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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第9話:真夏の孤島「H」
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21:煉の過去(3)

 表情もやはり、先程と同様に険しい。

彼の話を聞く限りでは、彼に非は無いのは確かな様だが……如何せん、警官への応対が悪かったようだ。


「そしたら当然、そのまま警察署行きだ。小部屋に入れられて何時間も取り調べを受けた挙句、重要参考人として長時間に渡って拘束された。けど朝になったら、あっさり帰れと突き離された。


取調べの結果は、結局のところ冤罪(えんざい)による無罪放免となったワケだ。ここまでヤった奴ら(警官達)に対して、俺ァ謝罪も何も期待していたワケじゃねぇんだ。……だけど――」


「だけど?」


 一度視線を外した煉はどこか遠くを見ながら、なにか意味深にも言葉を区切る。

そして、勿体ぶるような言い方――というよりも、言い淀んでいるとも取れる行為――をする彼は、再び冬真の目を見た。


先程とは違って睨みつけるのではなく、勿論のこと敵対心を向ける訳でもなく、じっと静かに見つめている。

冬真はそんな彼の行動に疑問を抱きつつも、煉としっかり向かい合った。

これまでの経緯を煉が話して情報を共有した事により、今となっては二人の間にはいがみ合う感情は無いように思える。


「あの人は……あの人だけは、違った」

「……? あの人?」


 再び煉は、意味深な言い回しをした。


 ――やけに話を伸ばすな。


 冬真は訝しげな表情を浮かべながら、煉の次の言葉を待つ。


「警視総監の敷宮さんだ。警察署から突き離された後に走って追いかけて来たあの人は家族の葬儀や、今後の生活について色々と支援してくれた。あの人だけは、警察の中でも信じられる。返せない程の恩がある」


「へぇ……。そっか」


 自分の父親――敷宮光秋――に恩があると言われて、少しだけ照れ臭くなった冬真は下を向いた。

家庭であろうと、光秋は厳格な性格の仕事人間である。

冬真は父親から褒めてもらった事など、ましてや校内行事などにも参加してもらった試しがなかった。


そんな父親の意外な一面があると知れて、どこかもどかしい気持ちになったのだ。

それは厳格な父親が誰かから感謝される人物であったことへ照れ臭さを感じる反面、息子である自分には何の反応も示さなかった事に対して寂しさを感じたからである。


「――その息子の性格が、こんな筈ねぇだろうがッ!!」

「ッ!?」


 ここ数分の間は穏やかな空気が流れていたのだが、突如として冬真は煉に罵倒された。

彼としては衝撃的である。

ただただ冬真は指を差され――それも鼻に当たりそうな程に突き付けられ――た挙句、唾液が飛び散りそうな程の勢いで()われのない誹謗(ひぼう)を受けた。


冬真の性格と父親の施しについて今の会話には、全く以て関係の無いことではないか。

自分にとって色々と便宜を図ってくれた人物への印象は、何割増しにもなって良く映る。


そういった気持ちは分からなくもないのだが、詰まるところ――煉は光秋の事を美化し過ぎているのだ。


彼の脳内にはきっと「警視総監イコール完璧超人であるならば、その息子である冬真も完璧常人でなければならない」という、相当に無理矢理な方程式が組み上がっているに違いない。


もしもこれが本当に煉の脳内で成立していたのだとしたら、と考えると――冬真はぞっとした。


「別に関係ないだろ。血は繋がっていても、全然の別人なんだ。アンタの知らない一面が俺の親父にもあンだよ。とにかく、性格はほっとけ……って、何見てンだ?」


 いつの間にか視線を外していた煉は、大型植物で出来たトンネルのずっと先にある一点の光に目を奪われていた。


「おいおい、こりゃあ」

「出口みたいだな」


 煉に釣られて視線を重ねれば、数百メートル先で差し込む陽の光がトンネルの終わりを告げている。

踏みしめる地面も土ではなく徐々に海砂が混じりはじめ、その割合も出口に近付くにつれて多くなってきた。

キュッキュッと耳当たりの良い音が地面から聞こえ始めたのも、丁度その辺りからだろう。


 ――テレビのドキュメンタリー番組で「鳴き砂」は希少だと聞いていたが、まさかこんな場所で巡り合うとは。


どうやらこの島は活火山のようであるし、半透明の多角形粒子――おそらく石英粒の(たぐい)と思われる――が多く見受けられるのも納得である。


最初の海岸に居た時に、遠くで火山の噴煙らしき薄黒い雲を確認していた冬真は、十数分前の情景を思い出しながら妙に納得してしまっていた。

ともあれ、ようやく外に出られると思うと、自然に歩幅も大きくなるものだ。


「――……っ、眩しッ」


 徐々に出口に差す光は大きくなり、やっとのことで小さな獣道を抜ける事が出来た。

ふうと一息吐く間もなく、あまりの眩しさに目を細める冬真と煉。

じりじりと照り付ける太陽を恨めしそうに睨み返そうと思いつつも、とてもじゃないが直視は出来ない。


サングラスを掛けても、きっとこの太陽(・・・・)を見る事は出来ないのだろう。

混鏡世界(テスカポリカ)特有の異界化の影響もあり、島自体が肥大化し、気象条件も極端なものとなっているからだ。


 ――ま、肌が焼けそうな程に気温が高いのは、単純に火山に近付いたからだろうケドな。


 数キロと離れていない場所には、最初の海岸で遠目に目視出来ていた活火山の姿が見えた。

こうも極端な気温の変化に気付いたのは、きっと天然のトンネルである獣道のお陰だろう。

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