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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第7話:闇夜と制裁「N」
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27:腕試し(4)

 冬真もその要因が解っているからこそ、煉の戦闘センスは厄介だなと感じていた。

とは言え、そもそも模擬戦の()を超えた攻撃に対峙する冬真も、そして周囲のメンバーも胸騒ぎがする。


 一撃でもまともに攻撃を受ければ、それこそ洒落にはならないからだ。


「くはっ、そんな風には見えねぇ……なァアッ!!」


 錬がその場の地面を強く蹴り――酷く獰猛どうもうで白く大きい躯体を、一瞬にして消した。

かと思えば、次の瞬間には冬真の眼前まで距離を詰めているではないか。


 ――へぇ、戦闘が長引く程に煉の身体能力が上昇しているのか。


 などと冬真が悠長に考察している間に、煉が渾身のボディブローを叩きこまんと上半身を素早く捻る。

軸足である左足に力を篭め、身体のバランスを取る。


「終わりだ、ガキィ!」


 ボディブローとは言え、鉤爪付きの攻撃は打撃ではない上、先程の攻撃同様――いや、それ以上――に危険な一撃だ。

そんな危険な拳を超至近距離で放つ煉。

平然と……いや、苦悶の表情を浮かべている彼は、心身共に限界が近いのだろう。

おそらく、これが最後の一撃だ。


 一方の冬真も、気が引けない戦いだからこそ、逆に驚くほどに脳内が澄んでいた。


 ――最後の一撃だろうが、何だろうが食らう気は無ぇ。少々、賭けだが……ここならッ!


「四ッ! ――三十三ッ!」


 一つの奇策を見出した冬真は、四の段・影で煉の後ろに回る。

本の一瞬だけ、煉をも上回る移動速度で背後を取った冬真。

そのまま棒高跳びの要領で銀杖を地に全力で突き立て、程よく撓った銀杖が地から大きく離れた。

大きく空中に飛び上がった冬真は空中で前宙を行い、両の手に持ち全力で振り下ろす銀杖に加速を付ける。


「っらァアッ!」

「チッ!」


 奇襲により一瞬だけ煉の意識が途絶えた隙を見逃さない。

数瞬遅れでバックステップによる回避行動に移るが――それも冬真にしてみれば想定の内だ。

この三十三の段・らくは、素手で受け止めようならば骨折もあり得る一撃。


 ――ハッ、受け止めきれないと判断したお前は正しいさ。


 本来なら高い打点から棒心を叩きつける打撃技なのだが、今回は打撃としては使わない。

完全な偽装フェイクだ。


 ――幻装、杖鎖刃――


 小声で呟くように叫ぶと、銀杖の端部に空色の鎖と三日月状の刃が瞬時に形成された。

軽快な金属の擦れる音を奏でながら、遠心力と慣性力により、煉目掛けて刃が襲い来る。


幻装・杖鎖刃中に落を使用した理由は一つ。鎖のリーチ(・・・)を活かす事で煉の意表を突く事。

戦い慣れている殆どの猛者は体力消費を抑える為に、基本的に無駄な動きが少ない。

これまでの戦いを見ていたが、無論、藤木煉にもその傾向が強く見られた。

それでなくとも、連戦ならば――相当な馬鹿ではない限り――普通に考えて体力消費に気を付けるだろう。

とは言え、アドレナリン分泌と共に身体能力が急上昇していく煉に攻撃を当てるならば、チャンスは一度きり。

であるならば、完全な奇襲且つ一撃で仕留めなければならない。

だから冬真は回避した煉の「着地予測点」、更に言えば彼の背後に杖鎖刃の刃が来るよう振るったのだ。


 そう、そこが煉の弱点アナ。速さと威力を兼ね備えたこの技なら、目の前の馬鹿を止められる。そう確信しての一撃だ。

杖鎖刃と三十三の段・落の合わせ技、名付けるならば――落鎖刃(らくさじん)

銀杖によるただの打撃だけだと考えていた煉は、一撃目である落を難なく躱したのだが――慣性力と遠心力により背後に迫る刃に気付くには遅すぎた。


「避け切れねぇッ! くっ、クソガァァアアッ!」


 最後の力を振り絞り、急所を外させようと体を捻るが、バックステップ後の空中では思う様に体が動かない。

煉の体には、既に限界が来ていたのだ。

自身を鼓舞するかのように雄叫びを上げる煉だが、努力虚しく次の瞬間には冬真の刃が無防備な背に深く突き刺さる。


 爪先から地面を捉えるように着地した冬真は、銀杖端部を即座に垂直に立てて、煉の背から杖鎖刃を手早く引き抜いた。

すると、ゆっくりと半円を描きながらそれは冬真の手中に収まる。


「たく、頭冷やせよ戦闘馬鹿が」


 ねっとりとした血が付着していた杖鎖刃を縦に振って血を払った冬真は、幻装と銀杖の武器化を解除させた。

そして力なくゆっくりと倒れる煉に向かって、冬真はそう吐き捨てる。


「おう、ご苦労さん」


 恭平の時と同様、周囲で静観していた名護達が近づいて来た。

彼はすれ違いざまに冬真の胸をそっと叩き、そのまま煉に向かって更に歩を進める。

他のJP's(ジプス)メンバーが近づいてくると、夏希が冬真に声を掛けた。


「冬真、大丈夫か?」

「別に。何ともない」

「そうか。なら、良かっ――」


 いつもと同じ反応を示す冬真に、彼女も安堵する。

存外、冬真へのダメージは殆ど無いのだろう。


 ――と、その時だ!

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