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13,元高校球児スランプ発生と新たな出会い

注;これはあくまでフィクションです。

 「お前が生まれた時3000超え、4000に届きそうなくらい大きかったんだぞ!」


 この数字は奈央が生まれた時の体重だ。田舎の辺境、町や市などと国の決まりではそうなっている場所だが、村と呼んだ方がお似合いな場所、そこで奈央は誕生した。

 父はいつも晩酌を楽しむ時、思い出したかのように毎回言っていた。唯一の息子、中々子宝に恵まれなかった二人にとってはよっぽど嬉しかったことだろう。母も父ほどしつこく言うことはなかったが、子守歌で寝かしつけるときなど母子二人きりの時はよく話された。

 父と母は周りよりも老いていた。奈央が生まれた時父は40歳、母は36歳、高齢出産だったのだと後々分かったが、小学低学年までは疑問に思っていた。

 二人は都会で出会った。父は都会でサラリーマンとして営業に奔走していた。結婚、そんなことは当時頭の片隅にもなかったらしい。しかし営業回りで新しく追加され、その時に休憩する際に訪れた喫茶店で母と出会った。一目惚れだったと、これも何回も聞かされたことだ。父は喫茶店の常連になり、少しずつ少しずつ距離を縮め仲を深めていき、デートに幾度も誘ったと。父のしつこいくらいのアピールに母も徐々に心を許していき、交際し結婚した。

 都会には飽きた。何よりこれから生まれてくる我が子には伸び伸び暮らして欲しい。そういう思いから、この辺境に越してきたとのことだった。都会と田舎、それぞれに良さ悪さがあり慣れるまでは苦労したらしい。父は農家に転職し、周りと苦労はあったものの前職が営業職なのもあり、話術で徐々にわだかまりをなくし上手くやっている、と自慢げに話した。母は今時珍しい専業主婦、父の仕事が大変な時は手伝いに行っていた。そうして子供を育てていこうと。

 結果、10年かかった。産婦人科に財産の半分くらい費やした感覚、それぐらい苦労したらしい。途中幾度も諦めようか思ったこともあった、だが母が諦めきれなかった。子供が欲しい、本能からの訴えだった。里子も考えたが、自分の身体が持つ限り自身で腹を痛めて生みたいと。35歳を超え、少しずつタイムリミットは迫っている。お医者も半ば諦めの中、せめて37まではと、必死に努力した。普及し始めたネットを頼り、何回も少しでも可能性を高めるために色々な記事を泳いだ。父も仕事の傍らできる範囲で母をサポートした。

 母は今回もダメそうかな、そんな時気持ち悪いと身体が訴えた。洗面台で号泣した、体調よりも嬉しさが勝った。そして大切に、大切にあなたを産んだのだと、奈央を寝かしつけながら優しく話した。



 王都を北に出てすぐにある平原な森、そこで奈央たち三人は魔法の練習に励んでいた。

 ここは王都の人たちも狩猟で通り過ぎる可能性がある所のため奈央の黒魔法で隠密にしている。と言っても放った魔法の衝撃音までは消せないので、いざ知らずに接近されて驚かれないように周りを警戒しながらの訓練だ。

 レンヘムとの一戦、奈央はかなり手を抜いてしまったと後悔している。今だからそのように思っているが、自分の攻撃がどれぐらい相手に入ってしまうのか臆病になりすぎてしまった。もっと自分がレンヘムを止めていれば薫を疲弊させることは無かったし、オークの集落が崩壊することも無かったはずだ。反省会の時、薫は初実践だからとフォローしてくれたが、やはり自分の甘さが許せなかった。もっと上手くやらなければ、と。

 今日の訓練は専門魔法以外の大技の練習。令の提案で今後メタられ効かない相手が出ても不思議ではないと考え、対応できる呪文を増やしておこうとのことだった。

 奈央は火の大呪文、ファイヤーブラストを放てるようにと試行錯誤していた。奈央は苦労していた。火・水・風・雷の基本、初歩的な呪文はある程度覚えられ使えるのだがその先が続いてくれない。一通り試しそしてまた僅かな希望をとファイヤーブラストを再度練習している。ただ一向に放てるような感覚は自分の身体からは感じなかった。何かあった時すぐに助けられ対応できるようにと薫と令は見える位置にいる。薫は雷の大呪文サンダーフォール、令はウォーターカノン、本人は「みずてっぽう!」と言っていおり、二人とも大呪文を軽々しくこなしてみせていた。奈央は焦っていた。


(ステータスは二人と変わらないのにどうして!)


