように気を付けます」

「そしたらテントに戻りましょうか、そろそろつかさちゃん起きると思うから」

「はいっす!」


 そうして二人はテントがある森の中に戻る。木から降りるとき、薫はまた顔から落ちていった。



 その日のお昼過ぎ、奈央は水筒を作り始める。

 本来なら彫刻刀や立派な木工用の機材が必要かも知れないが奈央には必用ない。黒の魔法で同じことができてしまうからだ。

 テントから少し離れたところ、気配察知で比較的に動物たちがいないところに奈央はいる。そして目の前にある小さな雑居ビルと同じくらいの高さがある木、短刀サイズの木刀を取り出し、刃をイメージする。

 山の育ちがここで活きる、木の切り方はなんとなくだが覚えていた。いつどこで習ったか分からないが、父たちが切っていたやり方を思い出す。

 最初は倒したい方向に少し刃を入れる。そして今度は反対方向からゆっくり切っていく。このとき最初の切り込みよりも少し高い位置から切ると確実性が上がる。

 木は重い音を立てながらゆっくりと倒れていく。そしてあっという間に倒木した。


(初めてやってみたけどなんとかなった!)


 奈央はひと息安堵し、胸の内ポケットから塩が入った袋を取り出し、少量を口に含む。そして腰に引っかけている元々ある水筒を取り出し水分補給をした。


(この塩……美味しいな)


 牛などの動物から搾取し、調理した塩。そのため旨味も含まれていた。もう少し舐めたいと奈央は思ったがまだまだ貴重なので我慢した。

 塩と水筒を元の位置に戻し、木を選別する作業に取りかかる。倒木から細かな枝を取っていく。少し太めの枝は何かに使えるかもと思い、両手で持てるくらいに切断し切株のところに持っていく。木を運ぶときは魔法の影移動を活用する。枝をある程度片付け残るは中心の太い幹。それも枝と同様に持てる重さに切断し運ぶ、それを繰り返す。魔法のおかげで難なく伐採は終わった。

 奈央は切株の前に立ち、目を閉じる。そしてかっと目を開け凸凹だった切株をならすように居合切りをした。奈央は切株に毛羽立ちがないかチャックする。


(うん!上手くいった!)


 そしてその切株に奈央はよいしょと座った。奈央の身体がすっぽり入ってしまう大きさの切株だった。


(天然ウッドデッキ!最高かも!)


 奈央は目を閉じリラックスする。鳥のさえずりが聞こえなくなってしまったことは寂しかったが木々の擦れる音で奏でるせせらぎは心地よかった。


(はっ!このままじゃ寝ちゃう!)


 奈央は目を開け、頭を横にブンブンして眠気を覚ます。そして先ほど整理した場所から材料をひとつ手に取り、切株に戻る。


(とはいえ大きいよなー……どうやって作ろう)


 短く裁断したとはいえ幹は大きい。持ち上げたとき奈央の身体が沿ってしまう大きさ、魔法がなければ持てない。これをそのままくり抜いてしまえば楽勝だがいくらなんでもリュックに入らない。

 腰につけている水筒を再度手に取る。この水筒は精巧に作られており奈央には真似できない。簡単に、だけど漏れないような作りを考える。


(蓋も作らないとだなー……そうだ!卒業証書入れるポン!ってなるやつみたいに作ろう!大きさもそのままでいいかな!)


 奈央はそう閃き、もう一つ幹を持ってくる。片方で上の部分、もう片方で下の部分を作る。影を操り、くり抜いていく。プチプチの感覚で奈央はポンポンっとこなしていき幹を取外す。そうすると切り抜いた木材がその場に立っている。

 同様にもう片方もくり抜き今度は穴をあける。この作業は慎重にやらなけらば外の世界に開通してしまう、それでは本末転倒だ。

 上下ともに穴あけが終わる。そして最後の難関に差し掛かる。ポンってなる部分の彫刻、削りすぎてはいけない。奈央は慎重に慎重に影を操りながら削る。


(とりあえずやってみたけど……どうかな!?)


