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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第6話:球技と特務「B」
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21:特務(8)

 ぼやきながらも冬真は目を細めて「その変化」に全神経を集中させて、視る。


「まさか……っ! 馬鹿! (そこに)近寄るなッ! ロッドも逃げるぞ!」


 一番に気付くべきだった事に、どうやら冬真は漸く気が付いたらしい。

それもそうだ。

L型アングルが地盤に沈んだ一番の原因は、アリアンロッドの身体能力にあるのだから。


 そして、L型アングルはいつまでも地下深くに沈み込む筈が無い。

いずれ、どこか硬い地層や(がん)で止まる。

そして行き場を失った膨大なエネルギーは、地盤からの摩擦を加味しても自然消滅は考えにくい。

だとしたらエネルギーは(がん)で跳ね返り、地上へと噴き返すしか無い!


 ――つまり、地面が盛り上がるという事は、地中内部からのエネルギー放出の予兆だと推測出来る。


 爆発的な力が地上に噴き上がる事は目に見えて判るが、問題はその威力だ。

さっきの戦車の砲弾六発分程度なら良いが……こいつは、デカい。


「はーい!」


 冬真の警告をゆったりと聞いていた彼女は特に警戒した様子も無く、あくまでマイペースを貫き通していた。

そして理由は異なるが現状に気付いていない輩が、未だにアリアンロッドの体を求めている。


 品性の欠片も無い顔が八つ。

その下衆顔で見つめられた彼女は、あまりの気持ち悪さに彼らを直視できないでいた。


「って、触らないで下さい!」


 近づいて来た米兵達に服を掴まれた瞬間、粒子化して彼らの間をすり抜けると、銀杖の状態で冬真の手元に戻った。


「な……人が、消えた!?」


 現実にはあり得ない光景を目の当たりにし、男達の表情には驚愕と畏怖が入り混じる。

突如ヒトが光の粒となって消えたと思えば、次の瞬間には銀色に光る棒へと姿を変えたなんて、到底信じられるものではない。


 目をこすり、必死に現実を見ようと試みる米兵達に、冬真は鼻を鳴らした。

どれだけ現実逃避しようと、これが現実なのだからしょうがない、と。


「残念、コイツは人間じゃねーんだ」

「な、どういう事だ!?」


 冬真は少年を肩に担いで事実を述べながら、先ほどの地面の膨らみに気を掛ける。

それは十数秒前よりも俄然、大きくなっていた。


 ――こりゃ、そろそろ限界だな。


 更に混乱を極める彼らを背に、冬真達は早急にその場を離れた。

これ以上、この場に居続ける事は危険だったからだ。


 少年を背負っていた事もあり、冬真は全力で走った。

地盤の膨らみは、見る見るうちに大きくなっていく。

それはまるで、大爆発の発生を秒読みしているかのようで――。


 ドンッ!!!!


「うぉっ! ……間一髪だな」


 次の瞬間、冬真は思わず耳を塞いでしまった。

膨大な量のエネルギーの逆流(大爆発)が起こり、覆っていた表層土を根こそぎ吹き飛ばしたからだ。


 消し飛んだ後の地盤――いや、既に(がん)が露出しているが――はまるでアリジゴクのように半球面状に(くぼ)み、中心にはL型アングルが突き刺さっていた。


 予想外にエネルギーの放出元は浅く、球面の半径は目測でも三十メートル程だろう。

それでも辺りに散乱していた鉄骨やRC(鉄筋コンクリート)の残骸が爆発跡の淵まで綺麗に吹き飛んでいる事が、爆発の規模を物語っている。


「ええ、本当に。冬真……あの兵隊さん、死んじゃったんです?」


 冬真の呟きに反応を示したのは、すぐ隣に居た彼の幻影だった。

けれどこの惨状を目の当たりにしては、それは愚問としか捉え様が無い。

爆心地を覗く少女は(うれ)いた表情で瞳を閉じると、胸の前で十字を切る。

いくら本能に忠実な男達であっても、人はヒトだ。

せめてもの供養のつもりだろうか?


「だろうな。あのおっさん達が稀人ならもしかしたら……って、うざ」


 アリアンロッドを(なだ)める言葉を見つける間も無く、米軍の大部隊が散開しながら接近しているのを視界に入れた。


 まだ距離はあるが、荷物(保護対象の少年)を背負っていては、追い付かれるのは時間の問題だろう。

それもこれも、先程の大爆発が原因だという事は言うまでも無かった。

それに加え、遠くの高台に展開している六輌の戦車の重い砲塔が、一斉に旋回を始めた。


 「事」を穏便に済ます気は、どうやら米軍は考えていないらしい。

「保護対象である事」を知らなければ米軍にとっては、少年を助けようとした冬真を、少年の共犯だと認識してもなんら不思議ではない、か。


 だとしても、こんな見ず知らずの土地で最期を迎えるなんて、死んでも死にきれない。

(もっと)言えば、仕事で命を落とすなんて糞喰らえだ。

そもそも死ぬつもりは無い。

考えるだけ時間の無駄なのだ。


 この状況で足を止めれば、それこそ肉片となってしまう。

だからこんな逆境でも、動いてさえいれば杞憂で終わる。


 いや――。


「終わらせるッ!」


 仏頂面で感情での起伏の少ない冬真であったが、この時ばかりは眼に力が宿っていた。

眼力、とでも言おうか――いつか見せた、痛い程に冷ややかな眼光を戦車に突き立てている。

どうやら決心が固まったらしい。あの戦車達を黙らせる、と。


「もう、そんなに惚れさせないで下さいよ!」


 すると、アリアンロッドは頬を紅潮させて(よろこ)んだ。

まったく、面倒くさい性格していやがる。

冬真はため息を長々と吐き出した。

元より、当の本人である冬真にその意図は全く無かったからだ。


「たく、黙ってろ」


 いちいち(いら)つく言動だな。

アリアンロッドの方へと振り向いた冬真は、自身の掌を握って拳を作る。

パキパキっと鳴る、気持ちの良い骨の音がアリアンロッドの表情を曇らせたのは言うまでもない。


 そうこうしている内に、突如として高台から信号弾が撃ち上がった。

先程もあった、戦車部隊の砲撃合図だ。


 すぐさま巨大な砲口は一斉に火を噴く。

耳を(つんざ)く様な激しい砲撃音が、遠くで立て続けに鳴り響いた。

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