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15,元高校球児は看病されます

注;これはあくまでフィクションです。

 幼稚園に行くのだと、最初親二人から言われたとき奈央はとても不安だった。

 田んぼが目立つこの地域にも保育園・幼稚園はあるらしく、父は同業者から勧められたと、大きくなったとき聞かされた。

 自分と同じくらいの子と一緒に過ごす、兄弟のいない奈央にはどのように接したらいいか分からなかった。入園式、体育館から華やかなBGMと共に、先ほど会った優しそうなお姉さんから言われた通り中に進む。隣には親たちが言った通り自分と同じくらいの子がいる。右隣の子は周囲を見渡しながらソワソワしている。左隣の子は自分と目があってしまいモジモジしていた。BGMが止み、会場は静まり返る。そして再びBGMと同じところから人の声が聞こえてきた。

 人がたくさんいた。紅白の弾幕が辺りを覆っている光景がある。広々とした建物だ。ひとつひとつが驚きの連続で、式は一瞬で終わってしまった。

 教室、自分くらいが約20名とお姉さんとそしてたくさんの大人たちがひしめき合う、そして自己紹介が始まった。

 日立奈央4歳、これから色々な経験をする人生の旅が本格的に始まる。



(あれ?いつから寝てたっけ?)


 鳥のさえずりが聞こえてくる。木々がサラサラと揺れる音が聞こえてくる。

 奈央は少しずつ頭が覚醒し始め、瞼を明ける。自分が森の下で横になっていると気がつく。身体を起こそうと試みるが、鉛がついているのかと思うくらいに重かった。


「あら?!なおちゃん目が覚めた!?寝てて寝てて!」


 聞いたことのある少し独特な話し方をするその声は慌ただしく、奈央の方へ駆け寄る。

 奈央の起きようとした身体を支えるように、薫は手を差し伸べる。髪は横になりやすくするためだろういつの間にかストレートに降ろされていた。


「良かったわ……。起きなかったらどうしようって……」

「……じ、自分なんで寝ていたんでしたっけ?」


 奈央は思い出そうと頭を回転させる、しかし自分の体というのに全然言うことを聞いてくれない、凄くボーっとする。


(何してたんだっけ……?えっと……旅に出たんだ……それで……えと……そうだ、令さんが作ったご飯とシチューを食べたんだ。めっちゃ美味しかった……それで……それで……どうしたんだっけ……?)


 大事なところの記憶がないような、曖昧で、のどで引っかかっているような。しかし頭は回らず、視点も定まらなかった。フラフラする。お腹も痛かった。

 

「まだ辛そうよ?大丈夫だから目を通して横になって……なおちゃん、熱中症で倒れちゃったのよ……その感じだとあまり覚えてなさそうね」

「……じ、自分が熱中症?……そんな……」


 薫の言葉と共に奈央は横にされる。鳥のさえずりと木々のさえずりは止まずゆったりと聞こえる。

 言われて奈央は驚く、熱中症や夏風邪といったものとは程遠い生活を送ってきた。野球を続けてきた身体は頑丈さだけが取り柄で、高校まで皆勤賞をとり続けて羨ましいと言われてきた。

 思い出す。自分は身体が変わったことに。もうあの大きくて力をつけてきた頑丈に磨いたものはもうない。今の奈央は女性になり、小柄になり、体調の変化が激しくなっている。


「……て、てことは薫さんと令さんの迷惑を……」

「迷惑だなんて……なおちゃんの体調に気づかなくてこっちが申し訳ないくらいよ……つかさちゃんなんてすごくへこんでいたわ」

「……そ、そんな……自分がしっかりしなかったから……令さんは今どこすか……?」

「つかさちゃんは今塩を作っているわ」

「し、塩ですか?」


 思わぬことを言われ奈央は目を見開く。薫は奈央の足元にあるブランケットを掛けなおしながら、


「そう、塩。私たちには塩が足りなかったの……ってつかさちゃんが分析していたのよね。言われて確かにって思ったわ。前は川で水組んでいたじゃない?」

「……そ、そうですね。川から水を飲んでたっすね」

「それでその時に一緒にミネラルも取っていたみたいなの。でも今回って自分で組んでいるじゃない?」

「……で、ですね。そっか水に……」

「そうなの。自分で作る水じゃミネラルが取れないの。前回とさらに違うのは、汗かくじゃない?それでさらに塩とミネラルが持っていかれるみたいなの。食事だけではどうしても補給しきれなかったみたいなの。もしものこと考えて味付けも薄めにしてたのもあってね……ワタシとつかさちゃんもその影響あったみたいでね、倒れることはなかったけど、知らず知らずのうちにみんな体調落としていたみたい。サバイバルって恐ろしいものね……」