 試作した木材をおそるおそるめる。空気が抜けるふしゅっという音がわずかにした。その後に奈央は期待し一気に解放する。

 想定通り「ポンッ!」という音が高らかに響いた。


(やった!)


 無事成功できた。奈央はその嬉しさそのまま作業を再開し、水筒をたくさん作った。



「ずいぶん立派なテーブルじゃない!なおちゃんどうしたのよこれ!」

「お、大きい木で木材がだいぶ余ってしまったのでついでに作ったっす」


 薫は目を輝かながら、奈央を褒めた。

 奈央はあれから余った木材で大きいテーブルとイスを作った。今は夜、各々の作業が終わりテントに戻ってきていた。


「素敵なテーブルですね、でもどうしましょう……このテーブルたちも私が預かってもよろしいでしょうか?」


 そう令は奈央に尋ねる。もちろん奈央は快諾した。

 令は物を圧縮して小さくできる魔法を会得していた。これで持ち運びやすくなり、軽くなる。めちゃくちゃ便利な魔法だ。ただ魔法の消費量もそれなりらしい。

 奈央は必要以上に物を増やしてしまって大丈夫か少し不安だったが、二人に喜んでもらえたことが何より嬉しかった。


(久しぶりだ……こうして褒められるの……)


 奈央は感慨にふけっているとき、違和感が走る。3人以外の人間がこの森に侵入していた。

 奈央は今回の旅から常時、一定の距離で誰が何がいるか把握できる魔法を使っている。会得したときはずっと気を張り詰めているような感覚で疲労がかなり溜まったが、訓練で慣らしてきたおかげで現在はだいぶ緩和されている。生物の位置、特に一定より強そうなモンスターと奈央と同じ生物の人間はいち早く気づくように魔法を調整していた。

 こんな辺鄙へんぴな場所に人が、奈央に緊張が走る。


「す、すみません薫さん令さん、すぐ戻ります!」


 奈央は言い終えすぐ加速し、侵入者の方へ加速した。二人が少し驚いた顔をしていたような気がした。

 この魔法を使っていることを奈央は香と令に話していない。


(数は一人……)


 何者かあくまでも様子見、もしこちらに害があるのなら追い出してしまおう、奈央はそう考えていた。

 間もなく侵入者の近くに到着し、木の裏に身を隠す。


(いったいなにもの……!?)


 奈央は魔法を使い夜目を夕方の明るさ程度に見えるように調整する。月の光が少し眩しくなった。そしておそるおそる、侵入者の正体を確かめる。


「え……?」


 思わず口が開いてしまった。山賊のような大柄な男でもなく盗賊のような少し背が曲がった男でもない。

 女性だった。少し幼さがあり奈央と同じくらいの身長と容姿、髪は銀髪のショート。そして服、というにはあまりにも心もとなく大きな布に頭を通しているだけような恰好だった。

 魔法の効果もあり、彼女は月明かりに強く照らされている。服装のせいか少し身体のラインが浮き彫りになっていた。

 思わず奈央は見とれてしまった。思っていたものと違かったから、彼女が綺麗に見えたから。

 女性は立ち止まった。奈央は我に帰りすぐ木に隠れる。ばれたか思ったがどうやら違うらしい。

 彼女をもう一度よく確認すると身体がフラフラと揺れていた。目は、焦点が合っていないような気がした。次の瞬間彼女はその場に崩れ落ちるように倒れた。


(……!?)


 奈央は最大限気配を消し、彼女にもとに駆け寄った。おそるおそる彼女に触れる。熱かった。そして彼女の身体は震えていた。息遣いが荒かった。


(マズいな……!)


 奈央はすぐに彼女を腰に乗せ、急いでテントに戻った。



鴨鍋ねぎま:うぉぉ!銀髪の少女が!何としても助けてあげて奈央ちゃん!

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