表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第7話:闇夜と制裁「N」
151/266

42:複合幻影VSタナトス(14)

 ――それでも、これは理屈じゃない。

義理と人情は貫き通す!

必ず貫いてやるさ。


「フン、素直に「助けたい」と言えば良いものを。理由付けしなければ動けないとは、主は(まこと)に面倒な生き物じゃな」


 降下途中でノートからそんな皮肉を投げ掛けられたが、冬真は頑として無視を通し――漸く煉に追い付いた。

冬真は煉の襟首を鷲掴みにして、自身の足に急ブレーキを掛ける。

とてつもない速度で急降下したのだから、足には相当な加速度が負荷しているに違いない。

それでも冬真が平然と地上へと着地できたのは、(ひとえ)にフリンファクシのお陰なのだろう。

冬真は「義は返したからな」と言わんばかりに、煉の襟首から手を放した。


「はっ、はっ……あンた、楽しそうじゃね―か! 仲間に入れろよ!」


 すると煉は乱れた呼吸を整えながら、冬真に話を持ち掛ける。

これは別に「共同戦線を張ろう」などと甘い考えからのものでは無い。

煉の性格上、単純に楽しそうだから、だ。


 そうそう性格は変わるものでは無いと理解はしているものの、遊び感覚の煉に対して冬真はげんなりとした表情を浮かべる。

これが真正の戦闘狂という者なのだろう。


「何故あの時、防御しようとした? 妾にもあれくらいの芸、ワケないぞ?」


 そんな事を考えていると、声を大にしたノートが棘のある事を言う。

無論、煉に聞こえる様に言ったに違いなかった。


「あンだ、文句あんのか?」


 案の定、面白い様にすかさず噛みつく煉。

一方のノートは彼の反応に対してハンと一笑し、続けて煉に断言する。


「ハッキリ言おう。主は制裁の邪魔じゃ。早急(さっきゅう)に失せろ」

「おまっ、俺を誰だと――」

「そうじゃな、勿論主の事は一切知らぬ。じゃが、未だ小言を続けるのなら……複合幻影(プラティス)の前に、先ずは主を叩き伏せようぞ?」


 ぞくっと背筋を凍らす程の威圧が、黒杖から煉へと向けられた。

言葉一つ一つに、殺意さえ感じられる。

ったく、本当に狂っているのはどっちだよ、と冬真もツッコミを入れたくなる程だ。


 煉にこれ以上の言葉は要らなかった。

身を縮こませる勢いで幻影(ファントム)の武器化を解いた煉は、少し遠い細い路地に身を潜める。

冬真からしてみれば、あれだけ大口を叩く奴が……大概に惨めだなと言わざるを得なかった。


「これでよい。さ、各部位の媒体を叩き斬って終わりじゃ」


 既に殺意を胸の内に仕舞い込んだノートは、ケロッとした口調で難しい事を簡単に言ってくれる。


「ンな簡単に言うな」

「好機を逃していた奴が()ぉーほざく台詞じゃな。ほれ、また好機じゃ。これも逃すのかえ?」


 言うが早いか、冬真を覆う大きな黒い影が一つ。

形状から察するに複合幻影(プラティス)の足だろう。

上を見上げれば、複合幻影(プラティス)が冬真を再び踏み潰さんとしていたのだ。

目前に迫る蒼白で巨大な足。


「チッ! またこれか!」


 一番堅実な対処法は、今までも行なってきた「つっかえ棒作戦」だ。

銀杖と黒杖が座屈しない限り有用――。


「阿呆! 引いてどうする! 圧せ! 叩き斬れ!」


 ノートの一喝に驚き、冬真は反射的に黒杖を振るった。


「く、そ!」


 利き手下段から遠心力を活かしながら、頭上まで一気に振り上げる。

どういう立ち位置でも比較的出しやすい技、二十二の段・月跡だ。

黒い軌跡で半弧を描くその一撃は、さながら黒い三日月の様。


 ザシュッ


 ――迫る巨大な足を斬り裂く!


「ギャァア……た……アァアアァアアッ!?」


 その瞬間、赤黒い血を辺りにボタボタとぶちまけた。

足を両断――とまでいかなかったが、それでも薄皮一枚で繋がっているような状態だった。

今までは本の数センチ切りつける事が関の山であったのに、急激な良い変化だ。

とは言え、それに対して疑問が残るのもまた事実である。冬真は少しだけ小首を傾げた。


「今……なんで?」

「よう見てみ。刃渡りが伸びているじゃろう?」


 ノートに言われて気付く。

手元の銀杖と黒杖が、夜刃穏杖の形状はそのままに刃渡りが四倍程になっていたのだ。

杖を取り巻く靄も色濃く、長い尾を引いている様な印象を受ける。

性能が変化した、とでも言うのだろうか?


「ふふっ、知識不足じゃな。夜刃穏杖の性能は、使用者である「冬真の手腕」と「夜更けの度合い」に比例するんじゃ」

「へぇ、こうなる事が分かっていて突っ込ませたってワケか」


ようやく合点がいった。

高々五十センチメートルの刃渡りで一体何が出来るのかと思っていたが、そういう事だったのか。

納得をしている冬真に、ノートは更に快弁する。


「まぁの。それと、夜刃穏杖の最も恐ろしい特徴、それは――」


 ノートが話を続ける中、複合幻影(プラティス)が懲りずに右腕を振り下ろしていた。

また蟻の様な存在を潰しに掛かるのだろうが……攻撃が効くと判れば、後は攻め有るのみだ。


 何度も見た複合幻影(プラティス)の攻撃モーションは、既に身体と感覚の両方に刻み込まれている。

故に反撃のタイミングは完璧だ。


 冬真は黒杖と銀杖を、逆手側下段で二本を沿えるように素早く構え直す。

二刀流でもなく、ましてや両利きでもない冬真の初の試みだ。

今までの様に突くのではなく……奴の戦意ごと、叩き斬る!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