「……そ、そうなんすね。確かに言われてみれば意識的にとっていなかったですね……どうやって塩作っているんすか?」

「ここに集まるモンスターたち、動物たちの生き血から取っているわ。それを水で薄めて太陽と乾かす魔法で薄めて結晶にするみたい。つかさちゃんは物知りよね、今も率先して動いているわ……動物たちには申し訳ないけど他に取れる方法はこの地域だと難しいみたいで、こっちもなりふり構っていられないからね」

「……!」


 奈央はあることを思い出し、重かった身体のことも忘れ上半身を勢い良く起こす。

 馬だ。自分が気を失ってしまった、その間馬はどうなってしまったのだろうと。前方を見渡す、木々が生い茂っているだけ動物の気配は感じられない。焦る気持ちが募る。次は左右を見渡そうと思った時、薫に肩を捕まれ止められる。


「もしかして馬を探しているの?馬たちなら後ろにいるわよ」


 そう言われ、薫に身体を支えられながら後ろに確認するために逸らす。向き直り確認すると少し離れた木々の下で足をおり目を閉じ休んでいる馬たちがそこにいた。奈央の乗っていた赤栗毛の馬もそこにしっかり休んでいる。

 こちらの雰囲気に気づいたのだろうか、赤栗毛の馬耳をぴくぴくと動かしながら目を覚ました。すぐに立ち上がりこちらに来たそうにしている。しかし手綱を木にかけ制限されており、その場で少し暴れるようになっている。

 薫は少し待っていてね、と立ち上がり赤栗毛の馬の手綱を解くため移動する。解けた瞬間勢い良く奈央のもとに駆け寄ろうとする。その反動で手綱を持っていた薫は漫画のように引っ張られ吹っ飛んだ。

