05:夏季休暇の計画(2)
チケットが何故四枚しかないのだろうと思い、名護に訊いたところ「そもそも四枚しか当たらなかったし、どうせ翠子と錬丸は行かないだろ?」なんだそうな。
まぁ言われてみれば確かに翠子はともかく、藤木煉が行くようなタマではないのは明白だった。
詰まるところ名護が四枚のチケットを渡したのは、冬真・恭平・華・夏希の四人が参加する事を見越しての事だったらしい。
「知り合いって真琴さん辺り?」
「ま、そんなトコ。それよりも――」
首を傾げて訊いてきた華に対して、冬真は曖昧に言葉を返す。
今はそんな事よりも考えるべき事があるからだ。
それは至極単純な問題。
「余った四枚をどうするか、だな」
冬真の隣に座る高崎がぽつりと零す。
彼の言う通り、ここに集まったメンバーだけならば祐紀の持っているチケットだけで事足りるのだ。
そう。
事足りるからこそ、貴重なチケットが丸々四枚も残ってしまう現状。
余りにも、もったいない。それは誰が見ても明らかだ。
とはいえ今から他のメンバーを集うにしても、互いに面識の少ない人選は極力避けたい所ではある。
――さて、どうしたものか。
「祐紀ちゃん、あたしの友達を三人追加したいんだけど、良か?」
「勿論、良かよー? 誰にすっとね?」
「そりゃまぁ、じぷ――」
「げっふん、げふん、ごほっ!」
色々と思案している冬真を他所に、案の定なにも考えていない華が余計な事を言いそうになる。
今まさに華はJP’sの存在を喋ろうとしていたのだから、冬真としてはタマったものではない。
思わず舌打ちが零れた。
――華の奴、あれだけ口留めされていた筈なのに!
幻影の存在を可視出来ない――そもそも認知すら危うい――のが、この御時世の一般人だ。
霊的な物と何ら変わらない存在を、視る事も触れる事も出来ない存在を、現代人の大多数が信じられるワケがない。
幻影を信じる事が出来ないのに、その「不確かな存在」と「悪用された犯罪」を追う警察機関を一体誰が信じるのか?
だから、まだまだ信憑性に欠ける機関であるが故の措置――口外制限が設けられたのだ。
警視庁でさえあまりの音沙汰の無さに、最早都市伝説と化してしまっている程だ。
そんな事情を、華は呑み込めていないのだろう。
冬真がわざとらしく大きく咳き込む(振りをする)と、ようやく気付いたあんぽんたんはバツが悪そうに表情を曇らせた。
反省しているつもりなのだろうが、きっと三歩も歩けば忘れてしまうのだろう。
どうやら冬真の悩み種は尽きないらしい。
そんな彼女の醜態を見れば、先が思いやられるのは寧ろ道理だろう。
「あ、はは。最近地域の清掃ボランティア活動に参加していて、そこで知り合ったの! にしても、残り一枚かァ」
他所に視線を泳がせながら、華は乾いた笑みを零した。
この女、不細工なまでに話の逸らし方が下手くそである。
もう少しマシな言い訳は思い浮かばなかったのだろうか?
その証拠に祐紀は全然納得していない様子で、「ふーん?」などと気の無い相槌を打っていた。
「まァ良いけどね。そんじゃ、私は兄貴でも誘うよ。ウチらに気を遣って家に残るって言っとっとよ。引率兼保護者役って事で良か?」
「良かよー! てか、お兄さんって幾つ?」
「うん? 今年二十歳の大学生だよ」
顔を微かに曇らせる祐紀は、はっと気が付いたらしく表情を戻して高崎の質問に答える。
けれど冬真には、既にそれが取り繕った笑顔にしか見えなかった。
「兄貴となんかあったのか?」
「へ? なーんも無いけど、何で?」
「別に……何となく、な」
「そ? 変なのォ! そんじゃ、解散ッ!」
クスリと笑みを浮かべる祐紀はパッと手を上げて終わりの意を示すと、集まった旅行メンバー達は各々に散って教室を出ていく。
――祐紀への違和感は俺の思い過ごしだろうか……? だったら良いのだが。
彼らを横目にそんな事を想いながら、冬真は机の中から教科書類を取り出して帰宅準備を進めるのだった。
因みに先程の華の話にあった「自称」地域清掃ボランティア仲間は、きっと夏希・翠子・煉の三人なのだろう。
――本人達の意思も無視して事を進めるとか、もう……鬼畜の所業だな。