10,フェミニスト共存と強さの答え合わせ
注;これはあくまでフィクションです。
薫たちはトンギビスタ村を去ろうとしていた。最初にトンギビスタ村にきてから2月が経った。
(結果的にだいぶ滞在したわね)
トンギビスタ村は一気に発展を遂げていた。水路を拡張したおかげで畑もおおきくなり、建物も一気に巨大化し、舗装整備され道も通りやすくなった。色々な場面で魔法も役にたち全体的に生活の効率が上がってもいた。
村は一気に活気づいた。
(これ以上はもう大丈夫そうね)
薫は安堵し、村を出た。
レンヘムとリーダーがいい感じになった次の日、村の中央の広場に薫、令、奈央、レンヘム、メイがいた。特設で大きなテーブルを用意してもらい、それを囲いながら今から会議、話し合いが始まる。村人たち、オークたちも見守っている。
最初に口を開いたのは薫。
「それじゃ、始めるわよ。レンヘム、メイ、よろしいかしら?」
「はいぃ」
「……はい」
レンヘムは昨日と違い顔色は幾分か明るさを取り戻していた。
(あれから励まし続けたのよね!リーダーパイセンさまさまね!)
対極的に村長メイは、少し不機嫌だった。
(レンヘム、オークのこと、そして村のことを考えればしょうがないよね…)
薫はふたり表情を確認し、話を進める。
「ワタシじゃ役不足かもしれないから、つかさちゃんとなおちゃんもいるけど良いわよね?」
レンヘムとメイは頷いた。
(話し合いの進行なんて重役、とても一人では無理だわ!それに様々な立場からの意見も欲しいでしょうから)
薫は慣れない進行に、冷や汗をかきながら進める。
「それではまず、レンヘムからお話があるわ」
薫の言葉とともに、レンヘムは立ち上がる。
「まずはこのようにこぎつけてくれたぁ、カオルさんたちに感謝するわぁ。そしてメイぃ、あなたとこうして話せることにもぉ……本題だけどぉ、まず先に謝罪からしなければならないわぁ。村に迷惑をかけて申し訳ありませんでしたぁ」
レンヘムは深々と頭を下げた。周りはざわつく。とくに村人たちは意表を突かれたようだ。
「…え?」
メイもびっくりしていた。
(そうでしょうね、最初のオラオラ~から反転、いいインパクトだわ!)
薫とレンヘムはあの後、夜まで話し合っていた。そのことをレンヘムが披露する。
「村の男性をとってしまったことぉ、荒らしてしまったことぉ、そして今一時的に居座られていただけることぉ、本当に申し訳ありません。村側のことを考えずぅ、そのことを薫さんに言われ反省しておりますぅ。そして村にお願いがありますぅ。どうかアーシたちをこのまま村に住まわしていただけないでしょうかぁ」
「あなた何言って!」
レンヘムの言葉に、メイは立ち上がる。レンヘムの話はまだ終わっていないことを薫は分かっているので静止させる。
「メイさんごめんなさい、レンヘムの話が終わっていないわ。最後まで聞いてもらえる?」
「……わかったわ……」
メイは不服ながら座る。
「レンヘム、続けて」
「いまアーシたちは集落崩壊してしまってぇ、片手で持てるぶん位の簡単なものしか持ち出せなかったのぉ。一番大事な食料はほとんど持ち出せなかったのぉ。アーシたちの一番の問題は直近の食料がないことぉ、保証されていないことぉ。近くに狩りやすい動物がいるかもしれないけれどぉ、必要なぶん狩り切れなかったら飢えてしまうのぉ」
レンヘムは少し間をおいてから言葉を続ける。
「村に迷惑をかけてしまったぁ、アーシらの仲間に迷惑をかけてしまったぁ、アーシはその責任を取りたいのぉ。言葉だけじゃなくてぇ、行動でそれを見せたいのぉ」
メイはレンヘムの言葉に建設的に返し始める。
「……分かりました。私たちも明日の暮らしが安定しきれているとは言い切れません。そこに食料を分けて欲しいというのは非常に難しいです、現状では賄いきれません、そこらはどう補填するのですか?」
薫は、メイがレンヘムからの提案でどのように返ってくるか想定していた。今すぐ出ていってと言わないあたり、メイも恐らく人員、ワーカーが欲しいはずだ。そこが今回雄一折り合いのつく箇所だろう。
(流石村長、こういう時感情に流されないで助かるわ)