 馬は奈央のもとに来るとすぐに鼻を鳴らしながら顔をスリスリする。鼻息と触れられた感触がくすぐたかったがそれよりも再会できた安堵の方が勝り、撫で返す。

 吹っ飛ばされた薫は身体中草まみれにしながら奈央のもとに帰宅し、


「とんでもない目にあったわ!それよりもタイミング的にびっくりしたのよね、大丈夫よ、馬たちには手を出さないわ、ワタシだって嫌だもの」

「す、すみません!その前に言ってた名前を付けない理由を思い出してしまって……」

「馬たちは本当に、本当に最後の手段になったときよ。3人ボロボロでどうしても生き繋げないといけないと思った時、今回はまだその時じゃないわ」


 薫は真剣な眼差しで言い切ると、自分の今の姿を思い出し草を払いはじめる。

 薫が吹っ飛んだ衝撃音で何事かと思った令が、目を見開きながら急いで戻ってきた。


「大丈夫ですか!?何の音ですか?!」

「つかさちゃんごめんね、なんでもないわよ。ワタシが吹っ飛ばされただけよ」

「どうして?!……あ!奈央さん起きられたのですね!良かったです!」


 令は嬉しそうに奈央のもとにより、視線を合わせるために膝を曲げる。


「顔色は……まだ少し良くなそうですね、大きな声だしてすみません。ゆっくり休んでください」

「い、いえ大丈夫っすよ!」

「人がいっぱいしても窮屈になっちゃうわね、そしたらワタシはまたやってくるわ」

「分かりました。すみません……お願いします」


 薫は身支度を整え、森の中へ消えていった。奈央はそれを見届けたあと令に視線を戻し、


「ご、ご迷惑をかけて申し訳ありません……」

「こちらこそ気遣い及ばずで……」

「そ、その、薫さんは何をしに行ったすか?」

「一言で言えば狩りですね」

「あ、そ、そっか……理由は薫さんから聞いてます……自分も何かできることはないっすか……?」

「奈央さんは今はしっかり休息を取ることです」


 真剣な目つきの令に、奈央は目尻を下げる。鳥のさえずりはいつの間にか止み、木々の揺れる音だけが響く。

 すぐに令は表情を崩し、


「私たちは体力があるから活動しているまでです……奈央さんは女性とお付き合いしたことはありますか?」

「え?」


 想定外のことを令から訊かれ、奈央は瞬きを繰り返し、恥ずかしながら、


「じ、実は……その……あるっす……」

「やっぱりそうなんですね」


 令は嘲笑うわけでもなく、穏やかな表情で


「奈央さんの佇まい、雰囲気ですか?優しくて素敵だと思っていました。どれぐらい交際されていましたか?」

「こ、交際!……えっと、だいたい4年ちょっとぐらい……です」

「凄いです!というかお一人とだけですか!こういうと失礼ですが学生でスポーツマンと聞いていましたのでてっきり何人かと……」

「い、いえいえ!自分はそんなチャラいことはできないっす!その……彼女からアタックされて……」


 奈央はあの頃を少し思い出す。皆がいう青春、あれが謳歌だったのだろう。確かに甘酸っぱくて暖かくて生き生きとしていたあの時が。

 令は目を輝かせるように、


「素敵です!そうだったのですね、きっといい彼女さんだったのでしょう?……すみません、はしゃいでしまって……私は恋バナというかそういうのに全然縁がなくて……今は男性だというのに……」

「い、いえいえ!というか自分も同じ感じです、野球一筋でしたから。彼女は……良い人でした」

「話を戻しますが奈央さん、今奈央さんは女性です、女の子なのです。もし煩わしかったら申し訳ありませんが彼女のことを思い出していただいて……フラフラで顔色の悪い彼女さんが働こうとしたら奈央さんはどうしますか?」

「……と、止めますね。しっかり休んで欲しいと思います……」

「私たち、薫さんもそういう思いなのです。そして私たちは男性だからこういう時こそしっかりフォローしたいと思うのです。奈央さんも転生前だったらどうですか?」

「そ、そうですね。看病とかしてあげたいっす」

「つまりそういうことです。もちろん今の奈央さんの気持ちは分かりますけどね。私と薫さんにカッコつけさせてください」

「わ、わかりました……」


 諭されてしまったなと、奈央は思った。しかし終始穏やかに話す令をこれ以上困らせるのは良くないと感じここは従うことにした。ずっと隣にいた赤栗毛の馬もきっと令と同じ気持ちなのだろう、令が話している間も側で奈央を優しく撫でるように鼻先をスリスリしていた。


(本当に久しぶりだな……こうして周りに気を遣ってもらうの……今度は……)


 思いに耽ろうとした奈央に、令は思い出したように呟く。


「いいなー恋……薫さんに報告したらキィー!って羨ましがるでしょうね……」

「ふ、二人は付き合いとかってなかったんすか?」

「薫さんはないってこの前自虐するように嘆いていましたね。自分で言うのもおかしいですが、箱入り娘でしたので……男女共学が羨ましいくらいです」

「そ、そういえば令さんはそんなこと言ってたっすね」

「そうです、お付き合い……交際してみてたかった、そういう気持ちがないといえば嘘になりますがそれよりももっと色々な男性とお話したかったですね」


 令の目が真っ直ぐなことに奈央は気づく。この手の話を同級生とする時は男女問わず、あわよくば、よこしまな考えがあり目を逸らしながら話してくる。しかし令は違う、本当にそのような境遇で男と関わりがほとんど無かったと純粋な表情から分かった。

 そんな令は、奈央に顔を寄せるように、


「せっかくの機会だからもっと色々お聞きしたいです!奈央さんはどんな男性だったか詳しく教えてください!」

「え、え!?……自分ですか……前も言ったように自分は野球をやっていて、周りより体は大きかったっす。それで……体の大きさもあるとは思うのですが結構学校でも目立ちまして、良くも悪くも注目を浴びてような……そんな感じ……っす」


