表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/95

14,元高校球児ごちそうな昼食と夏バテ?

注;これはあくまでフィクションです。

 父は野球が好きだった。幼い頃からやっていたらしく甲子園を目指し青春を謳歌していたようだ。ポジションは外野・ライトの守備でギリギリスタメンに入れたくらいの実力だ。といっても学校の実力は1回戦を突破出来れば十分な程度。それでもひたむきに頑張り、楽しかったのだと何回も聞かされた。

 母はスポーツにはあまり興味がなかったようだ。学生時代は文化部一筋で手芸、美術、軽音、様々な部活を体験したらしい。奈央を生んでからは編み物や家の中で出来る趣味が多く、出かける時は端から眺めていた。元気に動く一人息子を大切に見ていた。少しずつ悪くなっている腰を労わりながら。

 物覚えが付き始めた時ぐらいだろうか、父から野球ボールを渡された。今となっては小さく感じる球体だが、当時7cmくらいあった球はとても大きかった。


「それをパパに投げてご覧」


 父に言われるまま、わけが分からず両手で下からすくい上げるように放った。飛距離は全くなく父の手前でポスポスと落ちる。しかし父は喜んだ。母は笑顔だった。

 それは今でもなんとなく覚えている。



 王都を出発してから3日経った。今日も目的地にいくために馬と共に奈央たちは焦らず確実に移動していた。トンギビスタ村とは反対方向、風景もどことなく違い、背の高い草原はあまりなく木々はまばらで森と呼べる場所は見渡す限り無かった。そしてところどころに砂地があった。これから向かうクルギアスラ村に向かっていくにつれ少しずつ草木がなくなっていくのだと思うと、奈央は少し寂しかった。

 見晴らしがよいゆえに風は吹く。しかし季節は真夏、生温い風が奈央の頬を通り過ぎる。


(暑いな……)


 日差しも強い、令に言われ布地を日傘代わりに羽織っている。髪の間から汗が滴る。前いた日本に比べ幾分か涼しいものの、夏の日陰なく照りつける太陽を何時間もあたっているのは流石に堪えた。

 奈央はおもむろに背中に背負っているバックの取りやすい所から、木で作られた水筒を取り出し身体を潤す。しかし保温性に欠けている水筒なので体温と変わらない水温、身体には優しいが冷たい水が恋しかった。

 奈央が乗っている赤栗毛の馬も汗をかいていた。ただ何も訴えず黙々と足を運んでいる。奈央は少しでも楽にと思い、扇風機をイメージして風魔法を馬に届ける。気休めにしかならないことは奈央自身分かっているが、あるとないとでは違うことも学生時代経験している。強くなく弱くない、心地よい風を届けたいと思いながら魔法を送った。上に乗っているので今の馬の表情が分からないが少しでも和らいでいたらいいなと、奈央は願った。

 空を見る。日本にいた頃あった入道雲はなく、真っ青が一面に広がっている。


(これくらいの暑さ、へっちゃらだったんだけどな……やっぱり身体が変わったからだよね……)


 夏がこんなに億劫に感じたのは初めてだった。汗をかきながら動き続けるのは当たり前、同級生よりもスラスラ動けたのは奈央だけの心の自慢になりそうだ。あまりに気にせず動き続け、汗臭すぎ、と言われたこともあったなと思い出す。

 そしてなんとなくだが今は日にあたりたくないと思ってしまう。男の時は美容なんて簡単な漢字も分からなかったし、気にしたことがなかった。見た目は少し気にしたが綺麗になりたい、継続したいなんて思わなかった。

 しかし今の自分は気にしている。壊したくない、失いたくない、と。これがどの心理なのかまでは分からない。女性は美容を気にしているイメージだったから自分もしなければいけないと思ったのか、変わってしまったこの身体を大切にしなければとおもったのか、可愛い自分を維持しないといけないと思ったからなのか。

