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浸喰のヴェリタス -破滅の未来ー  作者: フィンブル
第1話:鏡の世界へ「V」
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01:プロローグ

 ――西暦2012年


「総ッッ監~! 閲覧室入室許可のサインを下さい!」


 警視庁本部の最上階の一角。

いきなり扉が開き、焦げ茶色のスーツ姿の若い女性が勢いよく部屋に入ってきた。

肩より少し長い髪を後ろで一つに束ね、赤いシュシュで結っている。

スリムな体型で、背の高い彼女は机に方手をついて書類を差し出し、ニッコリと笑みを浮かべた。


「ん? 別に構わんが……。一体、何を調べる気だ?」


 席に座り山積みされた書類に一枚ずつ目を通してした人物は、一旦作業を止めて声の方へと顔を上げる。

その人は五十歳代の男性で、年齢相応の身なりをしていた。

苦労をしているのか頭髪は白髪が多く短髪、体型はお世辞にも健康体とは言い(がた)く若干太め。

彼はここ――警視庁の(おさ)。つまりは警視総監だ。

そんな彼は質問に対し「またか……」とでも言いた気に顔をしかめる。


「!? え~っとぉ、言わなくちゃダメ、ですか?」


 そんな事はお構い無しと、対する彼女は上目使いで更に攻めたてる。

目をパチクリと瞬きさせる様は魅力的な彼女を更に引き立て、同年代の多くの男性を虜にしただろう。


「ダメとは言っていないが、上司なのだから訊く権利くらいあるだろう? と言うよりも、だ。その程度の申請くらい警視総監執務室(ここ)まで来る必要なんて無かったんじゃないのか?」


 彼女の言動に対してやや納得のいかない警視総監殿は訝しげな視線を送る。

が、受け取った書面にはしっかりと署名を済ます。

伯父と言う立場である、彼なりの優しさだろうか。


「だ、だって……ほら、敷宮総監の顔が見たかったから……ですかね?」


 取り繕い、焦りを隠せていないのは昔から変わらないな。

彼には直ぐに冗談だと解り、内心苦笑いを浮かべながら書類を彼女へと返した。


「なに言ってんだ、まったく。……ん? もしかして、また今から探偵気取りでも始めるのか!? 勤務時間中だぞ? 分かっているのか?」

「ちょっとぉ、分かってますって! でも「気取り」はあんまりですよ。ちゃんと捜査をしているんですから!」

「……いいからさっさと仕事に戻れ」


 必死の弁明は空しく、勿論ジト目で話を聞いていた警視総監――敷宮光秋は冗談と感じたらしい。

手をひらひらと振って軽くあしらい、早く部屋を出て行くよう促した。


「うぁ~い。あ、そう言えば今日……でしたっけ? 冬真の入学式」

「あぁ、そうだな」


 敷宮はその事(・・)には触れて欲しくは無かったようで声色が若干落ちた。

大事な息子の門出を直接祝ってやれない事が、心へと深く突き刺さったのだろう。


「あの冬真がもう高校デビューですかぁ。あ~あ、なんか一気に老けた気がする。お姉さんショックだなぁ。てか敷宮総監、式に行かなくても良かったんですか?」

「お前も分かる筈だが? 休みが取れないんだ。済まないとは思っているがな」


 ため息にも似た声で敷宮は言う。

最早、遣る瀬無さが滲んでいた。


「行きたくても行けない、か。なんか済みません。そ、それじゃ坂本真琴、職場に戻ります!」


 冗談混じりに彼女はビシッとした敬礼を敷宮に向けて、そそくさと部屋を後にする。

自分で「地雷」を踏んだにも拘らず、虫の居所が悪くなってしまったからだ。


「あんまり危険な事に首を突っ込むなよォ! って、聞いてないな、ありゃ……」


 駆け足で部屋から出て行く真琴に声をかけたつもりだったが、どうやら声は届かなかったようだ。



◇ ◇ ◇

 部屋を出た坂本真琴は、さっき許可を得た地下の閲覧室へとやって来た。

中に入ると普通ならば、綿ぼこりとカビの臭いが鼻を刺すのだが彼女は違う。

部屋に入る前に自前の(立体型の)マスクを装着していたのだ。

備えがいいのは、以前にも「ここ」に何度も足を運んだ事があるから。


「えっと、ミ行、ミ行……あ、あった! (かなえ)鍾乳洞集団失踪事件(未)の記録書」


 インデックスを目印に私は事件資料を見付けると手に取り、じっくり目を通す。


「えっと、1990年8月。静岡県鼎市の鍾乳洞に学校行事で訪れていた保護者36名、子供41名、計77名の姿が消えていた事が同月2日に判明する。翌日3日、これを集団失踪事件とみて捜査本部を同市に設置して捜査を進めた。調べに()ると事件発生は先月7月29日の深夜22時から翌日の明朝2時の間と判明。しかし捜査は難航し、翌年1991年1月29日に捜査は打ち切りの判断が下された。なお本項の詳細は次頁に――であった、か」


 真琴は肩を竦めた。

それは彼女が、事件の大方の予想が出来てしまったからだ。


「こりゃ迷宮入りになるのも分かるわ。完全に人間業じゃないもの。恐らくこれもヤツらの仕業ね……」


 真琴は携帯電話のカメラで記録簿の写真を撮り、元の棚に戻すと閲覧室を後にした。

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