 奈央は自信なく、ただ令の気持ちには応えたいと思い、少しずつ答える。


「野球!言っておりましたね!全国大会にも出ていらしたのですよね」

「は、はい。中学の頃は。シニアのチームなので周りも強くて……言ってしまえば行けて当たり前というか……」

「それでもしっかり駒を進められたのは凄いことですよ。高校はどうだったのですか?えっと……たしか甲子園……でしたっけ?そちらには行かれたのですか?」

「い。いえ!甲子園は行きたかったんすけどね……その……負けちゃって……」


 奈央はあの時を思い出す。今も胸がズキズキと響いてくる。鼓動が早くなる。

 過ぎたこと、そして変な表情をすればさらに令は心配するだろう。今は病み上がり、まだ明るい顔色に戻っていないこともあり令には気づかれなかった。


「そうだったのですね。悔しかったですよね、聞いてしまい申し訳ありません」


 令の何気ない言葉、令に限らず他の人もきっと最初はこういうテンプレな回答が返ってくる。

 負けた、といったからだ。内容は言っていない。それなのにあの日ことを鮮明に。

 奈央はこれ以上はマズいと思い、作り笑顔を承知で話題を逸らすように、


「つ、令さんは学校生活はどうでしたか?!自分は体育祭とかで活躍とかできて嬉しかったっす。体育祭とか文化祭とかって、それこそ女子校っていうのが自分わからなくて……」

「体育祭……私は運動神経はあるわけではなかったですがクラスメイトに駆り出されるように一緒に参加しましたね。成績は1位ではありませんでしたがまずまずです。文化祭はほとんど父兄の方のみの来客ですね。一般の方は基本入れませんでしたね。父兄といってもそれこそ奈央さんがおっしゃったように女子校なので、やはり独特の雰囲気があるのでしょうか、男性の方はあまりいませんでした……」

「そ、そうだったんすね。一般公開はその……しょうがないというか、同い年の男なんて絶対がめついて行きますから、きっと令さん困りますよ。自分もたまに引くときあるくらいだったんで」

「やはりそのようになるのですか?体験したことがないのは……良いことなのかもしれませんが実感がなくて……」

「じ、自分はその……彼女はいたし野球ばっかしていたのでそんなこと無かったんすけど、同級生は女子校に、とつりてーとか、のぞきてーとか、こくられてーとか結構言ってましたよ。自分の高校からはめちゃくちゃ距離あるのに」

「うーん……やはりそういう感じなのですか……?」

「ま、魔法か何かで直接見せられたらいいんすけどね!出店とかはやらなかったんすか?お化け屋敷とか」

「私のところはレポートの展示や、授業の成果の発表といったものが大半で。そういうお店、やってみたかったです」


 令はこの手の話になってから、目をキラキラさせてみたり、羨むように少し顔をすぼめてみたり、普段のしっかり者のイメージとは一転、あどけなさがあり奈央は可愛いと思った。


「お話に付き合ってもらい申し訳ありません。体調大丈夫ですか?」

「い、いえ!大丈夫っすよ!寝疲れたのもあって……お話助かります」


 奈央は身体が少し凝り固まっていた。令と話しながらゆっくりとストレッチをする。


「だいぶ眠っていらっしゃいましたからね、ストレッチ手伝いますか?」

「だ、大丈夫っす!その……触れられると恥ずかしいというか……」

「すみません!ついつい!私が今男性ということを失念しておりました……」

「い、いえ!そうではなくて!その……自分が女性だとより感じやすくなるというか……まだ慣れてなくて……」


 奈央はストレッチのことも忘れ、髪をいじりながらうつむく。髪をいじるのはすっかり癖になっていた。


「なるほど。確かにまだ怖いですよね。私は鏡で自分の姿を見る分には慣れましたが、男性になりどう接したらいいのか、距離感がどうにも……今みたいなところも……」

「つ、令さんはそのままで大丈夫っすよ!てか凄いっすね、自分の姿を見れるなんて、自分なんて恥ずかしくて……慣れないといけないと分かっているんすけど……」

「恥ずかしい、ですか?確かに姿は変わってしまいましたが自分は自分なので。恥ずかしいというのは私は無かったですね。身体の作りがだいぶ変わりましたなーと」

「す、凄いです……!その……あの……裸とかって……見ました?」

「はい、見ました」

「み、見たんですか!?」

「性器が変わったなーと。特に驚きはしませんでした」


 奈央は顔を、耳まで真っ赤にしているのに対し、令は冷静に真面目に顔色変えずに話す。それがかえって奈央をより羞恥に駆られる。

 あわあわ震えている奈央に対し令は、


「そんな恥ずかしいことですか?授業で習っていたので、確かに他人の裸体を見れば話は変わると思いますけどね。そういえば薫さんもまだ裸が見られないとおっしゃっていましたね……」