ここで令が立ち上がる。レンヘムとメイに意見していいか相づちをとる。
「ありがとうございます。オークたちもただで暮らすわけではありません。色々なところで手伝えるはずです。まず力は私達人よりもかなり強いです。木材、土の運搬は適しており、人より効率が良いです。また舗装整理はどうでしょうか?このまま村は完全に舗装されておらず、人が荷物を運び辛く感じます。また私たち3名が村の皆様に魔法を教えるのはどうでしょうか?村の方は魔法を使用されていないので、畑作業や生活関連の効率化が図れると思います。このように共存することでお互いが得意なところで生活していくのは理想的だと思います」
令は流暢に話した。
(流石、元令嬢と言っていただけあるわ。ワタシだったら絶対嚙むしきょどる……)
その提案を聞いたメイは、
「なるほど、適材適所。人の力では足らないところをオークたちが補ってくれる。そしてあなたたちの魔法を詳しく教えていただけるのは嬉しいですね。そういう機会なかったので村の活性化は止まらないでしょうね。ただ……」
メイが言い淀み、
「私たちは種族が違います。そして連れていかれたこともあり、印象はよくないです。そこらどうしたらいいですか?またオークたちが暴れた時、我々人間はどう止めたらいいですか?」
薫は、今回の一番の難しい問題がきたと思った。転生前の世界は同じ種族ですら、性別や肌の色で色々な問題が起こっていた。異種族ともなれば大変だ。
レンヘムは立ち上がる。
「暴れさせないようにするわぁ。ちょっと言い方あれかもしれないけどぉ、人間を食べようと思ったことはないからぁ、そこは安心して欲しいぃ。言葉が通じるからかわからないけれど、そんな感情が出てきたことはないわぁ」
ここで奈央が立ち上がる。こういうのは慣れていいないであろう、緊張していた。
「オ、オークのみなさんは、少し荒っぽいところもあるかもしれないけど、少なくとも私たちにはしっかり接してくれた、です。この村に戻ってきた人たちも働かされていましたが、それ以外の危害はないはず、です。オークの男、女性問わず任されたことはしっかりやっていた、です」
言い終わった奈央の提案に、メイは、
「……なるほど……そうね……こればっかりはやってみないと分からそうですね……あ!そしたらちょうど水路拡張したくてしょうがなかったのよね!畑広げたいからさ!まずはそれをやってもらおうかな!みんな村が発展するんだ、いいよね?!」
メイは後ろの住人たちに問う。各々様々な表情をしていたが納得した。
(まあやっぱり今の暮らしより最適になるんだから、良いわよね)
薫はそう考えているとき、メイはこちらに向き直り、
「レンヘム、『徹底する』ってことでいいのよね?!」
「ええぇ、徹底するわぁ」
レンヘムはメイに目で訴え、メイは薫の方を向き、
「もしレンヘムが暴れたら、薫さんたちに止めて欲しいけどいいわね?!」
薫は笑顔で、
「ええ、そんなことがあったら次は100%の力で止めてあげるわ!」
レンヘムは少しひきつった笑顔になっていた。
(流石に次やったら、もうアウトよ)
薫の思いが伝わったのか、レンヘムは真面目な顔にもどった。
メイはのびをしながら、
「ならそれで試しましょう!あー疲れたわー!」
「そ、その前にひとついいっすか?!」
声を上げたのは奈央だった。
「こ、これだけはお願いというか……さっきメイさんからもあったんすけど、そのぶつかり合い……い、いじめなんかは絶対やめて欲しいっす!きっとお互いできるできないあると思うんすけど、尊重して欲しいっていうか……できないからって裏切ることは絶対やめて欲しいです!」
奈央の力の困った言葉に各々がびっくりした。薫、令は声を張り自分の考えを主張したことに、メイとレンヘムは、
「そうね、きっと私たち人は器用さが売りだと思うから、オークたちをしっかり支えるようにしてみるわ」
「奈央ちゃんがそう言うならぁ、しっかり守るわねぇ」
かくしてオークと人間の円卓会議が終え解散し、薫は安堵していたが、
(ワタシ司会じゃん!シメの挨拶してないじゃん!慣れないことするもんじゃないわ!)