 最後の考えだけは、まさか、と奈央は思っている。ただ令に日傘の代わりを勧めら実践した時、安心している自分がいたことは分かった。

 昼食まではもう少し、馬に風を送りながら辺りを見渡す。どこまでも見えそうな草原と時々ある木々、そして牛や鹿、スライムなどの動物たちがいる。



 奈央の魔法で結界のように、虫よけスプレーのように、動物たちモンスターたちを寄せ付けないようにしてある。道草を戦闘で食ってしまえば全然先に進めなくなってしまうからだ。それに奈央たちのモットー、無駄な殺生はしない。この世界も相手がいる戦闘を行えば経験値、主に技の練度が上がりやすい。

 やはり相手がいる、全力で気兼ねなくできる戦闘は魔法のイメージ力が洗練されやすい。ゲームのように死体が消滅するならまだ良かったかもしれないが、この世界は残る。こういうリアルさがあるところにゲームではないのだと奈央は痛感させられる。

 動物やモンスターの見た目はゲームで見たことあるような姿、形が大半だ。動物は哺乳類や鳥類、爬虫類など前いた世界の存在した種族は一通り存在するようだ。モンスターはスライムやゴーレム、それに植物のような見た目で動くものも存在する。人間に似た姿、獣人やサキュバスなどの話は王都では聞いたことがない。この世界に存在するかは不明だがモンスターもいて、オークのような種族が存在していたので、会ってみたい、と奈央は期待している。



 奈央の視界に牛がいた。木の下で休もうとしているみたいだが身体が大きく全部が日陰で隠れきっていなかった。しかし牛は動こうとする気配を全く感じられない。目を閉じ眉間が若干寄っていて少し苦しそうだった。

 次に目に留まったのは鹿2頭、こちらも木陰で休もうとしている。2頭ではギリギリらしくもっと影に入りたいと一方がぐいぐいと中による。そうするともう一方の身体にあたる。するとあたった鹿は嫌そうにどかした。密着するのが嫌だったのだろう。中に入ろうとした鹿は困り果てていた。ただその場から移動する気はないように感じる。移動する気力すら無さそうだった。

 今度は干からびている植物がいた。ラフレシアのように大きく派手に花のように咲いていた。何色で咲いていたのか模様はあったのかもうわからない、すでに色は失われていた。しかしわずかにピクッピクッと動いていた、まじまじとみると茎の手足のようなものがあった。モンスターだった。

 助けたいと奈央は思った。ただここで助けてしまえば他の動物を、モンスターを助けなければならない。薫、令も気持ちは同じらしく、振り返り馬の足を一瞬緩めたがすぐに戻り道を進む。

 奈央は空を見上げて右手を太陽にかざす。


(やっぱり夏は嫌いだな……)



 昼食休憩、あたりに林・森は存在しないので奈央の出番。イメージし大きいテントのように簡易ビニールハウスのように、奈央たちを覆う。真夏の太陽の光を抑え、外気はほぼ遮断。そして薫と令が冷風で中を満たしはじめる。途中馬にも風をあて移動の足をねぎらう。馬たちは心地よさそうだった。ほどなくして昼食用簡易魔法キャンプテントが完成した。

 令は食事を作る準備を始める。今日はしっかりしたご飯を食べたいと令がはりきっている。薫はそれを手伝うようだった。奈央はご飯を炊いたこともないので、馬たちと一緒にその光景を眺める。

 馬たちは疲れを気にせず奈央にすり寄る。先ほどまでは暑さからか少し気怠そうにしていたが、魔法のテントを作ってからすぐに元気を取り戻した。奈央も同じだった。


(馬も動物もモンスターも、そして自分もみんな夏は大変なんだな……)


 ゲームの世界では夏バテなんて概念はほとんど存在しない。あってもダメージで表示される。この世界はほとんどが前の現実世界と同じ、疲労感と倦怠感が存在する。きっと今の自身のステータス、疲労度の数値はそこそこになっているのだろうと奈央は苦笑する。

