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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第7話:闇夜と制裁「N」
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18:新人二人(4)

 ◇ ◇ ◇

 昼休みに入り、祐紀に片腕を引っ張られた冬真は屋上へと向かう。

予定通り、華を合わせた三人で昼食を摂る事になったのだ。


屋上には既に先客も居て、暗黙の了解なのだろう、ある程度の間隔をグループ毎に空けて座っていた。

三人は比較的人気の少ない奥の方へと移動し、各々弁当を広げる。

のどが渇いていた冬真は、ペットボトルの緑茶のキャップを開けて口を付けた。


「で、昨日なにがあったと?」


 今し方、出し巻き卵をほうばった祐紀が口火を切る。

それに対し、華が話し出した。


「先生がホームルームの時に言っていた事なんだけど――」


 冬真は思わず茶を吹き出しそうになる。


 ――待て待て待て!

 どうしてそんなに口に含みながら、活舌かつぜつ良くしゃべる事が出来る?

 いつの間にそういった芸を覚えた!?


 とは言え、ギリギリの所で何とか取留める事に成功する。


「昨日、通り魔が捕まったって│言ってたせん《いっていたよね》? それ、一組の幸村とあたしで捕まえたの」


「んん!? どゆ事? ぜんっっぜん、話が見えない」


 それから華は昨日の出来事を大まかに説明した。

一応、彼女も最低限の常識は弁えているらしい。

幻影(ファントム)を使った事や、天音翠子が通り魔を狙撃した事をしっかりと省いていた。


そもそも「あの」華が――いや、だからこそ――真面目に話しても、幻影(ファントム)JP's(ジプス)関連の話に至っては信憑性(しんぴょうせい)は皆無だろう。


「――ンで、華のピンチをいち早く察知した冬真君が「わざわざ」幸村君に連絡したって訳か。ふーん……?」


 相槌を打ちながら話を聞いていた祐紀は、意味深にわざわざを強調する。

いや、ソコに疑問を抱く気持ちは、例え冬真が第三者であったとしても同じだっただろう。


そう――わざわざ、自らは動かずに他人を危険な場所へと仕向けたのだ。常人ならまず考えはしない。

警察に電話する事が最適解なのだ。


勿論、冬真にもそうせざるを得ない理由があった。

直接的な華の手助けをするな――それが、名護から招集を受けた冬真に伝えられた、もう一つの命令だったからだ。

名護の意図も解る。


そろそろ一人ひとりの現場対応力の底上げが必要になって来るだろう――そういう名護の方針が。

いつまでも冬真に頼りきりでは駄目だ――そういう彼の意図が。


だから冬真は恭平へと連絡をしたのだ。

まだ、華一人では対処しきれないだろうが、恭平と一緒ならばなんとか切り抜けられる、と。

これならば直接的にはならない、そう冬真は踏んでいた。


 とは言え、部外者の祐紀にどう説明したものか。

……そもそも説明する必要があるのか?

無駄に情報をバラして知的好奇心を掻き立ててしまわないだろうか?

今後の活動に勝手に首を突っ込んで、悪影響を与えないだろうか?

冬真は考えれば考える程、悪い結果しか想像出来なくなってきた。


「通り魔なんて危険な奴、相手に出来るか。足の速い恭平だったら、華を連れて逃げられると思った。……そンだけだ」


「へぇ……。でも凄いね、その幸村って男子。華と一緒に逃げるだけじゃなくて、ナイフを持っている大人に向かっていくなんて……ちょっとカッコいいかも。ね、華?」


 弁当箱の蓋を閉めながら祐紀が華に話を振る。

相も変わらず租借しながら、器用に発音していた。


「う、うん。じ、実際……胸キュンしちゃった。てへへ」


祐紀同様に弁当箱を風呂敷に包む華の頬は、微かに赤らみを帯びている。

きっと本心なのだろう。

てか、食うの早いな、こいつら。

冬真は二人の余りの早食いに唖然としていた。


――とは言え、いつの間にか乙女‘sトークになっている。

冬真には女子に混じって恋話に花を咲かせる趣味は無かった。


「便所」


 一刻も早く立ち去りたい冬真は一言だけそう言って、その場に立ち上がり、出口へと体を向ける。


「「だ、大?」」


 ――だからなんで恥じらいながら言うんだよ!

 それも二人揃って。そもそも恥ずかしいと感じるなら、口に出すな――って危ない危ない。


そんなツッコミを入れてしまっては、今度こそ華と祐紀から抜け出せなくなってしまう。

そそくさとその場を後にした。


すんなりとその場を抜け出せた事に安堵の息を漏らしつつ、辺りを見渡しながら出口へと向かう。

すると大型室外機の間にアヒル座りする│黒い塊《翠子》を見つける。


今までは存在感がまるで無かった彼女。

最近になってJP's(ジプス)メンバーだと意識してからは、存在を認識するようになった。


視界に入ったとしても、事前に存在を(こういった人物がいるという)認識していなければ、居ないのと同じだからな。


「独りで何してんだ?」

「……昼食です」


 翠子はぽつりと零すように返答する。

いや、それは見ればわかるんだが――と言いたい気持ちを抑え、冬真は会話を進めた。


「いつもここで(食ってんの)?」

「……えぇ、まぁ」


 会話が長続きしないこの感じ――ああ、コイツだったのか。

ようやく冬真にも合点がいった。

冬真は球技大会の日に出会った黒い塊の女生徒(仮)と出会っていた。

そう言えば、あの日もこんな感じで会話がぎこちなかったな。


「そか。今日の放課後、今後について色々と説明するから、昨日の恭平ってヤツを誘ってJP's(ジプス)に来てくれ」

「……分かりました」


 コクリと小さく頷いた彼女は弁当を風呂敷に包むと、トテトテと小さな歩幅で先に屋上を出て行った。

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