あれから1週間後。
薫はメイに魔法を教えるべく、メイの家に向かっていた。魔法を教えることはオークたちと共存する上での一つの条件だ。
村は少しずつ変化していった。最初に提示した水路拡張工事、オークたちは難なくこなしていき、その後畑の拡張や舗装の整理などに励んでいる。レンヘムは約束をしっかり守り、オークたちはとくに暴れまわることなく過ごしていた。
令と奈央はメイ以外の村人たちに呪文を教えている。オークたちにも教えようと試みたが魔法の適性が無いらしく、使えなかった。
薫はメイの家に着き、庭で準備していたメイを見つける。
「メイさん、きました」
「あら!待っていたわ!さっそく始めましょ!」
メイは元気そうに返事をした。この魔法のレッスンが大変好評らしく、毎回興味津々だった。
薫は人に教えるということはあまりしてこなかったので、毎回緊張している。
「今日は、水魔法をやりましょう」
「いいわね!これだけは絶対習得したいわー!畑の水やりが絶対楽になるから!」
「そうだ。メイさん。あれから魔力量増えました?」
メイには薫、令、奈央、日替わりで教えているのでどのように変化しているのか気になった。メイは目を力いっぱい瞑りながら、
「えっと、目を閉じたときに左上にある数字だっけ?……ん-と、100ってなっているわ!」
「前より着々と増えてるわね!最初10しかありませんでしたから」
「やったわ!……それよりも目を閉じたときに数字が出てくるなんて知らなかったわ」
「ステータス……自分の力を見たいなーって思いながら閉じると見えるみたいですね」
「薫さん、他の数字も上がったのよ!その下にある……一つ目の数字がパワー?力だっけ?これが30に!その次が足の速さだっけ?これは15に!次が……薫さんが言うには賢さだっけ?これは10に!凄く上がったわ!次が……器用さ?これは9、変わらないわね。最後は疲労度、これは3ね!まだまだ働くわよ!」
メイは薫に嬉しいそうに報告した。ただすぐに眉を寄せ、
「薫さんたちには全然追いつけないわ。力が100もあるなんて凄いわね……」
「いえいえ……このことはくれぐれも村の中だけの秘密にお願いしますね」
「条件のひとつだもんね、分かっているわ」
「ワタシたちもまだまだ分からないことだらけなので……」
薫は苦笑しながら答える。
薫は目を閉じる。ステータスを見たいと思う。そうすると数字が浮かび上がってくる。左側、
魔力量:3000/3000
力:100
速さ:100
賢さ:100
器用さ:100
疲労度:0/100
右側にはスキル。
・白魔法精神力生命力無効化
・友好
そして下には、呪文・技の名前が確認できる。魔法・武術・剣術などで使用した技が記載されている、イメージ。
(ワタシは、ウィンドウボール、フラッシュなんかがあるのよね)
魔力量、薫たち3名は全員四桁に到達している。この機会に村人達に確認した際、魔法を使っていなかったというのもあるかもしれないが、二桁になるかならないかがアベレージだった。
薫が自身の能力を最初に確認したときは「500」、この時からすでに平均を大きく上回っていたらしい。
(うん……王都で言ったら絶対こき使われるわ!)
力、薫のイメージは握力測定の数字がそのまま反映されている、と思っている。最大で出せる力の量、剣術や武術で役に立つと王都で習っている。ちなみに薫の最初は「15」、目覚ましく進歩していたようだった。
(うん!王都で言ったら絶対こき使われるわ!)
速さ、これは単純に足の速さ。村人の中で自身あるもので「35」。ちなみに薫はこれも低かった、過去形である。
(王都に言ったら絶対こき使われる!)
賢さ、想像力なんかが数値化されたところ。高ければ高いほど呪文を覚えやすい。薫のここのステータスは最初「85」。ここは「100」でカンストらしく早々に到達して以降上がる兆しが見えず、カンストなのだと理解した。
(絶対こき使われる!)
器用さ、こちらは武術や剣術、加工技術などが有効になってくる箇所。こちらも「100」でカンスト。転生早々に武術、剣術を履修したら早々にカンストしてしまった。
(ファ〇ク!転生の恩恵だか知らないけどめちゃくちゃ能力高いし、成長スピードも鬼はやじゃない!こんなん絶対バレたらただじゃ済まないわね!!)
疲労度、日常の生活や戦闘、魔法を使うことで数値が増えていく。「100」に近づくにつれ身体が重く眠くなり、到達するとバタンキューしてしまう。レンヘムの戦闘時、薫の数値は「100」に到達してまい気絶してしまった。
(こういうの見れるの凄い便利だわ!前の世界にあったらどれだけ良かったことか!)