 そうこう思っているうちにいい匂いがしてきた。懐かしく嗅いだその正体はご飯だった。炊き上がるご飯を食べられるなんていつぶりだろうか。


「やっぱりなおちゃん気づいた?久しぶりよねーご飯。といっても麦ごはんなんだけどね、この世界にお米はないから」

「め、めっちゃ美味しそうです……!」


 薫は手伝いが一通り終わったらしく奈央の方に戻ってきた。


「それとシチューもあるわよ!夏に涼しい場所で食べられる鍋物ってなんだか背徳的ッ!つかさちゃんはカレーにしたかったみたいだけどねー」

「シ、シチューをこっちでも食べれるなんてめっちゃ嬉しいっす!」


 奈央は早く昼食が待ち遠しくなった。



 こっちの世界にきてから簡素的な食事がほとんど、王都で作っている作物は小麦がほとんど、野菜・果物は高級品であり王族に関わりあるものしかすぐに入手できない。

 とにかく人口を増やし国土を増やすことが優先らしい。そのため作物関連の政策は杜撰ずさんだった。最低限食べていけるように、比較的簡単に作れお腹が膨れやすいもの、小麦だけで大半それ以上を賄っている。畜産は牛しかおらず、こちらも王都に住む人たち全てを賄いきれない。頭数は増やし、馬も増え牧畜面積も増やす予定らしいが、同様に人口も増え続けるため解決する見込みは当分なさそうだった。

 旅のご飯も大変だった。味のしないレーション、パンでほとんど腹を膨らせ、たまに動物を狩りお肉でエネルギーを蓄える。もちろん感謝することは忘れない。トンギビスタ村で滞在したときのご飯は格別だった。

 奈央は歴史で習ってきた人たちはこのように大変な生活をしていたのだなと、少し実感する。といっても幾分優遇されていることも分かっており、それがもどかしさとなることもある。特に歴史で聞いた飢饉ききん、王都もある程度作物を貯蔵しているとはいえ発生する可能性は十分あるだろう。気候が安定しているところに王都はあるが、自然災害は起こるかもしれない。前いた世界とほとんど似た環境だ、そんな時魔法で防ぎきれるのだろうか。



「なおちゃん!なおちゃん!できたわよー!」

「……は、はいっす!」


 奈央は呼ばれていることに気づき返事をする。ぼっーとしている間に昼食が完成したようだ。馬たちには人肌に温めたミルクを、奈央たちは麦ご飯とシチューだ。ご飯の甘いでんぷんの香り、シチューの暖かい香ばしい匂いがする。


「い、いただきます!」


 奈央はすぐにご飯から口に運ぶ。


「あら!相当待っていたみたいね!ワタシたちも食べましょう、いただきます」

「そうですね、いただきます」


 薫と令は奈央に微笑みながら、箸をもつ。

 箸、シチューをよそった木製のお椀は全て令の手作りだ。


「ご、ご飯、めっちゃ美味しいっす!!」


 二人から微笑みの眼差しが向けられたことに気づかずに、奈央は勢いよくぱぁっと顔を上げる。

 白米、正確には麦ご飯だが久しぶりに食べる。ずっと味の素朴なパンが主食だった。炊き立てゆえの特有の甘味と食感、懐かしさのバフもあって最高に美味しかった。

 続いてシチュー。中身は牛のお肉、ジャガイモ、貴重な人参を少々、山菜とアクセントとして食パンが入っていた。具材の旨味が溶け合い、食感も奈央好みに調理されており、たまらない一品。口に入れた瞬間から美味しいと脳が訴えた。


(はじめてこんな美味しい料理食べたかも!おかわりしたい!)


 しかし今は旅の途中、それに今は奈央だけじゃなく薫と令、平等であった方がいいと思う。だんだん高まった気持ちを落ち着かせていくうちに、今自分が女性になったことを思い出し、そもそもそんなに入るのか、この世界にきてから満腹になるまで食べたことがないので自分のキャパが分からなかった。

 そして本当になんとなく、なんとなく奈央は思った。今の体型は維持したいと。しっかりした理由は分からない、もやもやしたような気持ち。確かに前の世界ではもう少し背が小さければと思ったときもある。ただそれだけでなくなんとなく脳裏をかすめる、なんとなくだが、可愛くありたい、美しくありたい、と。


(自分の中にそんな気持ちがあったのか?野球しか考えなかったのに!)