 奈央のステータス

魔力量:2800/2800

力:70

速さ:100

賢さ:90

器用さ:100

疲労度:0/100


 右側のスキル

・黒魔法精神力生命力消費無効化


 二人よりは若干劣るものの、ステータスは十分高い。そのため自分だけが出来ないわけないと、出来なかったらどうなってしまうのだろうと。



 お昼休み、夏の森は風が心地よく涼しく、木漏れ日が眠気を誘う。そんな中三人は令が作ったサンドイッチを頬張っていた。


「相変わらずつかさちゃんのサンドイッチは美味しいわ~!」

「ありがとうございます。奈央さんはお口に合いますか?」

「……は、はい!めっちゃ美味しいっす!」


 奈央は呼ばれたことに気づくことが遅れ、上ずった声で返事をした。


(……今はご飯を食べる時!考えるな!)


 奈央は垂れる横髪を耳にかけ、先ほどよりも気持ち大きくサンドイッチをかじる。

 奈央は先程までの魔法のことを考えていた。どうして出来なかったのか、なぜ出来なかったのか。しかし今は昼食、切り替えなければ二人に迷惑がかかると思った。ただ二人は察したのか、


「大丈夫?体調悪かったら気軽に言ってね?」

「だ、大丈夫っす!」

「人それぞれキャパが違いますし、奈央さんはもしかしたら黒魔法をどこまでも使いこなせるタイプかも知れないですね。今回の訓練は私が追い込まれた時のためなところもあるので、付き合わせてしまって申し訳ありません」

「そ、そんなことないっす!自分が使えないのがアレすから……」


 奈央は二人の気遣いに胸を締め付けらる。もちろん二人は奈央をそうしたかったつもりはないと分かっている。自分自身がそうしてしまっていると理解もしている。しかし二人が出来ることが自分には出来ないことが悔しい。


(置いていかれるのはもう嫌だ!)


 奈央は腹を括って二人に聞く。


「じ、自分はどうすれば大呪文が使えるようになるんすかね?」

「そうねぇ……て言っても説明してもねぇ……」

「そうですね、結局自分の中でコツを掴むしかないみたいですからね。パターン化されていればいいのでしょうけど、こういうところがこの世界不便ですよね……」

「そ、そうっすよね……」


 結局自分でするしかない、奈央は分かっていた。薫が言わなくてもこの世界の魔法は、ゲームと違って非常にあいまいで難しい。これだから出来る、これだから出来ない、令が言ったようにパターンがあったとしても人間がいる分だけ、無数に存在してしまう。

 変なことを聞いてしまったと奈央は申し訳なく思った時、


「なおちゃんってゲームとかってしてた?」

「じ、自分すか?少しですがやってました」

「どんなのどんなの?こう見えてもワタシはそこそこゲームしていたのよ!」

「薫さん、今は見た目変わっていますよ?」

「あらま!そうだったわ!メンゴ!なおちゃんそれでそれで?」

「しょ、小学校の頃は友達とRPG系とかバトル系を……」

「いいじゃない!そういう仲間がいたのね!ワタシは同級生に付き合わされてゲームしていたけど、こういう時話ができるならしてて良かったわ!」

「いいですね。私も一度してみたかったです。見たことしかなかったので……」

「つかさちゃんは本当に筋金入りねー。ゲーセンとか行かなかったの?」

「はい、一度も行ったことないですね。そういうところに入ったらきっと家で門前払いにあいます」

「キビシーワネー。そういえばワタシの同級生にもそんな感じに言っていたコいたわね。時代は案外変わらないものねー」

「いえいえ、うちぐらいでしたよ」


 薫と令が笑いながら話す。それを奈央は穏やかに眺める。

「自分のできることをしていきましょう」薫が最初のころに言っていたこと、無理にやる必要はない、そんな励ましをもらっていると奈央は感じた。



 昼食後の鍛錬、薫たちの提案で別々に行動することになった。どうしてもお互いが見える距離で緊張したり気を遣ったり、気にしなくてのびのびとやれるようにということだった。

