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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第1話:鏡の世界へ「V」
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08:契約(1)

 察するにこの怪物達も、元を辿れば今のアリアンロッドの様な存在だったのかもしれない。

罵倒した事実は消えないが、よくよく考えてみれば少し可哀想な気もする。

華はそう感じ、後悔した。


「同情は命を落とす要因となります。華さん、気をつけて下さい。彼ら、襲ってきますから」


 言うが早いか、怪物の内の一体が口をめいいっぱい開けて噛みつこうと襲ってくる。

しかし二人とも体育会系だったのは、怪物にしてみれば計算外だった。

大分余裕をもって、冬真と華はひらりと(かわ)す。


「おい、アリアンロッド! こりゃ一体どういう……っと」


 その言葉を言い終わらぬ内に、何か得体の知れない物体が顔に向かって近づいて来るのが分かった冬真は、さっと首を引いて避ける。

物体の通り過ぎた場所であるタンスの上は、(えぐ)る様な大きく丸い弾痕が出来ていた。

大砲の弾でも飛んできたのかと思える程だ。

壁をも貫いて隣の部屋が丸見えな上に、衝撃で家具や小物が散乱してしまった。


「えぇ、言いたい事は解ります。けれど説明する時間がありませんので、早く私を開放して下さい!」

「お前色々と順番飛ばし過ぎなんじゃ――」


 意味不明な発言を更に増やす彼女に、冬真も堪忍袋の緒が切れて一言モノを言おうとした時だ。


「警告。大きく後退して下さい」


 さっきまで(はしゃ)いでいたアリアンロッドは、急に声のトーンを落として冬真に警告を出す。

彼女に言われた通り咄嗟にその場を跳び退いた瞬間、先程の赤い銃弾が轟音を立てて目の前を通過した。

早急に避ける事が出来たから大事には至らなかったが、避けなければ気絶じゃ済まなかっただろう。

大きな銃弾は、その先の壁を大破させたのだから。


「悪りぃ、助かった」

「しっかりして下さい。貴方が解放してくれなくては、私はただの人形なのですよ? さぁ、契約の言葉を唱えて!」

「今度は契約の言葉? 思い出すも何もそんな契約した覚えは無いぜ?」


 再び口を大きく開けて噛み付こうとしてきた異形の犬を躱しながら、余裕があったので左で犬の頬に拳を叩き付けてやった。

犬は一瞬だけではあったが(ひる)む。

その後は尻尾を逆立てて、威嚇しているのだろう野太い鳴き声でギャンギャンと吠えた。

殴られた犬や周りの連中はそれに感化され、ジリジリと距離を詰めながら各々に威嚇行動に出てくる。

きっとこの状況は、火に油を注いだと言っても差し支えは無いだろう。


「そんな筈ありません。よく思い出して下さい!」

「ンな事言われても、知らねぇモンは知――」


 ――我……と契……る。白……輪よ、……き……て――


 ――ガキの頃に契約を? そんな馬鹿な事がある筈はない。


 そう確信していた冬真だったが、昔を思い出そうとすると何か記憶の片鱗を垣間見てハッとする。


 ――ッ!? 今なんか思い出したような。もしかしてこの言葉、か?


「我は汝と契約する。白銀の車輪よ、力を解き放て?」


 語尾がどことなく上がったのは、冬真が少しだけうろ覚えで自信が無かったからだ。

昔、とある人物が冬真に教えたあの言葉。

当時、幼稚園生の冬真にそんなことを言ったって意味など分かる筈も無い。

それでも今、こうして冬真がそのフレーズを思い出せたのは、耳に胼胝(たこ)ができる位言われてきたからだろう。

とにかく、これで何とかなる筈――。


「契約完了。さぁ、見せ付けてあげましょう」


 冬真が言葉を唱えた直後にアリアンロッドが承諾したと思えば、次の瞬間には彼女の体が白銀色の結晶となって消えていく所だった。

消えた分の体積が粒子状となって冬真の手元に集まっていく。

それらは徐々に成形し、その最終的な形状は()となった。

いつも杖道で使用している木製のそれではなく、白銀に光る細長い杖。

端には蒼い二重のラインで縁取りされ、見方によっては品の良い物干し竿に見えなくもない。


「好きにって、コイツら化け物を倒せって事か? 無茶言うなよ」

「ふふっ、大丈夫です。貴方が貴方自身を信じればきっと!」


 銀杖もといアリアンロッドが冬真に語り掛けた。

どうやら目の前のコイツら化け物を銀杖一本で退治しないといけないらしい。


「自分を信じる、ね。――ふンッ!」


 冬真は今まで培ってきた技で化け物を駆逐する為に、銀杖を大きく振るう。

利き手側に大きく引いた銀杖を、先程の犬まがい目掛けて鋭く突き出す【一の段・突】である。


 更に追撃として隣に居た大トカゲに向けて突きを放つ。

左足を踏み込み一の段よりも力を乗せた突き【六の段・穿】だ。

二匹はどうやら急所に当たって体を保てなくなったのか、霧の様に霧散していく。


「おぉ、冬真凄かね! あたしも何かなかと?」

「ならば契約の言葉を唱えよ」


 それを見ていた華は興奮したのか、彼女の肩に止まっていた朱雀に訊ねた。

すると、きりっとした朱雀の声が華だけに聞こえるのであった――。

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