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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第2話:幻影対策室「J」
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04:都市伝説(4)

◇ ◇ ◇

 これからその事について詳しく記します。

魔の領域は毎晩午前0時に展開します。

その間にその領域に足を踏み入れてしまうと、もう二度とこちらの世界には帰って来られなくなります。

それが私の妹でした。

私は学校でこの噂を聞き、正義感の強さだけで真相を突き止める事を引き受けますが、やはり一人では怖くて躊躇(ためら)いました。


 そこで同じ学校に通う年子の妹を誘うと快く引き受けてくれました。

実を言うと、妹はオカルト系の話が好きだったので了承してくれる事は薄々感づいていました。

早速夕方の内に準備を済まし、親の寝静まる時間を見計らって学校へと向かいました。

夜の学校は異様な静けさに包まれていて、今にも何かが出てきそうな、そんな気配さえしてきます。

今回調べるのは、噂で一番有力の場所、怪談でも馴染みの深い「女子トイレ」。


 暗い廊下を二人寄り添いながら懐中電灯一つ照らして進みます。

二人でも心細いと感じるのに、一人の時のことを考えるとぞっとします。

びくびくしながら、ようやくトイレに着きました。

いつも見慣れている筈なのに嫌に恐怖を感じます。

携帯電話の時計を眺めて、表示が零時になった瞬間にトイレの中に入ります。

向かい合わせに設計されたトイレを入口に近い所から順に見ていくだけなのですが 、何せ「真夜中」の、そして「色々な噂のたった後」のトイレですからここまで来れただけでも自分を褒めてやりたいくらいでした。


 片側5個の計10個もある個室を懐中電灯の光だけを便りに見て回ります。

1つ目のトイレ、昼間とは特に変わりはありません。

2つ目、3つ目と同じように見ていきましたがやっぱり何も無く、そういったトイレの無害さを感じる(たび)に安心感が出てきました。


 ――最後の扉を開くまでは。


 突如、今までに無いくらいの鳥肌と、思考を停止させる程の恐怖による胸と頭にくる圧迫感に私は襲われました。

妹に目をやると、やはり私と同じ現象に()っているらしく、自分を抱き抱えるように肩の辺りを(さす)って、ガタガタと震えていました。

私自身も恐怖で体は動かず、どうすることも出来ません。

こういう時は冷や汗をかくのでしょうが、私の場合は汗をかく前に細胞が萎縮してしまい、それどころではありません。

それまで無かった、背筋も凍るような威圧感が、そこ(最奥のトイレ)に凝縮されているようでした。

実際の所、目に見える異質なモノは何もありませんでしたが、見えないモノはなんとなくですが、感覚で「ある」と感じました。


 そう考えている内に便器の中心から何やら黒い影のようなモノが延びてきます。

暗いのにも関わらず「黒」と断言できるのは夜の「黒」ではなく、異質な「何か」であると感じたからです。

即座に危険と判断し、それから跳び退きましたが、妹は既に踏んでいました。

その影は妹の体を這うように広がり、足から頭に向かって進み、体全てを黒で覆い尽くしました。

肌や服など妹の全ては黒に染められました。


 足の(すく)んだ私は、体が真っ黒過ぎて目や口の位置が分からなくなった妹を、ただただ見ていることしかできません。

妹は(あえ)ぎながらも、何やら必死に私に訴えかけてきました。

ですが、掠れた彼女の声を聞き取ることはできませんでした。


 次の一瞬で、妹は消えました――。


 微かに残像で見えたのは、妹に染み込んだ影が便器の中へ戻っていく動きだけでした。

恐らく影が体中に染み込んだらアウト。

つまり獲物の捕獲完了の合図なのだと私は思います。


 取り残された私は気を失い、気が付いたのは夜が明けて生徒が登校する時刻になってからでした。

教師に事情を説明するも相手にされず、軽くあしらわれる始末。

他の生徒に言ってもヤラセだとかオーバーリアクションだと言われて笑われる有様。


 そんな日が何日、何週間続いても妹は一向に帰って来ません。

それどころか友達も先生も近所の人達も、更に両親までも「死亡説や家出説」を唱える訳ではなく、「存在そのものを否定する」のです。

そこで改めて魔の領域の恐ろしさについて感じさせられました。


 ――と言うのが私の体験です。



◇ ◇ ◇

 取り敢えずそこまで読んだ所で句切を付け、三人はノートから顔を上げて見合わせる。

それぞれに思う所はあるのだろう、全員が何か言いたそうな表情をしていた。

最初に声を上げたのは恭平。


「資料だけならまだしも。内容は……これってガチだよな!」


 これまでの周囲の空気を読まない態度とは打って変わり、割と真面目に焦りと恐怖を感じている様子。

恭平の普段とのギャップに、思わず冬真はクスリと笑ってしまう。

一方の華も読む前は嬉々としていたが、今は少し元気が無さそうに肩を落としていた。

冬真的にはそれほど怖いモノでもなかったし、面白くも何ともなかったのだが、彼にとっての問題はそこではない。

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