 そんなに自分に困惑しながらシチューを見つめる奈央に令は、


「もしかしてお口に合いませんでしたか?」

「い、いえとんでもないないっす!めっちゃ美味しいっす!その……おかわり……したいすけど……」

「ありがとうございます。おかわりですか?大丈夫ですよ数日持つように保存しているものもありますからそこから……」

「あ!いえいえ!おかわりしたいくらい美味しいってことっす!いや……おかわりしたんすけど……その……」


 歯切れの悪い奈央に令は首をかしげる。薫はそれを聞き奈央を見つめ少しずつ口角を上げながら、


「そっか、なおちゃん体型を気にしているのね!分かるわ!……って今は男だからこのままじゃただのセクハラ!違うの!元女として分かるわって意味よ!」

「だ、大丈夫っすよ!分かってるっす!」

「そういうことなのですね。確かに奈央さんくらいの身体の大きさですと、新陣代謝によりますが食べ過ぎないのが堅実ですね。薫さんに言われてすっかり忘れていました、申し訳ありません」

「い、いえいえ!大丈夫っすよ!でもやっぱり食べ過ぎはダメなんすね……」

「そうねぇ。食べたものよるけど……何度かやけ食いしたことあったけど、そん時は4・5キロ一気に増えたわねぇ……」

「そ、そんなにすか!前の身体だったら嬉しいところなんすけどね」

「確かにスポーツマンは体重大事よね!そのとき分けたかったわ!……つかさちゃんはどうだった?」

「私ですか?確かにもう少し食べたいなーと思うことはありましたが、生まれた時から食事はしっかり管理されて、自身でも気を付けるように心掛けていました」

「流石ね……!そうか最初から徹底してればもっと食べたいなー思うことも少ないわけね……そうするとむしろ気にせず食べていたなおちゃんは辛くない?」

「た、食べたい気持ちはあるんすけど……でもやっぱり気を付けた方がいいような気持ちもあって……」

「ですが今気づいたのですよね?少なからず意識があるのなら大丈夫だと思いますよ。後は何か維持するための目標がありましたら、より継続しやすいと思います」

「な、なるほど!目標すか……」


 前の世界では食って食って体重を増やす作業、運動前には炭水化物、両手で収まりきらないくらいのおにぎりを食べ、運動後には肉、肉、肉。たまに魚も取った方がいいと父から言われたことはあったが効率よくお腹を満たしてくれるのはやっぱりお肉だった。

 そんなこれから行わなければならないことと正反対な食生活をしてきた奈央はどうしようか、悩んだ。

 奈央が頭を回転させている中、薫と令は話を続けている。


「食事制限、薫さんに言われるまでどうして忘れていたんだろ?奈央さんに失礼をしてしまいました……」

「しょうがないわよ、身体変わってもうすぐ半年経ってしまうのよ。そう思うとこっちに来てだいぶ経ったわねー」

「そうですね。そっか……男性に変わったから、これほどまでに食に五月蠅うるさくなってしまったのでしょうか?」

「分かるわよー。だって王都の食事じゃ満足できないもんね。どっちかと言えば日本の食文化が良すぎたからじゃない?」

「そうですね、前にも言ったのですが素朴なパンだけというのがどうしても慣れなくて……」

「どうせ食べるなら美味しい方がいいからね。ご飯とシチューどちらも最高よ?」

「ありがとうございます。頑張りましたから。シチューのクリームをルーにするのが大変でして……」

「凄いわよ本当。材料も限りある中ででしょう?ワタシが手伝いしかできなくて申し訳ないくらいだわ」

「いえいえ無茶言ってやらせていただいているので、今回は試作だったのですが無事成功して何よりです」

「魔法が便利に働いたわね~。食材の冷凍保存を自分たちで簡単に出来る!しかも調整次第でぜんっぜん溶けない!最高だわ!」

「こちらの世界では氷雪製造関係で儲けることは難しそうですね」

「といっても全員が魔法使えるわけではないからね。そもそも食材凍らせたのこの世界だとはじめてらしいわね?」

「そうらしいですね、王に報告したら驚いていましたから」

「こうして少しでも生活がみんな豊かになればいいのだけどねー」


 真夏の真昼、昼食の談話はこの後もしばらく続いた。

 奈央が昼食を食べ終わっても二人はまだまだ話し続け、満腹感が眠気を誘いその場で横になった。馬たちも心地よい室温にゆったり横になり休んでいた。



 昼食休みが終わり、旅の続きに戻る片付けをする。奈央は薫たちから揺すられ覚醒した。あまりに心地よく寝てしまったため口元にはよだれの跡があり、二人に微笑ましい表情で見られ、奈央は顔から火が出そうなほど恥ずかしくなった。

