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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第6話:球技と特務「B」
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15:特務(2)

 ◇ ◇ ◇

 放課後になり、JP's(ジプス)の窓から入室すると、だらけた切った姿の名護が冬真の到着を待っていた。

パイプ椅子に深く腰掛けて長机に両足を乗っけ、煙草をふかしていた。

灰皿の吸殻を見る限りでは相当長い間待っていたらしい。

いつ頃来るなど、一言も告げていなかったから仕方がない。


「おう、来たな」


 名護は立ち上がると灰皿の(へり)に煙草を押し付けて鎮火させ、備え付けの小型テレビのスイッチを入れる。


「で、用は?」

「ふっ、妙にヤル気だな。だがまぁ待て。これを見ろ」


 名護に言われるがままにテレビの画面に視線を向けると「アメリカのカリフォルニア州、工業都市で破壊テロか!?」と左上にテロップが表示され、悲惨な現状をありのままに報道されていた。


「あー、これか。朝も見た。なんでも現地の警察の証言だと、犯人は子供とか言っていたな」

「そうだ。ンで、まだ保護されていないらしい。……あぁ、誰かこんな危険な少年を捕まえてくれないかなぁ」

「……、下手糞な演技をドーモ。どうせ捕まえて来い、とでも言うんだろ? 無茶振りにも程がある」


 少し間を置き、そうでない事を祈りながら冬真は訊く。

無駄だと分かっていながらやってしまうのは、きっと人間の性だからなのだろう。


「無茶振りしたつもりは無いが、まァそんな所だ」

「意味分かんねぇよ。大体、俺らの仕事って混鏡世界(テスカポリカ)が発生した場合の対処と、その被害者の救出と……後は真琴の補佐だったじゃねぇか」


 そもそも、どれだけ人手が足りていないにしても、あまりにもおかし過ぎる。

けれど冬真の反論に対して名護は、ただ短く笑い、とうに冷めた茶をすする。


「これだから少年は……。そもそも「だけ」なんて、俺はヒトコトも言ってねぇぜ? それにお前は、他の連中と違って「特A潜在」で貴重だからな。これからお前だけは単独の業務をこなしてもらう。部活もバイトもしてないお前なら、ちょうど良い小遣い稼ぎだろ?」

「あッ? ふざけんなッ」


 あまりにも横暴で失礼な物言いに頭にきた冬真は、机を叩きつけて名護を睨み付ける。

少し強過ぎたのか(てのひら)がじんじんと痛むけれど、今はそれすらも気にしないほど苛立っていた。

けれど、同時に頭に血が集中したからか、不覚にも一瞬だけ立ちくらみをしてしまった。


「大いに真面目だ。その子供だが、戦闘機の砲弾を難無く(しの)いだらしい。これが意味すること――解るだろ? 現代の軍用兵器でさえ通用しないって事は……?」


 米軍の砲弾の威力がどれほどの威力があるかなんて分かりようが無いけれど、きっと建物一つなんて木端微塵に出来る位の力はあるのだろう。

それを踏まえて、人間が――ましてや子供が――難無く凌ぐなんて、最早人間業では無い。

一つ可能性があるとすれば、その少年も稀人に属するのだろうと、冬真にも容易に想像出来た。


「俺達と同じ存在って事」

「そゆ事だ。それも小学生で、それだけの力がある事を加味するなら、お前と同じ「特A潜在」の可能性も考えられるな」

「俺ならなんとかなる、て事か?」

「ああ、そうだ。「事を処理」出来る見込みが無かったら頼まん。まずは体調を整えて、土曜に現地に向かってくれ」


 そう言うと名護は席を立ち、出入り口のドアノブに手を掛ける。

この時、冬真の気が本題から完全に逸れている事に、彼自身気付かなかった。


「そもそも、その間にガキが移動するって心配は?」

「その心配はゼロだ。外見等の情報はそれに入っている。じゃ、頼んだぜ」


 そう言うと机の上の資料を指し、部屋を出て行った。


「……乗せられた?」


 名護が部屋を出て行ってから漸く気付き、冬真はその場に呆然と立ち竦んだ。

やりきれない気持ちを抑え、取り敢えず残された資料を手に取る。

その内容は少年の基本的なプロフィールで、様々な項目を箇条書き形式で纏めてあったのだが、その殆どが不詳と記載されていた。


 分かっている事項と言えば「西洋の少年で身長は百三十センチ代、頭髪は短髪で赤褐色。

服装は大部分が泥で汚れており、生地もボロボロ。備考として推定七メートルの大型鉄鎚を所持」という事のみだ。


 ーーこんなんで……。


「分かるかッ!」


 前回も無茶苦茶な指令だったが、今回の方が難易度は格段に上がっている。

腹の立った冬真は、思いっきり資料を床に叩きつけた。


 まったく、冗談じゃない。

そもそも、まだ引き受けるなんて返事はしてない。

冬真以外、誰一人として居ない空間。

虚しい沈黙の後、冬真は静かに資料を拾い上げて、最後の項目に目を通す。


「あ? これは……選抜基準? 第一に……」


 そこにはこの特殊任務における人材の選抜基準が記載されていた。

内容に対して、冬真は目を細める。

何か不可解な事は書いてはいないか、慎重になっていた。


・第一に如何なる場合においても、本部長の直接的な捜査参入は認められない。

・第二に本捜査は、日本幻影犯罪対策室「JP’s(ジプス)」の独断捜査に依るもので、最優先事項として国際問題は防がなくてはならない。隠密行動厳守の為、原則一名での捜査となる。

・第三に対象者は、本部長が最も信頼するに値する人物である事。具体的には下記の項目を十分に満たす者である。


 冷静かつ迅速な判断力と行動力、正確性、機密事項の内密厳守力、非常時における対処能力(対人戦闘)、空間認識能力、交渉力。


「へぇ、成る程な」


 これらの項目で多く当てはまっていたのが俺だったワケか。

選抜された理由は分かったが、それとこれは別問題だ。

正直なところ、冬真は未だに納得できずにいた。


 ――そう言えば名護は確か、冬真には丁度良い仕事だと言っていた。


ならば相応の額を請求しても文句は言えない筈だ。

冬真はそう考えた。

そうと決まれば何としても仕事を完遂させる必要がある。

体を万全の状態にするべく、帰宅して体を休める事にした。

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