03:都市伝説(3)
冬真の父親は刑事にして、今では警視総監殿。
だから何か情報を聞いているのではないかと、華は冬真を疑った訳だ。
ただ残念な事に色々と制約があるらしく、家に居ても仕事内容は一切聞く事は無かった。
「知らねぇ。仕事の話は家では御法度だからな」
華の質問に対して冬真は淡泊に答えた。
ただいくら仕事とは言え、これから行く高校でこんな怪事件が起こっているのに注意一つ無いのは流石に可笑しい。
と言うことは「警察ではこの事件は扱っていないだろう」と言う事が冬真の結論だった。
その様子を見かねた恭平は徐々に焦りだす。
「おいおい、真に受けんなよ。そもそもこの事件、新聞にも載ってないんだぜ? 実話だって聞いたけど、怪談話で盛り上げる為だけに話しただけなんだぜ? てかさ、そんな事件が実際にあったらガチで怖ぇよ」
そう言う恭平は、どことなくそわそわしていて、いい加減次の話題に移りたさそうだ。
けれど、これが本当に実話だとすれば放置しておくにはあまりにも危険すぎる。
被害者が分からない上に規則性も判らないし、最悪は無差別誘拐事件なんて事も十分に考えられるからだ。
それに手掛かりが全くない訳ではない。
「――火のない所に煙は立たぬ。単に怪談だったとしても、噂を流した人物は確実にいる。少なくとも一人は学校の中だ」
それまで静かに話を聞いていた冬真だったが、読んでいた雑誌をテーブルの上に置いて断言した。
不真面目に話を聞いていた冬真にここまで言われたのだから、他の二人は調べるしか選択肢はない。
渋る恭平は助けを乞おうと華を見るが、楽しそうにしている華を見て開きかけた口を再び閉ざした。
「わーったよ。じゃあ、これを最初のテーマにしよう」
結局のところ、最後は恭平が折れる形で調べる事になる。
図書室だということもあり、手始めにここで過去の文献を探す事になった。
暫く手分けして探すと案外簡単に情報が出てきてしまった。
何故かは分からないが、恐らく当事者が書いたのだろう古い大学ノートが隅の本棚の裏に落ちているのを華が見つけたらしい。
「ほらほら、探せば出てきたじゃん?」
「ンな事ってマジかよ……呪われんじゃね? 俺ら」
役立たずの男子面々に向かい、満面のどや顔でノートをちらつかせる華。
各々の経過はどうであれ、華が成果を出したのだから、男子二人は愚の音も出なかった。
とは言え、ノートの中身を見なければ意味が無い。
得意げに鼻を鳴らす華はテーブルにノートを広げて、二人の反応を見た。
彼女は「中を見る覚悟は良か?」と、目で訴えている。
だがそれも数秒で、すぐに視線をノートへと落とした。
「ふ~ん、題名は「魔の領域についてのまとめ」か。なんか捻りもなんもないね。名前からしてコレを書いた人は女子っぽいよ? 真琴って名前」
「は? ちょっと見せ――!?」
少し面白みに欠ける題名に対して残念そうに落ち込む華を他所に、真琴なる人物の名を聞いた途端に冬真は目付きを変える。
即座に華からノートを引ったくり、そして表紙を見て冬真は絶句した。
何度見ても真琴と、確かにそう書かれてある。ついでに苗字は坂本。
ここまで、一致しているのならば疑いようも無い。
――この著者は、冬真の「従姉弟」だ――。
「どしたの、見ないの?」
急な出来事に華はびっくりしたが、ノートを取り上げられた事には何も言わず、早く中が見たいのか冬真を急かす。
冬真自身もさっきから高鳴りつつある鼓動を手で押さえ、ノートを一頁だけ開いてみた。
その資料である大学ノートに綴られた内容はこうだ。
◇ ◇ ◇
今日、今までの人生、これから先も含めて一番後悔した日になるだろうと感じます。
もしこれを読んでくれるなら是非とも役立てて、貴女が被害者にならない事を願います。
まず「魔の領域」についてもっと知っていただきたいのですが 、最初に簡潔に表すと、「絶対に普通の人は、帰って来られない」の一言に尽きます。
◇ ◇ ◇
「絶対に帰って来られないって……これやっぱダメなヤツだって! 引き返すなら今のうちだって!」
後ろから覗く恭平はどうしても読み進める事を良しとしないでいる。
一方の華は読み進めるに連れ、気分が高揚している様に見えた。
多数決により、恭平に構わず先を読む事にする。