10:鏡の世界へ「V」
「ええ、残念ながら。ですからお願いしたいのです。稀人でもない人間がヴェリタスに迷い込む原因と「滅び」が早まる原因の調査を――」
本当かどうかは判りかねるが、この問題は冬真と華の二人でどうこう出来る問題でも無い。
簡単に二つ返事するには、あまりにもリスクが高過ぎる。
冬真が顎に手を当てて考え始めた矢先、華が唐突に手を上げた。
「良かよー! あたし達がその稀人? に選ばれたのも何かの縁なんだしさ」
「お前、簡単に言うけど……アテは?」
「ん? ……無い。どげんする?」
華はおどけた顔をこちらに向けてくる。
何か案を出せとでも言いた気だが、当然冬真には何も考えが浮かぶ筈が無い。
だから、もう少し冬真は考えたかったのだが。
――この女、余計な事を。
冬真は内心、舌打ちをする。
「ちょっと横になって良か?」
言うが早いか、華が畳の上にゴロンと寝そべった。いつの間にか顔色は、あまり良いモノでは無くなっている。
どうやら冬真同様に疲労が見られたみたいだ。
「それでしたら今日はもう解散にしましょう。稀人であってもヴェリタスは比較的疲れが溜まり易い場所ですから。帰る時は必ず入った場所からお願いします。それ以外は全く別の場所に出てしまいますから。それでは、また今度来て下さいネ」
そこへアリアンロッドが気を利かせたのか、帰るように促した。
言われるがまま、テレビのフレームを掴んで画面に向かって体を捻じ込む華。
彼女の姿が消えてから、冬真も後に続く事にする。
◇ ◇ ◇
現実世界へと戻った冬真達は、その場に倒れるように二人して横になった。
と言うのも、戻ったその瞬間に倦怠感がどっと押し寄せてきたからだ。
華の顔色があまり優れていないので冬真は暫くの間、彼女の体を休ませてから入口の門まで送る事にした。
空を見ると既に太陽は西に傾いていて、町をオレンジ色に染めている。随分と時間が経ったようだ。
「じゃあ、また学校で!」
手を振って別れを告げる華が見えなくなるまで表に立っていると、背後から嫌な視線を感じる。
「へぇ、帰って来とるって聞いとったけど、早速女を落とそうってや? しかもまさかの華! ははっ、恐れ入るわ」
冬真が後ろを振り向くと、同学年くらいのチャラけた少年が何やら気持ちの悪い笑顔を向けていた。
同じ制服なので、どうやら高校は冬真と同じらしい。
「あ? お前、誰?」
冬真がそう言うと、男子生徒は呆気に取られたように眉毛をハの字に向けた。
そういう反応をされても冬真には記憶が無いのだから困ってしまう。
「本気かよ、覚えてねぇの? マジ? 俺だよ、俺。幸村恭平」
「知らねぇ。……じゃあな」
「ちょ、待てよ! 久々に会ったのに連れ無ぇな! ん~ッ! まぁいいや。また明日な?」
そう言うと少し寂しそうに幸村という少年は渋々帰って行く。
冬真も部屋に帰って荷解き作業に掛かるのだった。
第1話:鏡の世界へ「Veritas」 了