02:都市伝説(2)
冬真と華は隣の一年二組である。
教室に入ると、既に過半数の生徒が雑談に花を咲かせている。
ま、全員が二組の生徒かどうかは判別出来ないが。
暫くして担任が教卓の前に立って、日直に号令を掛けさせる。
その後、ショートホームルームを文字通り手短に済ませたところで予冷が鳴った。
どうせ最初は中学の復習なのだろうが、今日は高校で最初の授業。
寝ないように努め、順調に授業を消化した。
放課後になると隣のクラスから幸村恭平が、満面の笑みで入ってくる。
スキップこそせずとも、機嫌が良い事は誰が見ても判るだろう。
冬真の席に華と恭平が寄って来ると、恭平はクックと不敵な笑い声をあげる。
「どげんしたと? なんか良い事あった?」
華はやや心配そうに恭平の顔色を窺った。
「フフッ……あったも何も、良いネタをゲットしてきたぜ!」
「おー、流石恭平! 仕事が早いんだから!」
傍から見ればただの夫婦漫才だろう。
本人達は全く意に介してはいないが、周囲の人間からしてみれば「出来ている」と感じ取られても仕方は無い訳だ。
「……帰ろ」
人の席付近で盛り上がられても迷惑なんだが。
冬真はいつもの仏頂面で、気付かれないようにこっそりと教室を出た――つもりだった。
「は……っ、(何でこいつが……)」
「……、……」
なんとも間の悪い事で、教室の扉のガラスに映っていた朱雀と目が合ってしまったのだ。
朱雀は即刻華とコンタクトを図り、冬真の存在と行為を伝える。
すると華は自慢気にずかずかと歩み寄り、冬真は腕を引っ張られて再び教室の中へと戻された。
「ふ、ふ、ふッ、甘いな少年。キミはあたしから逃れられないよ? さぁ、こっちに来るんだ」
「……たくっ」
冬真は「どこの探偵だよ」だとか「キャラ変わってんじゃん」と激しく思ったが、突っ込んだら負けだと感じた為、敢え無くスルーの方針をとった。
「んじゃ、俺の仕入れた情報を言うぜ?」
「ちょ、ちょっと待って! 場所を移そうよ! 他の人に聞かれたら、ほら! アレじゃん?」
話したくてウズウズしている恭平が冬真と華の間に割り込んで来るが、この教室には人がまだ結構残っている。
華の提案で図書館に場所を移す事にした。
「つーか「アレ」ってなんだよ、具体的に言えよ」
と冬真は思いながら、二人の後を付いていく事にする。
◇ ◇ ◇
三人は閲覧ブース隅の丸テーブルを陣取って適当に腰掛ける。
恭平は静かに話し出した。
「これは七不思議じゃなくて怪談の部類に入ると思うが、教室の隅に居る女子に訊いた話。あんまりハードルは上げたく無いけど、それなりに興味深い話だったぜ? 二人とも覚悟は良か?」
恭平はあざとく生唾を呑み込み、雰囲気を出す。
冬真的には「そんな事」はどうでも良かったが、家に帰れば祖父が待ち構えている。
時間を潰すには丁度良いなと、全く別の事を考えていた冬真だった。
「じゃ、話すぜ? この学校のどこかには女子だけが狙われる「魔の領域」ってのがあるらしい。それがどこにあるかは、まだ特定されてねぇけど、何も知らずにその辺りを歩いていたらいつの間にか攫われる。てのが、ここ何年か前から噂されているらしい。まぁ神隠しの類だろうな。ちなみに犯行時刻は深夜のみらしい。どう、怖いか?」
「うん、うん! それがこの学校に実際に起こっとっとでしょ(起こっているんでしょ)? こりゃ、他人事じゃ無かよ! てかただ事でも無かよ!」
華が興奮気味に椅子から腰を上げて、テーブルに両手をつく。
そして爛々とした目で恭平をまじまじと見る。
どうやら続きをご所望の様だ。
一方の冬真はあまり興味が無く、雑誌コーナーから持って来ていた雑誌に目を通していた。
一応聞いてはいるものの、内心では「くだらない、ただの都市伝説」程度にしか認識は無い。
が、冬真の心を見透かしているのか、恭平も負けじと食い下がる。
「うぉほん! この話は都市伝説だけど、実話なの! てか、その攫われて行方不明になった生徒達ね、どうも行方不明って言うよりも「存在そのものが消えた」って感じらしか。行方不明の生徒の友達に訊いても「そんな子は元々いない。このクラスは元々この人数だった」って事になっているらしい。勿論、クラス名簿にも、生徒の名前は見当たら無い」
恭平の言い分では正に神隠し。
ただ、おかしい点を挙げるならば、攫われた生徒を認識している「人物A」は一体何者なのか、と言う事。
そもそも誰もが「居なくなった生徒」を「存在していない」と認識しているのならば、「人物A」は存在しない事になる。
「なにそれ、ホント神隠しじゃん! 警察は動いてくれなかったと?」
そう言った華は冬真に顔を向けた。
ーーいやいや、俺に訊かれても困る。
何も聞いていない冬真は、華から逃げるように視線を外した。