 魔法テントを片付ける。ただそのまま解除してしまうと一気に熱波に襲われてしまうので、風船に穴をあけるように少しずつ気温を外と統一にしていく。

 馬たちは上がっていく気温に気づき、立ち上がる。あくびや身震いし準備していた。

 薫と令は食器などを片付けている。水魔法で洗い、火魔法で乾燥させる。実に便利だ。

 奈央はある程度身支度を整え、馬に乗ろうとしたとき、


「水筒にお水入れましたか?」


 同じく身支度を終えた令に声をかけられた。奈央ははっと思い出し、


「あ!忘れてたっす!あ、ありがとうございます!」


 大きなリュック、取りやすいポケットに入れといた水筒を取り出す。水魔法をイメージし入れていく。氷になるギリギリに冷たい水温に調整する。しかしこれでも飲むときはぬるくなってしまう。ただ氷を入れると面積が下がってしまうことを思いだした奈央は、少しでもたくさん飲みたいと思いこのように給水することにした。

 薫も身支度を終え、奈央たちの元へやってくる。


「あら!水筒ね!ワタシは忘れて……ないわね!大丈夫だわ!」


 薫は水筒を手に取り中身を入れたかチェックする。


「魔法のおかげで水問題に困らなくていいけど……その……自分で生成したのを飲むってなんだか複雑よね……洗いものとかは気にしないけど……」

「そうですね。やっぱり川から取れる水がいいですよね」


 今回旅するクルギアスラ村の方向には川が非常に少ないとのこと。トンギビスタ村の時は簡単に川が見つかったので水を組んでしっかり魔法で浄水に変えてから飲んでいた。

 薫はため息つきながら、少し恥ずかしそうに、


「こればっかりはしょうがないわね……だからといってつかさちゃんなおちゃんから貰うのは……ね?」

「そ、それは……なんか……恥ずかしいっす」

「直接飲むも気が引けるので水筒を準備したわけですからね」


 奈央は水筒にしっかり水が入ったことを確認し、馬に乗った。



 今日も馬に揺られながら移動する。

 昨日作って貰ったシチューをまた食べたい、奈央はそんなことをふわふわする頭で考えていた。今日の奈央の調子はあまりよくなった。万全な体調に整えていたつもりだったが定期的に訪れる腹痛の存在を忘れていた。慣れない痛み、照り続ける太陽、蒸し返す暑さ、水はたくさん飲んでいるはずなのに頭は回らなくなっていく。

 奈央の馬が立ち止まり、ゆさゆさと身体を振る。動物は人間よりもこういうところは敏感、奈央のことを心配していた。しかし奈央の頭はそれすらも理解できない程に茹でられていた。

 異変に気づいた令が後ろを振り返り、馬を伝ってすぐに駆け寄る。


『薫さん!大変です!奈央さんが熱中症かもしれません!』

『なんですって!』


 テレパシーで令は薫に伝える。馬がいるため、それにこちらの方が確実に伝言できるためだ。薫もすぐに反転して奈央のもとへ駆ける。

 二人はすぐに奈央を馬から降ろし、テントを設営しながら影を作ったところに横にさせる。申し訳ないと思いながら、締め付けのきついところから服を緩められていく。令が魔法で少しだけ高めに作った水枕を奈央の頭にのせる。薫は熱中症に効くか分からないが回復魔法を奈央にかける。

 3頭の馬は心配そうにその周りをそわそわとせわしなく動いている。


(……あれ?今何していたんだっけ?とりあえず眠いから寝ていいのかな?)


 奈央はそのまましばらく眠った。

鴨鍋ねぎま:奈央ちゃんー!大丈夫かー!めちゃくちゃ心配です・・・。奈央ちゃんの詳しい容態は次回をチェックだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