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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第7話:闇夜と制裁「N」
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30:複合幻影VSタナトス(2)

 真琴は「勿論あんたの奢りで」と付け足すと、手を上げて合図をする。

すると遥か上空から、真琴の幻影(ファントム)おぼしき生物が飛来した。


 肌が(きめ)の細かい藍色の表皮に覆われた少女だった。

大きな瞳はまるで爬虫類のように虹彩が縦細く、夕闇の中だというのにキラキラと金色こんじきに輝いている。


 子ぶりな肢体とは対照的に、背中の巨大な翼が目立っていた。

コウモリを彷彿とさせるその形は、無邪気に笑う彼女を一層に小悪魔仕立て上げている。

腰に掛かる程に長い髪は薄ピンク色に染められ、襟足で二つに分けて結っていた。


 身に纏う衣服は、水着にも似たドレスで、黒色の薄手生地をベースに、中世ヨーロッパの様な幾何学模様の金色の刺繍で縁取られている。


「ねー、ヴィーヴル! これを立て直して!」

「あいあいさー!」


 見るからに活発的な幻影(ファントム)の少女――ヴィーヴルは“はにかみ”ながら右手を額にちょこんと当てて、真琴に向けて軽く敬礼をすると、壇の待つ軽自動車へと近づいた。

そして外見相応の立ち振る舞いを見せる彼女は、横転している車体の前に立つとしゃがみ込み、車体天井部をしっかり掴む。


 余りにも短いスカートを穿く――推定される精神年齢小学校中学年程――少女は無防備そのものだ。

ヴィーヴルの種族的な風習なのか布面積の狭い衣服も相まって、冬真はそっと目を背けた。


 一方の壇は、位置的にも彼女の正対に居る為、普通に見えたのだろう。

そこは大人――むしろ凝視している。


 無論、口にする事は無かったが「こいつ、変な所で(ある意味)強いな」と思えてならない冬真であった。


「よい、しょ……とッ!」


 そんな視線のやり取りなど気付く筈も無い本人は、外見不相応の力で軽々と軽自動車の側面を持ち上げ、瞬く間に車体を立て直してしまう。

彼女の持ち上げる時の掛け声とは裏腹に、その動作は余裕そのものだった。


 台所で五キロ程度の荷物を頭上の戸棚に収納する――ヴィーヴルにとっては、きっとその程度の力しか使っていないのだろう。


「さんきゅッス、ヴィーヴルさん! って、あれ? 開かな――」


いびつに変形した車体から壇が扉を開けて出ようとするが、どうやら開ける事が出来ないらしい。


「もー、開けたげるよー!」


 バキョッ


 ヴィーヴルが「仕方ないなー」などと零しつつ、不穏な音と共に車輌の扉をヒンジ部分からごっそりとぐ。

身体つきは小学生と変わらないし、ましてや筋肉など当然ながら冬真よりも無かった。

一体どこからこれほどまでの怪力が?

とは言え、そうした疑問もアリアンロッドが以前話していた事を思い出し、納得してしまう。


幻影(ファントム)とは人間の潜在能力を具現化した存在であり、元々は実体の無いものである――言い方は悪いかもしれないが、見た目はあくまでも飾りでしかないのだ。


「あ、あざっス!」


 漸く脱出できた壇はゆっくりと立ち上がり、緩んでいたネクタイを締め直すとヴィーヴルに向かって軽く会釈する。

白のカッターシャツを七分までたくし上げている壇は、背も高く紙のようにひょろんとした身体つきをしていた。

黒髪で短髪の壇は特筆するような外傷も見られず、血色の良い肌の色をしている。


 けれど垂れ目のせいだろうか、仕事に対してのやる気も無さそうであるし、仮に接近戦闘に入れば一番にノックアウトされそうな雰囲気を出していた。


「別に良いよー! それに、前にも言ったけど、さん付けも要らな……えッ!?」


 対するヴィーヴルは壇に軽く手を振ってにっこりと笑いかける――が、遠くで爆発音が聞こえた事により、全員の意識が現実へと引き戻された。


 和やかな空気が流れてはいるが、ここは戦場だ。

気を緩める時間など、どこにも無かった。

舌打ちを零した冬真は「ったく、プラティスの野郎か」と内心思いながら、爆発音の方へと視線を向けて歩き出す。


「行くぞ、ロッド」


 そう言って銀杖を固く握り締め直すと、幻装・蒼氷燕架を纏わせた。


「あぁ、ちょっと待って! 俺も援護くらいは出来るから、一緒に行くよ!」


 先を急ぐ冬真の肩を掴み、自分の方へと向き直らせる壇。

自然と右手が前に差し出されているところを見ると、差し当たって握手を求めているのだろうか。


「改めて自己紹介しよう。俺は星ヶ峰壇(ほしがみねだん)JP's(ジプス)では情報解析を担当しているんだ。よろしく!」


 冬真がその握手に応じると、意外にも力強く握り返してきた。

稀人(まれびと)稀人(まれびと)たる程の握力はあるみたいだが、それだと先程のやり取りは何だったのだろうか?


「俺は敷宮冬真。それじゃ――」


 疑問が拭えないままに、冬真は握っていた彼の手を放した。

人の繋がりを新規で開拓するなど、冬真がこの上なく嫌う行為である。


 よって赤の他人との会話を断つ――まして年代や人種も違う人と――など、その意思が皆無な彼にとっては至極当然の事であった。


「あ、あぁ。そんな所も真琴先輩にそっくりだ! やっぱり姉弟なんだね!」


 冷たく突き放したつもりでいた冬真は、壇の華麗な切り返しにやや驚いた顔をする。

どれだけ言葉に対して打たれ強いのだろう、と思わずにはいられない。

さっきの彼の言い分だと普段からこういった仕打ちを受けているに違いない。


とんだ(・・・)ドエムだな」


 思わず冬真は溜息を吐く。


「姉弟じゃない。従姉弟な」


 それと……何事も最初が肝心だ。

今後、語弊があってはいけないと思った冬真は、きっぱりと真琴との関係性を断言する。

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