 奈央は夏の木漏れ日が揺れる森で一人、目を閉じ集中する。ファイヤーブラストを放とうと試みる。しかしやはり呪文は発動しない。


(やっぱりダメか……)


 ため息のように一息ついた。このまま続けても無意味だと奈央は諦める。令に言われた通り黒魔法の特化、こちらを試してみるしかなさそうだった。

 もう一度息を吸い、神経を集中させる。目を閉じ、右手に短剣を構えその先に魔力を貯めるイメージを作る。

 そして呪文を投じる。



 太陽がこれ以上高くならなそうな真夏の正午、王都を出発する。奈央はたちは王都の門前に来ていた。次の派遣に向かうためだ。今回はトンギビスタ村と逆方向、西の方にあるクルギアスラという村に行くとのことだった。


(今度は二人に迷惑かけずに頑張るぞ……!)


 そうやる気をこめている最中、背中をスリスリしてくるものがいた。


「く、くすぐったいっす!」


 そう言いながら奈央は構ってくる動物の胴を撫でかえす。馬だ。

 その光景を薫と令は微笑ましく見ていた。


「なおちゃんめっちゃ懐かれてるわね!さっき出会ったばっかりなのに凄いわ!」

「羨ましいですね。奈央さん馬に乗るのはじめてと言っていましたが、それならきっと馬の方がリードしてくれますよ。安心して乗ってください」

「ワタシの馬は……どこか不服そうな表情をしている気がするわ!あ!なおちゃんの方に行くんじゃありません!」

「私の方は……よろしくお願いいたします。可愛いですね」


 薫と令もそれぞれの馬に挨拶を済ませる。

 馬、かねてより欲しかった移動手段がようやく手に入った。王都からの遠征組が泥まみれになりながら汗水流して、王都に連れてきた。約20頭、雄である程度成熟したベテラン馬たちが今回奈央たちのもとへ選ばれた。それ以外は繫殖させ、お偉いさんたち市民たちの移動手段となっていくようだ。

 令の考えで馬には名前をつけないことにした。もちろん大事にするのはそうだが、旅の先で何かあった時、最悪飢えを凌ぐために、というケースなんかもありえるかららしい。

 奈央は分かっていながらも初めて目の当たりし、人懐っこい馬に情が漏れ出ていた。

 奈央の馬は赤茶色で毛がしっかり整っており、目つきはたれ目のような感じでいかにも優しそうな穏やかそうな見た目をしていた。

 薫の馬は黒みがかった茶色、雰囲気からも少しイケイケな感じでどこか薫に似ていると奈央は思った。

 令の馬はほとんどが白、馬の中では一番年上らしく、それを聞いた奈央は見た目からもジェントルマンのような馬だと思った。

 3頭とも大きさはあまり変わらず、それぞれ個性はあるものの人のいうことをしっかり聞くらしいと、奈央たちが手渡されたときに担当者がそのように言った。何でも捕まえる際餌付けしてみたら離れなくなったらしい。自然の厳しい環境の中で美味しい食事にありつけるのは馬でも嬉しかったようだ。



 さっそく奈央は乗馬をする。奈央の赤栗毛の馬は抵抗なく大人しく待機している。台座はないので奈央の身長ではあぶみに足をかけつつ鞘つぼまで一気に乗るのはひと苦労だった。

 台座の代わりになるもの、奈央は辺りを探し、馬を王都の壁まで誘導する。そして壁を蔦って馬の上にスッと乗馬に成功した。お互い初対面ということもありも馬も緊張したようにぴくっと反射したが耳は垂れずに奈央に乗馬に合わせた。