スキル、今後色々なスキルが増えていくだろうと薫は持っている。ただ、
(友好ってこの前増えたけど内容確認できないじゃない!効果分からないじゃない!それなら白魔法みたいに直接的に記載が欲しいわ!……頭の中で書くってなによ!)
令、奈央も薫と大差のないステータス内容だと聞かされている。
今回村人たちにはステータスを秘匿にすることを条件に公開した。あらためて薫たちが恐ろしいことになっているか、痛感したのだった。
「……薫さん!薫さん見てますか?!」
「ごめんなさい、考えことをして……あら!ウォーターボール使えるようになったじゃない!」
メイに呼ばれ薫は我に返る。
その後メイに手ほどきしながら、水魔法を指導していた。
「そろそろ一回休憩しましょ!ずっとやっていたら疲れちゃうわ」
「そうですね!魔法って楽しいですね!一度出来るとついつい何回もやりたくなってしまうわ!」
「魔力量に気を付けてくださいね!倒れちゃうと大変よ。でもそうよね~、なおちゃんなんて最初ファイヤーボールを加減なしに連発してことあって大火事になることもあったわ」
「あの子らしいわね!私も早く畑仕事で使ってみたいわ」
薫とメイは会話しながら庭に置いてあるテーブルに向かう。休憩しつつ軽食と紅茶を食べるためだ。
「それにしてもこの紅茶、本当に美味しいわ!きっと王都は高く取引してくれるわ」
「そう言ってもらえて嬉しい。そういうことも考えて畑の拡張は必須だからね。作業が順調で何よりだわ。令さんに言われてサンドイッチ?っていうの?作って見たけどパンと野菜を挟めるだけでこんなに美味しいのね!」
サンドイッチ、令がこの村で取れるものを整理して考えたらしい。乳牛や食野菜など転生前と似たものは多かった。見た目は僅かに違うが、この世界も人間がこうして変わらずいるのだから他のものが遜色なくあっても不思議ではない、と薫は考えている。
二人で和気あいあいと休憩しているところに、庭の前にレンヘムが現れる。レンヘムは薫たちに気づき、庭に植物などを壊さないよう丁寧に入って、穏やかな声色で話しかける。
「カオルちゃんメイちゃん何しているのぉ?」
「魔法を教えているの」
「水の魔法が使えるようになったわ!」
「あらぁ、いいわねぇ。アーシも教わりたいけどぉ、そもそも使えないって酷くないぃ?」
「それね~!種族が違うからって使えないのは差別だわ!軽視だわ!」
「そこまで言わなくてアーシは大丈夫よぉ。みんなもしょうがないって納得してくれたしぃ」
「そうだ!レンヘムってステータス確認できる?」
「ステータスぅ?何それぇ?」
「目を閉じて、自分の能力……力を見たいー!って思うと1とか2とか出てこない?レンヘムの確認してみたかったから!」
「目を閉じてぇ……見たいぃ……あれぇ?ホントだわぁ!なんか出てきたわぁ!スゴイナニコレぇ!それで数字だっけぇ、えーとねぇ……0、500、400、0、40、12ってなっているわぁ!それになんかイッパイ書いてあるぅ!面白いわぁ!」
レンヘムは目を閉じながらその場でグルグル回っている。
(こういうところはあどけなさがあって可愛いのよね……えっと、魔力量が0かな?使えないみたいだしあってもしょうがないものね。次が力、500もあるのね……ワタシの5倍以上……流石だわ。次が速さ、400ね。そりゃあんなに跳躍しちゃうんだものね。賢さは0、ここが1でもあれば魔法が使えるのに……器用さは40、村人たちよりもあるわね。一番上に立っているんだものね。疲労度は種族関係なしに共通かな?あとでリーダーにもステータス聞いてみよかしら!)
薫が考えごとの最中、メイとレンヘムは和気あいあいと話している。薫が最初に見た時には考えられないような光景だ。しかしこうして問題なく過ごせているのは共存の道が開け、互いに今の関係を心地よく思えているからだろう。
薫はその光景に気づき、ほっこりした。
鴨鍋ねぎま:遂にトンギビスタ村編も最終盤、薫の知らず知らずに変わってゆく姿をお楽しみに!
赤烏りぐ:りぐさんです!レンヘム編も落ち着いてきたのかな?異種族での共存ってなんかいいですよね