表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第8話:貪欲の代償「M」
172/266

18:歪んだ死導(2)

 だからと言って、むざむざと斬られる冬真ではない。

丈長の黒杖・ノートを固く握り締め、森山に対して身構えた。

完全に刀を形成した森山の出方を窺う為だ。 


 そう悠長に考えていたのも束の間、森山の姿が消えた!!


「!? ――ッぐ」


 一瞬にして背後を取られた冬真の背に、森山の大振りの長刀が襲い掛かる。

けれど冬真は持ち前の動体視力と反応速度にて、素早く体を反転させると、両手で握る黒杖でソレを受け止める。

あと数瞬遅ければ冬真は背中から袈裟懸けされる所であった。


「っぶねぇ、なァアッ!」


 ギリギリと力任せに押し斬ろうとする森山を、冬真は力で弾き返して距離を取る為に廊下に出る。

そして生活指導室内に居る森山を視界に捉えると、不気味な薄ら笑いを浮かべていた。


彼の笑い方と、予想を遥かに上回る森山の身体能力上昇も相まって、冬真は多少の焦りを覚える。

武器の構えにしろ、攻撃動作にしろ、攻撃を終えた後の対処にしろ、どれをとっても素人の動きだ。


それでも冬真が押されているのは、動画を早送りをしたかのように、全ての動作が無理矢理早くなっているからである。

ただ早くなっているだけならば目を慣らすだけで対処は出来るのだが、この男は人体の骨格も物理法則も完全に無視する動きをする。


 これでは、今まで培ってきた技術と経験は全く使い物にならない。

それどころか、人間の骨格であるならば“あってはならない”態勢からの剣戟は、戦いの固定概念が凝り固まってしまった冬真の意表を突くのに最も効果的であった。


「素人が物騒な(モン)、振り回しやがって。怪我しても知らねェからな」

「ふんっ、貴様がナッ!!」


 右腕の長刀を背後に大きく引いた森山は、素早く左手を前に突き出して指先を揃える。

すると再び指はどろりと溶け出し、指とは違った形を創造し始める。


そうして数秒で再成形した左手は、(にび)色に輝く銃へと変貌を遂げた。

断面を楕円で描く銃身は短く、拳大の口径である。


見た所、薬室(※弾薬を装填する箇所)は無いようで、推測するに弾は自身の血肉から作り出されるのだろうか?


 冬真が悠長に森山を観察しているのも束の間――間髪入れずにその銃は火を噴く!


「げっ、嘘だろッ!?」


 砲身は一つだけでありながら、一瞬にして七十二発もの銃弾が射出されたのだ。

その上、前方上下左右に百二十度と、広範囲な散弾ときた。


流石は七つの大罪が一柱、なんでもアリである。

滑る様に空を切る銃弾は全方位に散らばる為、全てを躱すのは至難の業だ。


仮に全てを躱すのならば、全てを見切って高速で避けるか、射程範囲から離脱する方法しかない。

けれど、そのどちらも現実的ではなかった。


 だとすれば幾分可能性の高い、この方法を頼るしかないではないか。


 ――全てを躱す事が出来ないのならば、全て叩き落すまでッ!


「ぉぉおおッ、五十四ッ!」


 冬真は黒杖の重心を片手で掴み、前方で円を描く様に振るう。

一端で銃弾を弾き落とすと、その振るう勢いをそのままに反対側で次弾を(はた)く!

器用に手首だけで黒杖をクルクルと回す(さま)は、さながら大道芸人のようだ。


 回避・防御の技系統の一つである「五十四の段――顎落(がらく)」である。

本来は相手の高速連撃をいなす(・・・)事を目的とした技であり、意識を手首に集中させる為にその場から一歩も動く事が出来ない。

故の防御系の技である。


 数多の銃弾を眼で追いつつ、着実にその数を減らしてゆく冬真。


 と、その時だ!


「い゛っ!?」


 撃墜し切れなかった銃弾が冬真の脹脛(ふくらはぎ)を掠めた。

痛みに目を細める冬真を追撃するかのように、更なる銃弾が襲い来る。

二発、三発と被弾する度に鮮血が(したた)り落ちた。


 撃たれた場所はどれもが急所を外してはいるものの、疼き・焼ける様な痛みが全身を駆け巡る。

今は混鏡世界(テスカポリカ)の影響で身体能力が上昇しているからこの程度で済んだのだが、仮に現実世界であったのならば致命傷は免れない。


「ふっ、無様じゃな」

「っせーな。幻装・蒼氷燕架――」

「ほぅ? (わらわ)に幻装・蒼氷燕架(そうひょうえんか)を纏わせる、か。アリアンロッドのお株(・・)を奪う事になるぞ?」

「別に良いだろ――」


 黒杖(ノート)に蒼氷燕架を纏わせると、黒杖の口金(くちがね)部分を握り、森山までの距離を一気に詰める。


「――んんっ……らぁあッッ!」


 そして勢いを殺すことなく手首にスナップを効かせ、龍を模した闘気(オーラ)を纏った突きを叩き込む。

十の段である龍に、幻装・蒼氷燕架を織り交ぜる事により変化した技――【合段・氷龍】だ!

通常の龍の闘気も青白く、骨格も氷の龍を彷彿させるように角ばっている。


 ドゴッ!!


「がッ……はっ!」


 森山は数メートル突き飛ばされると、空中で受け身を取って着地した。

 そうして、その場でゆらりと立ち上がると切れた口を手の甲で拭い、銃口を冬真の額に向けて言い放つ。


「キョウシに抵抗するなど、言語道断ダ。最後まで手を焼かすつもりカ? 糞餓鬼ガ」

「アん? この状況で抵抗しない馬鹿がどこに居る。さっさと幻核(コア)を渡せ――って、おいおい」


 冬真は森山の表情を見て絶句した。

先程の一撃である氷龍は、冬真としても確かな手応えがあった。

それも相対する森山の頬骨が砕ける程の、だ。


 冬真の視界に映る森山の姿は、正にスプラッタ映画に登場するゾンビである。

悪魔であるマモンに長時間憑りつかれた弊害で血色は淀み、肢体は細々としていた。


それは、マモンが森山の血肉を糧にしていると容易に推定出来る程だ。

その上、焦点の定まらない眼は、教科書に載っているドラッグ中毒患者のそれと同じである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