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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第7話:闇夜と制裁「N」
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32:複合幻影VSタナトス(4)

 幻影(ファントム)の事など知らず普通に生活していたら、この様な体への負荷はまずもって無い。

初めての感覚に冬真は困惑していた。


初めて対峙した時に、恭平と耐え忍んだ時よりも遥かにダメージ量が大きいのだ。

以前よりも力が増しているのだろう。


そもそも、ただ足を降ろしただけでこの破壊力。

路面を超大型の亀甲クラックが奔っている所からも、衝撃の規模を物語っていた。


その場に一般人が居なくて本当に良かったと思う一方、漸く危機的状況に気付いた一般人は避難を始める。


「誰だよ、映画の撮影だとか言った奴!」

「あれってホログラムとかARの類じゃないの?」

「だから私は逃げようって言ったのに!」


 騒音とも雑音とも取れる悲鳴の中、辛うじて聞き取れるのは何とも不毛な声の数々。

今、そんな事を言っている場合ではないのは火を見るよりも明らかである。


この期に及んで、まだ疑っているのか?

避難誘導する手間が省けたが、流石の冬真もこれには呆れていた。


「ったく、こんだけデカけりゃ、どこを叩けばいいかわかんねぇ――」


 利き手下段から半孤を描くように振り上げ、複合幻影(プラティス)の足の甲を狙う。

二十二の段である月跡だ。


「よッ!!」


 蒼氷燕架で青に彩られた銀杖の軌跡が、厚さ三メートルもあろう足の甲を数センチほど切りつける。

そう、たった数センチだ。

柔らかそうに見える白肌は意外にも硬く、お世辞にも手応えもあるとは言えない残念な結果となった。

しかしながら戦闘中に長々と考察する時間は無い。


 ――へぇ、払い技が効かないのか。だったら――。


素早く攻撃方針を切り換え、冬真は突き攻撃を繰り出す。


「だぁアッ!」


 銀杖を両手で持ち、全体重を乗せて渾身の突きを放つ――十六の段・衝だ。


「ごがぁァあアッ!?」


 態勢が少々崩れてしまうのが難点の技だが、効果は上々である。

冬真が想定していたよりも、より深く突き刺さったのだから。

幻装である――氷の十字槍――氷蒼燕架も大きな要因なのだろうか。


どちらにしろ、とにかく色々とダメージの検証をしてみる必要があるな。

冬真は可能な限り銀杖を素早く引き抜き、複合幻影(プラティス)から距離を取った。


 複合幻影(プラティス)の赤黒い血がべっとりと付着している銀杖を見て、不快な表情を浮かべながら血振りを行なう。


それでも全ての血は振り払えなかった。

何となくだが手を伝わってアリアンロッドの感情が伝わってくる。


「とーまー! シャワー浴びたいです!」


 無論冬真がその感情を汲み取ってあげる訳でも無いので、痺れを切らしたアリアンロッドが声を上げた。


今はそんな事を言っている暇は無いと言うのに、この女は……いつでもマイペースだな。


 チッ!


「ンな!? 今舌打ちしました?」

「別に。シャワーなんて、こいつを黙らしたら、いくらでも入れよ」

「む、ふふ! 言いましたね! 約束ですよ?」


 銀杖状態であるアリアンロッドの表情は見えないが、きっと自信に満ち溢れた得意気な表情をしているに違いない。


「あ? やけに乗り気だな」

「えへへ、「べっつにー」です! てか、冬真? そもそも突き技が有効だとしても、単発での攻撃にしかならない上、強敵と戦う上での必須戦略「ヒット&アウェイ」が厳しくなりますよ?」

「そりゃ分かっている。だからこうして考えているんだろ」


 そんな事、アリアンロッドに言われなくとも冬真には判り切った事である。

だからこうして戦略を考えているのだ。「倒す」や「殺す」では無く、拘束し、沈黙させる方法を。


この複合幻影(プラティス)を辿れば、きっと自称・幻影(ファントム)研究者であるミハエルに行きつける。

冬真はそう考えていた。


「ふふんっ! そんな冬真に、さっぷらーいず、です! 幻術が更新され――」

「タナトスっ!」


 アリアンロッドの声を打ち消す程の声量で、壇が冬真の名を呼ぶ――否、叫ぶ。

それも実名ではなく、不快で不名誉な名であるタナトス、と。


とは言え、今回はそれが正しい事も冬真は理解しているつもりだった。

如何せん、一般人の避難が済んでいなかったからだ。


もしも実名などをこの場で口にしてしまっては、国際指名手配されているタナトスの身元が公に晒されてしまう事は免れないだろう。


冬真は声に反射を起こして壇の方に振り向くと、手招きをする彼の姿を捉えた。


「こっち来い! 作戦会議だ!」


 今度は壇が声量を抑えて言うものだから、冬真は彼の口パクを読解するしかない。

彼とは少々距離があったが手招きもしていた事だし、きっと正解なのだろう。


それに、作戦会議って事は何か複合幻影(プラティス)の情報を掴んだに違いない。

まぁ確かに現状で何か名案があるワケでも無く、このまま一人でちまちまと攻撃をしていても埒が開かない、か。

ここは壇の指示に従うべきだ。


 冬真は即座に身をひるがえすとジグザグに走りながら複合幻影(プラティス)き、壇と共に再び薄暗い路地に身を潜めた。


 一方の複合幻影(プラティス)はギョロギョロと大きな目玉を動かしながら彼らを探している。

複合幻影(プラティス)は躯体が巨大過ぎるが故に、どうにも小回りが利かずに不便そうだ。


「んで、作戦会議って?」

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