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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第2話:幻影対策室「J」
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06:混鏡世界(1)

◇ ◇ ◇

 侵入場所は真琴と同じ一階西の女子トイレ。

夜に校舎内に入れるよう段取りを済まし、一時解散とした。

三人は某防犯セキュリティ会社のいつも見回りが手薄な一階の家庭科室の窓の鍵を開けていた。

 ――つもりだった。


「マジかよ、閉められてんじゃん。どーすっと?」


 深夜に再び集まって、開けておいた窓まで行くと閉まっている。

どうやら今日に限って見回りが来たようだ。

恭平を始め冬真と華からは、思わず大きなため息が出てしまう。

どうしたものかと再び入れる場所を探す事にする。

分かれて探そうとした時に、冬真は窓に映るアリアンロッドの姿を見つけた。


「冬真、お困りのご様子ですね! 私にお任せください!」


 そう言ったアリアンロッドは、冬真にもっと近くに寄れと手招きをする。

なんの警戒も無しに近づいた訳ではなかったが、例の如く腕を捕まえられてしまう。

振り解こうにも彼女の力が強過ぎて、簡単に鏡世界(ヴェリタス)へと引き込まれてしまった。


「さ、レファレンスを開始しますよ?」

「レファレンス?」


 冬真は聞き馴れない単語に反射的に訊いてしまう。


鏡世界(ヴェリタス)現実世界(ヴァニティ)はどこで繋がるかは入った場所以外はランダムで決まります。ですので、こうして情報検索(レファレンス)が必要になってくるのです。おや、見つけました。あの鏡が現実世界(ヴァニティ)と繋がっています」


 そう言った彼女が指差した鏡に近づくと、冬真は(てのひら)を押し付けてみる。

するとズブズブと腕ごと飲み込まれていきそうになった。

どうやらちゃんと通る事が出来るようだ。

思い切って体を押し入れると鏡を抜ける事が出来た。

外には華達が見え、侵入が成功した事を実感する。

素早く窓の鍵を開けて二人を校舎の中に入れた。


「……冬真、それどうやったんだ?」


 中に入り西トイレに向かって廊下を歩いていると、恭平が奇怪な視線を冬真に送りながら訊いてきた。

当然これにも正当な理由はあるが、実際の所とても信じられる話ではない。

少なくとも頭の固い恭平では無理だろう。

ただ「どうせ解らないから説明しない」が通じる恭平ではないので、冬真はダメ元で幻影(ファントム)について知っている事を話した。

すると黙って聞いていた事にも驚きだが、それを信じた事の方がもっと驚きだった。


「ふぅん? 稀人だけが使える力、ね。なんかお前らって正義の味方って感じじゃん? じゃあさ、何かあった時は守ってくれよな?」

「お前、驚かねぇの? ンな有り得ない話してるつーのに」

「魔の領域が実在するって事が分かってから驚き方忘れちまったよ。それに、ただの生徒にあんな芸当できる筈無いしな」


 恭平は冬真が窓を通り抜けた事を思い出しながら力なく笑い、少し肩を竦める。

夜に集まってから大分時間も経ち、徐々に恐怖心が和らいでいったのか、他愛無い会話を続けながら目的の場所に辿り着いた。


「華、今何時?」

「えっと…23時56分だから、あと4分くらいだね」


 それを聞き、改めて自分達がどんな立場に置かれているかを実感する。

そうだ。

ここには、遊びで来ている訳では無いのだ。


「一体、何をするのですか?」

「魔の領域ってヤツの調査」


 アリアンロッドが不思議そうに見つめながら冬真に訊いてきたので、彼は簡潔に答えた。

あと少しで何が起きるか分からないから、今は気が気ではないのだ。


「魔の領域ですか。んー、もしかしてテスカポリカの間違いではないです?」

「ちょっと、遊んでないで冬真! あと10秒で0時だよ?」

「あぁ、分かってる。皆、気を付けろよ」


 アリアンロッドの不可思議な発言は取り敢えず置いて、三人は目の前に集中する事にする。

あと数秒。

三人は各々に秒読みを始め、ゼロになった瞬間――それは起こった。

音だ。

何かが近づいてくる音。


 ズズ……ズズ……


 まるで布切れを地面に引き摺る、そんな音。

嫌に大きく、無機質な部屋に恐ろしく不気味な程に響いた。


「な、なによアイツ……」

「は? 何もいねぇじゃねーか」


 まだ便所の中に三人は入っていないが、一番奥のトイレから威圧的な何かが近づいて来るのが感覚で分かる。

少なくとも冬真と華だけのようだが。

全身ドス黒い体にフサフサした毛並み、黄金に煌めく二つの瞳は三人を見下すように睨んでいる。

現れたそいつは犬、と言うよりも狼の方が妥当だろう。

大型犬のように「グルル」と低い唸り声を上げて威嚇している。


「ンだよ、なんかやべーのか? だったら一旦逃げようぜ、な?」


 恭平が言うが早いか、三人の考えは一緒だったらしい。

次の瞬間に三人は、黒狼に背を向けて全力で走った。

目の前は真っ暗。

頼みの綱は各々が手に持つ懐中電灯のみ。

だがそれは激しく揺れて当てにはならない。

とにかく三人は黒狼から全力で逃げ切る事だけを考えた。


 いつまで続くか分からない、長い廊下。

いつか壁に激突するだろう事は目に見えていた。

しかし、どんなに走った所で廊下の終わりは見えて来ない。


「ちょ、ストップ! ストップ!」


 唐突に華が声を荒げた!

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