 奈央は馬のき甲の下を優しく撫でながら薫と令の乗馬を見守る。

 令の乗馬、葦毛の馬はほとんど動じず、尻尾すらも動かない。令自身も慣れたようにシュッと上に跳び流れるように鞘つぼに腰を降ろしていた。お互いの安定力が光っていた。

 薫の乗馬、すでに黑鹿毛の馬は落ち着いていない。そんな中薫は無理に跳んで乗ろうと試みた。当然馬もびっくりし避け薫は転倒、てんやわんや状態だった。流石に見かねた担当者がなだめようと近づくも巻き込まれてしまい、しばらく音頭は続きそうだった。

 その光景を奈央は笑った、薫らしいと。しっかり自分たちを気にかけるしっかりした所がある反面、慣れないことをしようとすると何かととちる。その見方もたいていの人は微笑ましいと思えるところ、奈央は羨ましく思えた。

 令が手綱を使いこなしながら奈央もとへ近寄る。


「薫さん大変なことになっていますね」

「そ、そうっすね。なんか薫さんらしいっす」

「そうですね。そういうところも含めて素敵な人だと思います」

「じ、自分もどうせ失敗するなら、ああいう感じでありたいっすね!」

「ふふ。多分奈央さんだったら全て可愛らしくなると思いますよ……それに……」


 令は薫を見つめながら、


「薫さんは失敗を恐れていないから、あのように元気なのですよ。私も尊敬します。何かとチャレンジし続ければ、いつか失敗はしちゃいますからね。私もまじまじと反省してしまうのですが……トンギビスタ村での話し合いの時がまさしくそうでしたが、次に活かそう、っていう意思を薫さんから感じました。薫さんは失敗する時はする、しょうがない、って割り切るのが上手いのです」

「……そうっすね……」

「今の時間に馬と慣らししてみてはいかがです?手綱を引くと止まって、足で馬の胴をポンと叩くと進みますよ」


 そう言って軽快に令はその場から消える。止まったり前進したり、そして駆け足、ダッシュとこなしていた。

 それを奈央は横目で見ていた。


(失敗を恐れない……)


 転生前、テストの点数がイマイチな時はねちねち父から言われ、部活の野球は投球のコントロールを乱し撃たれたらコーチ・監督から怒られる毎日、失敗はしてはいけないものだと思っていた。失敗、それが脳裏をかすめるだけで負の感情が湧いて出てくる。

 しかし薫は失敗は恐れない、奈央が今の薫だったらきっと焦ってそれどころではなくなってしまうだろう。薫はこうしている間も馬に乗ろうと悪戦苦闘している。その諦めない気持ちを奈央は憧れた。どうして出来ないのだろう、ではなく、出来るまで頑張る。きっと本人に聞けば「意地になってるだけよ」と謙遜しながら笑うだろうが、トンギビスタ村の功績といい、失敗を恐れず進む勇気、これを持たねばならないのだと感じた。

 呼応するように奈央の馬が穏やかに揺れた。動きたそうに奈央にアピールしていた。それに気づいた奈央は手綱を握り直し、優しく胴を蹴った。



 薫はというと、20分くらい攻防戦を繰り返したのち乗馬に成功した。薫の諦めずに鞘つぼに乗ろうとする姿勢に馬は半ば諦めだった。その後はスムーズにこなしていった。また変に抵抗すれば出来るまで薫がしつこく行動してくることが、馬は理解したようだった。



 こうして奈央たちはある程度乗馬の練習したのち、次の村に向けて旅立った。西にある程度進んだクルギアスラ、少し荒廃したような村らしく、周りも砂漠化しており少し寂しい村らしい。王レベリヤンはトンギビスタ村のように無理に交易の約束はしなくていい、あくまで様子見で構わないとのことだった。以前王都の使いが訪れた時もあまりいいようにおもてなしはされていないらしい。

 そのことを奈央は思い出し、気を引き締めた。

鴨鍋ねぎま:だんだんだんだん奈央ちゃんの素性が暴かれていく……なんだか卑猥ね!てなわけで馬が新たに仲間に加わりました!アッシーは大事よね!(薫脳

奈央さんは元々ハイスペック男子、それが何故常に自信なさそうなのか、それが明かされていく物語が進んでいきます。

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