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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第7話:闇夜と制裁「N」
133/266

24:腕試し(1)

 ◇ ◇ ◇

 冬真と夏希は鏡世界(ヴェリタス)内の長い階段をくだり、警視庁の正面玄関から屋外へと出た。

異様なまでの静寂に包まれた片側四車線の広い公道――国道一号線。


 普段は街灯の灯りで煌々《こうこう》と照らされ、往来する車輌の走行音が騒がしいくらいなのだが、今は如何せん一般人は居ない。

少々存在が気になるとすれば、周囲で警戒する野良の幻影(ファントム)だろうか。

無論、鏡世界(ヴェリタス)は車輌も走らなければ、街灯はおろか電子機器も使い物にならない。


「ったく……アイツら、どこ行った?」


 暗がりの中で月明りだけを頼りに、恭平と煉の姿を確認しようと冬真は目を凝らした。


 ギィインッ!


 二人の武器が激突する金属音がイヤに響き、鼓膜を震わせる。


「冬真、あそこじゃないか?」


 夏希が指を差した先に視線を向けると、時折小さな火花を散らしていた。

恭平と煉の居る場所は大凡おおよそ、中央分離帯の辺りだろうか?


「そーみたいだな」


 少し離れた所に名護と華、翠子の姿も確認出来た。

華は一心に恭平を応援しているみたいだが、対照的に名護と翠子は傍観を徹底している。

名護達の近くまで行くと、二人の荒い息遣いが聞こえて来た。


 攻撃の間隔や武器の激突音からして、お互いに余力は尽き掛けているのだろう。

煉は高校の中間制服の上からオーバーサイズのコートを纏っていた。もこもことした質感の毛並みと灰色熊の毛皮のコートは異質を放っている。

まるで現代に蘇ったクロマニョン人の雄々しい戦士の様だ。

煉の両腕には鋭利な五本の掻爪が、暗闇の中で怪しく輝いている。

どうやら灰色熊のコートを含め、鋭く長い掻爪が、武器化した状態の煉の幻影(ファントム)らしい。


「これで……どうだッ!」


 恭平が細身の突剣へと武器化した麒麟を下段逆手に構え、煉を目掛けて一気に降り抜く。

相対(あいたい)する煉は素早く前腕を構えて、恭平の攻撃に備えた。


「ふんッ! まだまだァッ!」


 煉は突剣を左腕で受け止め、恭平の腹の肉を(えぐ)らんと、フリーの右腕を真っ直ぐに突き出した。

恭平は迫り来る掻爪を、全力で煉の腕ごと蹴り飛ばす。


「あっ、危ねぇな」


 辛うじて難を凌いだとは言え、そろそろ体力も気力も限界に近かった。

これ以上長引かすのは流石にキチぃな。

肉体的疲労を冷静に鑑みれば、もって後お互いに十分が全力で動ける限界だろうか。


 ――残り一秒に賭ける。


 恭平は模擬戦とは言え戦闘中であるにも拘らず、静かに瞳を閉じる。

集中力を凝縮してあの技(・・・)を最大限に活かす為だ。

最近習得した有用な幻術、神獣の脚(シンティラ)だ――。


 恭平がコードを唱えると同時に、彼の身体を薄緑色のオーラのようなものが取り巻いていく。


「あン? あいつぁ、何を――っ!?」


 ザシュッ


 それは――何が起こったのかと考える隙も与えない一撃。

一瞬にして恭平がその場から消えたと思えば、次の瞬間には煉との間合いを詰め、彼の下腹部から斬り上げた恭平が姿を現す。

突剣を最後まで振り抜いた手応えも十分にあった。


 煉の一瞬の沈黙――。

頼むから、もう向かって来んなッ!


「ンの俺が……――」


 けれど恭平の願いは届かない。

恭平から致命傷を受けた煉であったが、なんと意識を手放さなかったのだ。


 眼で人を射殺せるような睨みを恭平に突き立てると、煉は振り切った状態の突剣を素手で握った。

そして握ったままの突剣を一思いに自身に引き寄せると、煉は頭頂部を後ろに引き――。


「――負けっかぁァアッ!!」


 勢いをつけた額を振り被って、全力で恭平の頭に直撃させた!

生々しくも鈍い音が辺りに響き渡る。

余りの鈍痛に恭平は悲痛な声で絶叫し、白目を剥いて大の字に倒れてしまった。

少し離れた場所で模擬戦を見ていた冬真達は、勝敗が決したと判断して二人に近寄る。


「ぅう……あぁ」


 恭平の顔を覗き込めば、半端に開いた口からは呻き声が零れ、時々痙攣していた。

何だろう、この症状は。


傍から見ればただのヘッドバットを一発だけお見舞いされただけの様に見えたが……結構やばい状態なのだろうか?

打ち所が悪くて最悪死亡――なんて事にはならない、よな?

名護を筆頭にJP's(ジプス)メンバーらは恭平を囲んで暫く様子を見る。

負傷者の体を不用意に動かして事態を悪化する事を恐れた為だ。


 やばい状態と言えば、対峙した煉にも言えた事である。

本の数分前に恭平の突剣で一思いに斬られたのだから、無事な訳が無い。


 ただ、やばい状態と形容した理由は他にもあった。

かつて無い程に興奮しているのか、煉の口は閉じているものの鼻息がもの凄く荒いのだ。

単純に患部の痛みに耐えているのか……何かに堪えている様にも見えるが、詳しくは情報検索レファレンスで調べるのが手っ取り早いのだろう。

冬真は情報検索をアリアンロッドに頼みつつ、再び恭平の方へと視線を向けた。


「ンもー、恭平大丈夫ね?」


 すると様子を見ていた華がとうとう痺れを切らし、恭平に優しく声を掛ける。

そして彼の鼻から垂れている血をポケットティッシュでそっと拭い、恭平の頭を膝の上にそっと寝かせた。

俗に言う「膝枕」だ。


 きっと、恭平が起きていたら飛び上がって喜ぶに違いない。

現にあれだけ、露骨にニヤニヤとした表情を浮かべていれば――って、……んッ!?

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