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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第2話:幻影対策室「J」
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07:混鏡世界(2)

 揺れる電灯の光が、一瞬だけ「奴」を捉えたのだ。

三人は急ブレーキを掛けて、奴から大きく距離を取る。


「なんで? なんでコイツが前にいっと(=居るの)!」

「もー、さっきも言いましたよ。それはここがテスカポリカだからです」


 何故か冬真の隣に居たアリアンロッドが話し掛けてきた。

いつもの様にガラス越しでの会話では無い。冬真と華は、昨日鏡世界(ヴェリタス)に入った時と同じ様な感覚を覚えた。


「なんでお前がここに?」

「だから、今の現実世界は混鏡世界(テスカポリカ)の状態なんです!」


 皆から何度も訊かれた為、アリアンロッドは憤慨したように口調を強めた。


「ちゃんと話しは聞いて下さいよ。現在のここは現実世界(ヴァニティ)でも鏡世界(ヴェリタス)でもなく、混鏡世界(テスカポリカ)。要するに、稀人以外の人間も幻影(ファントム)と干渉できる現象なのです」


 やや早口でアリアンロッドは簡潔に教えてくれた。

口調もいつの間にか普段通りに戻っている。


「通常の混鏡世界は時間経過で解けるのですが――鏡世界(ヴェリタス)の濃度が低い、か。今回は幻核(コア)を破壊すれば解除出来ます。幻核(コア)と言うのは、混鏡世界(テスカポリカ)を展開するためのスイッチのようなモノです」

「成る程、今からやる事は分かったけど、どこにあるんだソレ?」

幻核(コア)情報検索(レファレンス)でおおよその位置を見つける事が出来ます。少し時間を下さい。済みませんが、それまで耐えて下さい」


 アリアンロッドは苦笑いを浮かべ、すぐに情報検索(レファレンス)を開始した。

どうやら打開策は、全力で奴を食い止めるしか無いみたいだ。

姿勢を低くして尾を逆立てているあの幻影(ファントム)を。

しかし昨日戦った幻影(ファントム)とは違い、どこかしら異質な空気を冬真と華は感じていた。

嫌な汗が頬を伝う。

一筋縄ではいかない事を、本能的に悟ったのだ。


「一っ! からの、三ッ!」


 冬真はアリアンロッドを銀杖へと変えて、先制攻撃を仕掛ける。

突きの後に、素早く跳躍して銀杖を廊下に叩き付けた。

けれど相手の反応速度の方が攻撃速度を上回り、冬真の連撃は掠る事も出来ない。

思わず舌打ちが零れた。


「わ、私も戦う。朱雀、行くよ!」


 華が朱雀を呼びすぐに破魔弓へと姿を変える。

それを掴み、華は弦を素早く引いて照準を合わせた。

黒狼の腹辺りに狙いを定めて放たれた矢は冬真の杖術より遥かに速く、目標地点へと到達する。

黒狼は回避しようとも、冬真の攻撃を避けるのに気を取られ、防御行動すらままならなかった。


「ギャンッ! グルルゥ……」


 黒狼は一瞬だけ(ひる)んだが、結局それだけ。

倒すには至らない。

昨日の雑魚とは、やはり一線を画しているのか発火も起こらなかった。

せめて一撃で仕留められれば。


 ――ちぇっ


華は内心で悪態を吐いた。


「な、なんだよ。そこに犬がいんのか?」


 今まで黒狼の姿が見えない恭平だったが、鳴き声が聞こえたようで、二人同様に嫌な汗が頬を伝う。

いや、聞こえたのは鳴き声だけではない。

冬真や華とは違う人の声も聞こえた。


「え、俺が? ふふっ、オーケー! やってやるぜ!」


 恭平は独り小言を呟いている。

冬真と華も気が抜けないので、無防備な恭平に対して十分に気を掛ける事が出来ない。

何せ攻撃を受けた反動で凶暴化しているから、目で追って辛うじて防ぐのが関の山。


「クソうぜぇ――華、伏せとけ! 七ッ!」


 いい加減、防戦一方の冬真は痺れを切らして攻勢に出る。

【二の段・円】よりは出が遅いが、広範囲の横薙ぎ――【七の段・旋】である。

冬真の狙いを見切っていた黒狼は、大振りの銀杖を跳躍して軽々と回避する。


「手柄はやる」


 横目で合図していた冬真は、止めを華に任せた。

流石の黒狼も空中では身動きは取れない筈、と踏んだワケだ。


「サンキュ! 今度こそ――貫けッ!」


 放たれた矢に昨日見た炎より大きい炎が纏う。

(やじり)が炎で更に鋭利さを増し、急激に加速した。

それは凶暴化した黒狼の脳天を貫通した――かのように見えた。


「アレを避けたのか? 化物かよ!」


 思わず目を疑いたくなる。

黒狼は上手く上体を捻りすれすれで華の矢を回避したのだ。

そして奴は足のバネを使い着地した瞬間、華の矢と同程度の速さで突っ込んできた。


「チッ!」


 これは避けるべきだ。

そう考えた二人は横飛びで避けるのだが――。


「なッ! 避けろ、恭平!」


 二人が止む無く避けると、その後ろには避難していた無防備の恭平が居た。

流石の冬真も、引き返そうにも間に合わない。


「契約だ! 気高き帝獣、力を解放しろ!」


 二人が「恭平は()られた」と、そう覚悟した時だ。

恭平が叫ぶと同時に、彼の周りを何かが包み込む。

突如出現したソレにより進路を阻まれた黒狼は後ろに跳躍して三人と距離を取った。

恭平を包むその物体はゆっくりと離れて身構える。

黒狼に負け劣らず深緑のフサフサの体毛。

黄金に光る蹄は(みかど)の象徴だろう。

臙脂(えんじ)色の(たてがみ)を優雅に(さら)し、高い位置にある神々しい面構えからは鋭い眼光を狼に向けて放っていた。

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