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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第9話:真夏の孤島「H」
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04:夏季休暇の計画(1)

 ◇ ◇ ◇

 その日の放課後は、祐紀からの強い要望で教室に残っていた。

早速、たい焼きを(おご)れって事なのだろうか?


「十分、十五分くらい待っていて!」


 と言い残した当の本人は、六限目が終わると速攻で教室を出ていく始末だ。

ただただ茫然と自席に座って待っていると、破顔した祐紀が教室に戻ってきた。


その彼女は華と恭平、それに加えて知らない男女を引き連れては、冬真の席――隣は祐紀の席なのだが――の周りに集まる。

一体これから何が始まるというのだろうか?


「ねぇ! たい焼きなんて買わなくて良いからさ、このメンバーで夏休みに遊びに行かない? もちろん皆の都合の良い日で!」

「……は?」


 全く想像だにしていなかった発言に、上手い返答が見当たらなかった冬真は素の声を出す。

話の見えない冬真が周囲に状況説明を乞うのだが、一向に助け船を出してくれる人は居なかった。

華や恭平でさえも、だ。


きっと口裏合わせでもしているのだろうか?

更に謎が深まるばかりだが、きっと彼らにとって深い意味はないのだろう。


そう考えるとなんだか無性に腹が立ってきた。

まったく……こんな無意味な茶番に付き合わされる身にもなって欲しいものである。

沸々とタギる感情に身を任せれば、いつの間にか眉間に皺が深く刻み込まれていた。


するとどうだろう。

周囲の生徒達には、冬真の反応が(いささ)か可笑しかったらしい。

微かに不快な笑みを浮かべる様が、それを物語っていた。

けれども場の雰囲気からして、決してドッキリで済む話ではなさそうである。

この集会はここからが本題なのだろう――と、冬真は肌で感じ取っていた。


「なんだ、敷宮ってもう少しイカつい奴だと思ってた」


 先に口を開いたのは、祐紀が連れてきた男子生徒。

黒縁で太いフレームの眼鏡が印象的な彼は、隣の空席に深く腰掛けて冬真を舐め回すように見る。


 ――ンだ、こいつ。失礼な奴だな。


 冬真の第一印象は(まさ)にそれだった。

長い前髪を中央で分けてヘアピンで留めているので、整えられた眉が良く見える。

単なる優男かと思いきや、夏服の下からでも判る整った肢体(したい)――運動が得意だという事は一目瞭然だった。

とは言え、初対面の相手にもう少し言葉は選べなかったのだろうか?

だから冬真としては、彼の事をあまり好きにはなれなかった。


「……、誰?」

「俺は三組の高崎敦っていうんだ。よろしく!」


 好青年と言えば聞こえは良いのだろうが、結局はズ太い性格の持ち主である――そんな高崎はただでさえ機嫌の悪い冬真に握手を求めてくる。

よろしくされる(いわ)れの無い冬真にとって、その行為は迷惑でしかなかった。

ただ一言「よろしく」で済めば良いものを、何故に握手までしなければならないのか。

無為な行為はしない主義の冬真にとって、それは反応に困ってしまう一撃だった。


「二組の敷宮冬真だ」


 結局はその握手に応じずに、冬真は視線を逸らせたまま名乗る。

高崎が残念そうな表情を浮かべているが、冬真は素知らぬふりを貫き通した。


「はいはいはいっ! あたしは千鳥想! 苗字がチドリで、名前がソウ。この辺じゃ珍しい苗字だけど、よろしくー! あ、都会だとよく居るのかな? あたしこの町から出た事ないから分かんないッ! あ、それだったらこの町の大抵の人が出た事ないか。あっはははははっ!!」


 高崎と冬真のぎこちない挨拶の中を割って入ったのは、底抜けに明るい笑顔の女子。

背丈は華よりも千鳥の方が若干高く、ポニーテールの長い髪と小麦色の肌が印象的である。

女性らしく肩は丸みを帯びているものの、夏服は生地が薄いので、引き締まった体つきが制服の上からでも分かった。

身体全体を日焼けしているにも関わらず目元だけが白いところを鑑みると、きっと彼女は水泳部員なのだろう。


「ソーちゃん、話はそれくらいにして、そろそろ本題に入るよ?」


 そう言って口火を切ったのは、この教室に皆を集めた張本人の祐紀だ。

始終ニコニコと笑っている千鳥を横に押しやり、その前にずいと体を張出した彼女は皆の注視を受ける。


「なんと! ウチのお母さんが商店街の福引で特賞を当てたンだ! 沖縄へのツアー! けど、お父さんもお母さんも仕事が忙しいみたいで……だからクラスの友達と一緒に行ってきなさいって、チケットもらったの。全部で六人分!」


 そう言った祐紀が皆の目の前でチケットを見せ付けると、嬉々とした声が周りから飛び交った。

チケットの発行元は「楽々トラベル」であり、ツアー名は『大自然! 三泊四日、沖縄ぶらり旅』と標記してある。


 ――行先も旅行会社も同じ。その上ツアー名も同じ、有効期限は今年の八月末日までって、それって……。


「なぁ、もしかしてコレの事か?」


 冬真は数週間前の出来事を思い出しながら、鞄の中から四枚の紙切れをさっと取り出す。

冬真が取り出したソレが、祐紀の出したものと同じものだったから――。


「え゛!? なんで冬真が持っとっとね?」

「知り合いから貰った」


 周りの連中が驚愕の表情を浮かべる中、冬真はさらりと事情を要約して伝えた。


 ――しかし、改めて思い返しても……名護さんがこんな粋な計らいを企てていたなんて、な。


 名護の口から「JP’sメンバー(あいつら)とハメでも外して来い」という言葉が出た時には、冬真としても正直驚いた。

けれど続けて「ハメは外すものであって、ハメるモンじゃねーぞ?」と言われると、やはり「あぁ、彼は彼だな(ブレないな)」と思ってしまう。

外見は小学生程度のガキそのものであるのだが、何といっても中身は五十過ぎのエロいオッサンなのだから。

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