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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第7話:闇夜と制裁「N」
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10:黒猫(3)

 どうやら華の居場所は混鏡世界(テスカポリカ)の展開範囲内らしく、鏡世界(ヴェリタス)を経由してピンポイントで彼女の居場所に行く事は出来ないのだ。

というのも、混鏡世界(テスカポリカ)は別名として異界化があるが、性質として鏡世界(ヴェリタス)現実世界(ヴァニティ)とも隔離された空間である。


だから、どちらかの世界から地続きで行く事は出来ても、経由して入る事は稀人(まれびと)でさえも出来ない、と言うワケだ。

その上、今回の混鏡世界(テスカポリカ)の範囲は異常に大きかった。


混鏡の境界までは瞬間的に移動する事が出来るのだが、そこから先は走るしかないのだ。

そこで麒麟から話があったのが、シンティラについてだった。


取り敢えず恭平は、現時点で自分が知っている事だけでも話す事にする。


「ああ、あれは瞬間移動じゃなくて……殆ど音速の速度で走ったんだ」

「? 音速!?」


 華は更に目を輝かせて驚いた。


「そっ! 麒麟が教えてくれた新しい幻装・シンティラを使ってな!」

「へぇー、良かなぁ! 便利そうやらい(じゃん)!」


 恭平の足先から頭頂部、更には突剣状態の麒麟をまじまじと見つめながら華が言う。

まぁ確かに華の言う通り、便利な能力だと恭平自身もそう思った。


それと同時に、彼の頭にも別の考えが浮かんだ。

小説やテレビ・ゲームなどには、特異な能力が付き纏うし、それには制限や代償がある。


きっと、この幻装にも当然あるのだろう、と。


「けど、制限つきだぜ? 麒麟が傍にいる鏡世界(ヴェリタス)混鏡世界(テスカポリカ)に居る時で、一日十秒以内のみ使用可能らしい」


 口を尖らせながらぼやく恭平は、あからさまに不服そうだ。

一日の内に十秒はかなり少ないと思う。

まぁ、そもそも活用しない状況である方が、正直なところ一番なのだが。


「それもちゃんと考えているんでしょ? 麒麟ちゃんは」

「ンん、まぁそうなんだろうけど――」


 華にそう言われてしまったが、言い淀む恭平はやはり納得はいかないらしい。

そんな表情をしている。


「今、鏡世界(ヴェリタス)について話していましたか……?」


 ぼそぼそとした口調の声が、不意に背後から聞こえた。

声の主はおそらく、黒猫もとい犯人の女生徒だろう。

とは言え、今はそんな事はどうでも良かった。


何故、彼女が混鏡世界(テスカポリカ)の存在を知っているのか、と言う事だ。


「ああ、そう言ったけど?」

「なら、貴方達も稀人(まれびと)……って事ですか?」


 黒猫は小さな声で現実を確かめるように訊いてきた。

もしかして、とは考えていた恭平だったが、どうやらやはり彼女も稀人(まれびと)らしい。


だとしたら、益々見逃せなくなる。

JP's(ジプス)に加入する時に真琴に言われた一言――幻影(ファントム)犯罪者を捕まえる事も仕事である、と言う事が脳裏を過ぎったのだ。


同じ学校の女生徒を警察に突き出す事は、恭平も華もどこかしら気が引ける。

とは言え、明らかに犯罪者である少女をみすみす見逃す事は、犯罪助長とも取れてしまう。


結局ここは、仕事と割り切るしかない。

二人はそう判断した。


「もちろん。それに俺達は、お前みたいな犯罪者を取り締まる側の人間だ」

「は、犯罪者? わたし、そんな……」

「つうわけで、一緒に来てくれるよな?」


 恭平は彼女が逃げないように肩を抱える。

その瞬間、彼女が小刻みに震えているのが分かった。

そして彼女の小声で呟く言葉が、途切れ途切れに聞き取れる。


「新手の通り魔から、私、貴女を助けた、のに……」

「え、今なんて?」


 すると今度は、恭平は出来るだけ穏やかな口調で問う。

黒猫は今にも泣きだしそうな片言の愚図(ぐず)ついた声で喋り出した。


「私が貴女を助けたんです。通り魔から」

「? えと、ぇぇええええッ! 通り魔!?」


 彼女の言った事の意味を、華が脳内で?み砕くには数秒を要する事になる。

隣で聞いていた恭平も目を見開いて驚いていた。

それと同時に、二人は身の毛もよだつ寒気も感じる。


 世間とは余りにも狭いものだとは……。

まさか、こんな身近に不審者――それも最近話題の通り魔――に襲われるなんて、今の今まで思いもしなかった。


「ニュースで話題。新手の通り魔、今……南下中」

「マジか、知らんかったゼ」


 恭平にとって、勿論華にとってもその情報は初耳である。

そもそもが窃盗や強盗、ましてや殺人などの大きな事件はこの辺では起こった事が無い。


最初(はな)から「そのような不祥事」は起こらないと言う固定概念が、この町には古くから根付いていたのだろう。

故に二人は――いや、町民全員を対象として――完全に他人事だって思っていた訳だ。


「そ、それより新手の通り魔って?」


 強張った表情のまま、華はおずおずと少女に訊ねる。


「聞きたい、ですか?」


 そう訊いた少女に、華は静かに顎を引いた。

相対する少女は「……そう」と儚げに短い返答の後、たどたどしい口調で質問の答えを紡いだ。


野暮ったい不揃いの前髪で、至って表情は見えないが――おそらく無表情なのだろう。

闇夜に紛れるかのような抑揚の無い声調が、それを物語っていた。


恭平は少女から一通りの経緯(いきさつ)を聞いたが、あまりにも聞き取り辛かった為に、自身の理解も含めて脳内で整理する。

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