「あ……その……や、やっぱり性別が変わったから……その……普段あったものがあって……普段なかったものがついて……」

「……確かに気になりますよね……それこそマスターベ……」

「わぁー!わぁー!」


 奈央は令の言葉を遮るように両腕全体を前に振りながら叫ぶ。

 令は現状を受け入れたのだろう。しかし興味あるものはある。羞恥よりも探求心が勝っているのだろう。奈央はそれが羨ましくあると同時に、自分の羞恥と令の道徳心を尊重するために止める。

 ただ令は不思議そうに奈央を見つめている。おそらく奈央が男性だったから気兼ねなく話せるのだろう。しかし奈央としては自分の今の姿のことよりも、令が女性だったことを考え、止めた方がいいと思っていた。


「はぁ、はぁ、令さん……!凄いっすね……!」

「そうですか?でもあまりこういう事は口走らない方がいいですよね、申し訳ありません」

「い、いえ……確かに不思議な事は……分からないでもないので……そうだ!聞かなきゃと思ってすっかり忘れてたっす!この森って?こんな立派な森が近くにあったんですか?」


 奈央は気になっていた、自分たちが向かっている地域はどんどん砂漠化しつつある所まできていた。背丈の高い草原もなかったような場所に森なんてあったのだろうかと。もしかして暑さが緩い地域にまで戻ってきてしまったのかと。


(もし後者なら本当に申し訳ないです……)


 奈央の眉間が少し寄ったことに気づいた令は穏やかに、


「この森は私が作りました。無魔法の成長促進を応用し試してみたのですが、想像以上に上手くいきました」

「こ、これ令さんが作ったんすか?!」


 太陽を遮る木々、見通しても元いた場所とは思えない一面の緑、これを令ひとりでやってしまったと言う。


「そうです。地面の砂に栄養がいきわたるイメージで、そして木がたくさん生えるように。水も確保したかったので小さな池も作るように……少し体力を使いましたがこうして私たちが休める場所が作れましたので、魔法さまさまですね」

「す、少し体力って……本当に令さんの体大丈夫なんすか?」

「はい、しっかり休憩もできたので心配するような、昏睡するようなくらい疲労は出ませんでした」

「そ、そうなんすね……凄いっす……」

「魔法強化しましたからね。奈央さんもトンギビスタ村のときよりも強化されているはずですよね?」

「い、いちおうは……」


 奈央は歯切れ悪く答える。令の言う通り確かに魔力量、呪文の様々な使い方はトンギビスタ村の時に比べれば、先日の特訓の成果もありだいぶ進歩した。

 しかし大技の魔法が使えない。それに令のようにこんなにも大きな魔法を使えるとは奈央自身思えなかった。


(やっぱり令さんは凄いな……薫さんもきっと今回何かしらで魔法使ったと思うし……自分は、情けないな……)


 俯いた奈央に令は


「疲れてきましたか?長く話してしまいましたからね。横になって休んでください」

「そ、そうするっす」

「本当良かったです、無事で。口調も少しですが戻ってきていますし」


 令に言われて奈央は少し狼狽する。自分の口癖までは気づかなかった。

 令は奈央の膝にあるブランケットを優しく直し、首までかける。そして馬をもとの場所に帰すべく立ち上がり後にした。

 奈央は少し乱れていた髪を直し、目を閉じる。


(体調が戻ったら二人にしっかり礼を言わないとな。これ以上足を引っ張るわけにいかない)


 揺れる木々の音が奈央の耳を心地よく撫で、すぐに眠ることができた。

鴨鍋ねぎま:今回は奈央ちゃんが二人から励まされる回でございます!こういうのなんかいいよね!実際身体が変わってしまったら気温の体調管理めっちゃ大変そうですよね。住んでいる気候にもよりますが、私は南国に行ったら溶けちゃいます!

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